第2話 ただの部活のはずだった
俺は一瞬自分の目を疑った。
そりゃそうだ。あの金持ちお嬢様のはずのこんなほこりくさい部屋に入ってきたのだから。
「あなた、ここの部員かしら?もしそうなのだとしたらこの部に入部したいのだけれど。」
今度は自分の耳を疑った。しかし聞き返す訳にもいかないので、自分の耳を信じることにした。
「いえ、自分は一年生でこの部活の入部希望者です。」
お見事。さすがに慣れない女性相手だと一人称すら変わってしまった。
「そう。」
そう言って近くにあった椅子に腰掛けてスマホをいじりはじめた。
家柄は違っても暇になったらすることはおなじなのだと少しほっとした。
それにしても、こんな部活にもほこりっぽい部屋にも無縁そうに見える彼女がこの部の入部を希望したのだろう。
俺は若干ひきこもっていたが、別にコミュ障という訳ではない。なので、この場合は何か話しかけるべきだと思う。
「あの~・・・」
いつのまにか彼女はイヤホンをしていた。話しかけるなオーラしか感じられなかったので俺は話しかけるのをやめた。
その瞬間、こちらを一瞬にらみつけてきた。恐ろしすぎる。次、話しかけたら殺すわよといわんばかりの顔だ。
俺は基本的に話すことが嫌いだ。別に苦手ではない。しかし、こんな人間相手に無理に話そうとは天地がひっくりかえってもありえない。
関わらないようにしようと決めた。
数分後、いきなり彼女は何かを見つけたような顔をして立ち上がり、前にあったゲームのハードやソフトを荒らし始めた。
なんだなんだ、次はいったい何をするんだ。
彼女が収納ボックスに入っているハードを荒らしてるとちらほらと見覚えのあるハードが見えた。
俺が毎日使っている最新型のハードだ。
フォルムから性能まで文句なしのハードだが、値段に文句ありの最新機種だ。
俺もあれを買うときはいきなり懐が寒くなったのを覚えている。
しかし、こんなわけのわからん部活にもそんな費用を回せるなんてどんだけ金持ちなんだこの学校は。
ガサゴソとハードの山を荒らしている彼女がその山の中から一つのハードを持ち出した。
先ほど説明したハードだった。さすがにお目が高い。
それにしても荒らしてるのではなく、探してたんだな。
ついでにソフトの方も荒らしてたようで格闘ゲームのソフトを持ち出していた。
それは俺が相方とやり込んだ格闘ゲームだった。
このゲームは一つのアクションをするために五つ程コマンドを打たないと技が発動しない。
かなり上級者向けのソフトだった。
適当に取り出したんだろうが、残念だな。
初心者にありがちな適当にボタンポチポチすればキャラが勝手に動くなんてこのゲームには通用しない。
・・・・・・・・・!?
ありえない。ありえない。ありえない。
なんで普通に戦えてるんだ!?
正直驚きだった。
こんなゲームには一生無縁な美少女がカチャカチャと手慣れた手つきでキャラを操作しているのである。
しかもなかなかの腕である。
これは俺に対する挑発とみるべきかな。
「ねぇ、君すごいね。このゲームできる人ってなかなかいないのだけど。結構ゲームするのかな?」
「・・・・・・・・・」
終始無言であった。
正直、自分が得意なゲームを前にしてプレイできないのは我慢ならなかった。
そこで俺も挑発することにした。
「俺と対戦してみない?」
「あんたにできんの?」
即答された。つらい。話したくない。が、こんなことではめげない。
「少しだけだけどね。君ほどじゃないかもしれないけど。」
「ふーん。ならやってみせてよ。」
そういって格闘ゲーム用のコントローラーを手渡してきたのだが俺はそれを無視し、ハードの山から一般的なコントローラーを取り出した。
「・・・それで出来るの?」
予想通りの質問が飛んできた。
五回もボタンを押さなければならないこのゲームにおいて複数のボタンを連打するのには特化していない一般的なコントローラーは不利なのである。
「まぁね。こっちの方が慣れてるから。」
本当は寝ながらゲームしてるからこれしか使えないなんて言えねー。
そんなことを考えながらセッティングして、準備がととのった。
俺はこの格闘ゲームをなかなかやりこんだので得意な連続技をいくつか持っている。
それを駆使してこてんぱんにしてやろうと考えていた。
しかしプレイ中にとてつもない違和感が俺を襲ってきた。
なんだか家でこのゲームをプレイしているときと同じ感じがする。
その違和感を探っているとふと隣に座っている彼女に目がいった。
やはり。彼女もなにか違和感を感じていた。
その違和感は結局最後までわからず試合は終わった。
・・・。
「「もう一回やらない?」」
二人とも考えていることは同じなのであろう。声が重なった。
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結局、先輩方は来ないし何度プレイしてもあの違和感に気づくこともできず納得のいかないまま家路についた。
そしていつものように夜中までゲームをしようと思い。電源をつけた。
今日は相方と格闘ゲームをする日である。
相手が来るのをご飯を食べながら待っていると相方がログインをした。
いつものように最初は二人とも本気のぶつかり合いをした。
しかし、始まって数秒しか経っていないのに強烈なデジャブを感じた。
今日は今が初めてゲームをするはずなのに同じ戦闘風景をついさっきまで見てたような感じがする。
いや、それはそうだろう、いつも同じ相手と戦っているのだから。と思いプレイを続行しようとした。
その瞬間だった。今日学校でプレイしたときの彼女の癖と今の相方の癖が全く同じなのである。
俺は今世紀最大の気づいてはいけない事に気づいてしまったのである。
思わずコントローラーを落としてしまった。
俺が操作していたキャラクターの動きが止まった。
もちろん、キャラの動きが止まったのは俺だけではなかった。
ゲーム部の紅一点 いろは。 @Masax
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