SUSHIポリス

綿貫むじな

SUSHIポリス

「サビ抜きの寿司を提供した罪でこの店の営業は一か月停止とする!」


「待ってくれ! 出来心だったんだ!!」


「我々は一週間に及ぶ潜入調査で貴店が毎日サビ抜きの寿司を注文を受けることなくレーンに流しているのを確認している。寿司法令第十二条、サビ抜きの寿司は注文を受けてから作るという法律に違反している!」


 騒然とする昼の回転寿司店内。

 スーツを着た男の手には寿司警察が持つ手帳が燦然と輝いていた。


 寿司警察。

 世界の食文化として定着した寿司は、あまりにも形を変え、もはや寿司と呼べるものなのかどうか議論されるものまで現れた。

 日本政府は寿司文化を守るために、寿司とはどういう物かを人々に改めて教育する為に新たに創設されたのが寿司警察なのだ。

 世界に羽ばたくSUSHIポリスは今や子供の憧れの職業であり、志願する者は後を絶たない。


 そして今、回転寿司店長の両手に手錠が掛けられパトカーに乗せられる。

 寿司法令に違反した者は容赦なく寿司刑務所に連れられ、そこで寿司に関する再研修を受けねばならない。仕事で携わる者ならば長期の研修は避けられない。

 

 寿司警察の松葉は煙草を吸いながら空を見上げていた。

 寿司法令を違反し捕まる人々は後を絶たない。

 寿司法令の教育はしっかり小中高で行われているにも関わらず。

 捕まる人々の大半は寿司職人である事もまた頭痛の種だ。

 客の要望に応えるのは良い。しかし法令を違反しては寿司文化の衰退につながる。

 何故そんな簡単な事がわからないのか。

 

「……寿司法令、それ自体が時代にあっていないのではないか?」


 松葉の頭に一瞬、そんな考えがよぎった。

 

「いかんいかん。俺はそんな事を考える立場にないんだ」


 寿司法令を決めるのは御上の人々だ。

 刑事如きが考えてはならない。

 松葉が煙草の吸殻を携帯灰皿に入れた瞬間、松葉の前に刑事の一人が立った。


「松葉さん、あなた寿司法令に疑念を持ちましたね?」


 彼の手には冷たい金属の輪っかが輝いていた。

 

 

 

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SUSHIポリス 綿貫むじな @DRtanuki

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