第九話「誰かの視点①」
――今日も五時まで、銃声は鳴り続ける。
※ ※ ※
「准尉」
「はい?」
「嬉しい知らせです。貴官が以前より具申していた
「本当ですか?」
「ええ。戦闘ヘリ2機、及び多用途戦闘機2機による機関銃掃射、ならびに対地誘導弾による支援。貴官の担当するエリアには本日ヒトサンマルマルに攻撃を開始する予定になっています」
「……随分、急ですね」
「何時戦況が変わるか分からない。敵軍に航空戦力が認められない今の段階で先手を打つべき。
「確かにそうですが」
「苦労しましたよ。通信回線も民間の物に偽装して、日付が変わるまで交渉を重ねましたから」
「あ、もしかして昨日の電話って――」
「ふふ。差し当たり各分隊長にはFACを務めていただきます」
「FAC?」
「前線航空管制、敵味方入り乱れる戦場に航空支援を投入する場合、
「発煙弾頭……ロケット弾ですか」
「はい。扱いについては問題ないと思いますが、今回携行させるランチャーに付属するサイトの性質上、発射の際フェイスマスク、およびヘルメットは脱ぐ必要があります」
「……」
「危険を強いる重責ですが、支援が効果を発揮すれば、一気に戦局をこちらに傾ける事が出来ます。貴官の実績と能力を見込んでの事です。部下の為、隊の為、一瞬の危険を負っていただけますか」
「……」
「准尉?」
「……了解です」
「決断に感謝します。恐れるべきは狙撃、特に例の狙撃手が遅滞戦闘を展開するあのポイントです。そこで、当該エリアは次回の支援に回し、先に別方面の戦力を削ります。貴官は後に指示するポイントに分隊を展開してください。通達は以上になります」
「了解!それでは、失礼いたします」
「……幸運を」
※ ※ ※
「――以上が傍受した通信の内容だ。二人には他の狙撃班と協力し、各エリアのFACを狙撃してもらいたい」
「はっ、戦場でメット取るとか正気かよ」
「ブリーフィングの最中くらい、軽口は慎んでほしいものだな」
「はっ!申し訳ありません、中佐」
「まあいい……細かい分配は後で通達するとして、特にこのポイントにおいては、戦力の損耗は絶対に避けなければならない。そこで、官民問わず最も腕の立つ君の出番、というわけだ」
「おっ?良かったな、直々のご指名だぜ?これが成功すりゃもう反省文の山とは――」
「二尉」
「もーしわけございません」
「緊張を解くためとはいえ、いちいち話の腰を折るな……やれるか?準陸尉」
「固くなんなよ。俺がついて――」
「はい」
「……いい返事だ」
「意外と、肝が据わってんだな……驚きだわ」
「よし、下がっていいぞ。幸運を祈る」
「それでは、失礼いたします」
「失礼しま――」
「二尉、君は少し残れ」
「うへ、説教ですか」
「違う。後からすぐに追いつかせる。先に投薬に向かっていてくれ、準陸尉」
「はい」
※ ※ ※
「彼といる時は常にあの態度だな。仮面を付け続けるのは辛くないか」
「皮肉は聞き流します……昨日の話の続き、ですか」
「そうだ。彼が身に付けさせたあれは音声しか拾えんでな」
「……?」
「ヒトサンマルマルに指定する狙撃目標。それを撃つ前後の反応を見て、報告して欲しい」
「反応……?意味を伺っても?」
「私は考える役、君達は動く役だ。責はすべて私が負う。それでも意味を訊ねる必要が?」
「話す気はない、と」
「必要がないだけだ」
「……随分、タイミング良く決定的な情報を傍受したもんですね?まるで試す場を設えているみたいだ。それに、CASを阻止するならば、こちらも航空戦力を展開すればよいだけでは」
「私とて、上の考えている事を全て理解しているわけでは無いよ」
「まさか、あれっぽちの反戦姿勢で、あいつを処断する訳では」
「余計な気を回す必要はない。彼の卓越した腕は部隊において確かな価値を持つ。私とてそこまで愚かではないつもりだ」
「……俺は兵士です。命令には従います。ですがそれは、俺たちの国に住む人の暮らしを守るためだ。幾ら腕が立つって言ってもあいつは臨時徴兵、あくまで民間人の延長です。となれば当然、その中に含まれる。含んでいる」
「歳の割に、青い事を言うじゃないか」
「なんとでも。この戦いにおける
「それならば心配はいらない。早期決着に繋がる肝要な作戦行動の一環と取ってもらって構わんよ。加えて言うならば、この作戦で彼が命の危機にさらされる事も無い。確約しよう」
「不当な命令と判断した場合、拒否権が存在することもお忘れなく」
「なるほど、少なくとも今は不当と判断されずに済んだわけだ」
「……相変わらずの狸ぶりですね」
「上に立つと自然と、こういった小手先の業が身に付くものさ」
「もう行きます。随分と待たせているので」
「ああ。先の件、忘れるなよ」
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