ゲーム部の紅一点
いろは。
第1話 いつもの日常のはずだった
「ご入学おめでとうございまーす」
校門の前に並んだ教職員達がまるでロボットのように同じ言葉を繰り返していた。
そう、今日俺、加藤 夏樹はこの京涼高校に入学するのである。
校門を過ぎると中庭でなにやら人が騒いでいる。
「入学式前だってのにやけにさわがしいなぁ、あの群れは一体なんだ?」
「お前。知らねーのか?最近この地域に引っ越してきた素封家のご令嬢じゃねーか。
確か名前は、竹田 楓だったな。」
そう答えたのは俺の中学からの友人である立木 司である。
こいつと俺とでは正反対で司はバリバリのスポーツマンで中学ではサッカー部の主将まで務めていた程だ。
しかしそう言われるとこの地域に金持ちが居るのやら来るのやらよくわからないことを中学の奴らが言っていた気がする。
それになぜかその娘は周りの人々に対しておどおどしているような印象を受ける。
「しかし、そんなに騒ぐ程なのか?あの人の群れに囲まれてる女子生徒が有名ってわけでもないだろう?」
「そりゃそうだ。この歳で金持ちになれるはずがない。それにただの金持ちの娘ってだけじゃないんだぜ。」
なんだか全てを知っているような目でこちらを見てくる。決してその娘に興味があるわけではないが、とてもうざい。
「それで、15歳の少女一人に金持ちの娘って以外のステータスがあるのか?」
俺にとっては純粋な疑問だった。
「あめぇ!!それだからお前には女のひとつもよってこねぇんだよ。」
とてもうるさかった。それだけだった。
「あのなぁ、この世は金だけで出来てる訳じゃないんだぜ。例えば・・・・」
「そんなことには興味はない。とりあえず話を戻せ。」
「そういわれると思ったよ。あの娘はこの高校の入学試験をトップで通過し、
顔立ちもスタイルも抜群に良い。それにあの優しさだぜ?男女問わず寄ってくるだろうよ。」
つまり成績優秀で八方美人らしい。
「確かこの学校ってそんなにバカじゃなかったよなあ?」
「偏差値は知らないが、進学校ってやつには間違いないな。」
家から最も近い学校という不純な動機で選んだったのだが、進学校だったのか、ここ。
そんなことはともかく自分のクラスと司のクラスを確認した。
「とりあえずクラスは同じみたいだな。」
「そうだな。これからもよろしくな!」
「あぁ、よろしく。」
そう言って人混みの中をくぐりぬけ自分達の教室へ向かった。
教室に入ってすぐに目に止まった人物が居た。悪魔の幼馴染である花田 梨花。
名前も頭もお花畑である。
「なつきーーーーーー!!」
そういって俺の前に走り寄って来たが、うるさいとてもうざい。
この世に存在してはならないうるさいうざい幼馴染の三拍子が揃った人物なんぞこの世に
こいつしかいないだろう。最初の頭文字が全て母音なのでTPPとかTPOとかそんな略語にしづらいのが残念ではある。
「かずやもこの高校だったんだねー。まぁ知ってたんだけど~」
知っている理由を聞いて欲しそうにしているので聞いてみる。
「どこで知った?」
「お母さんから聞いたの!」
なんと、母親から聞いたことをあたかも自分が仕入れた情報のように自慢げに話して、且つなんの特殊性も感じられない方法で。。。と、ツッコミを入れたいところは山ほどあるが無視しておこう。さては、俺の母親が情報を漏らしたな?この学校に進学することは誰にも言っていないし、知るルートとしてはママ友つながりしかありえない。
「そ、そうか。それはよかったな。」
昔から変わっていない。相変わらずの騒がしさでバカで派手で何を考えてるかわからんやつだ。
そんなたわいもない話をしているうちに担任の教師らしき人がやってきた。
というか担任の教師だった。
「はーい。みんな席に着いてるね~。私はこのクラスを担当する花田 凛花です。これから一年間よろしくね~」
出た。思わず心の中で言ってしまった。この人。。。うちの担任はまぎれもなく梨花の姉である。これまた不思議なことで妹とは違い、同じ花でも姉の方の花は野に咲く一輪の花とか、
嶺上開花とかそういう花である。妹とは違い清楚で頭も良く、同じ血が流れてるとは思えない程である。
ホームルームが始まり、健康診断表とか時間割等の配布物が配られていた。
その中にこんな紙があった。
『部活動希望調査票と仮入部届である。』
俺は中学三年間帰宅部でずっと部屋にこもってはゲームばかりをしていた。
学校にも行きたくないほどだったが不登校はよくないと思い、最低限学校には行くようにしていた。
高校に入っても帰宅部のつもりだったが、俺の目を引く驚愕の部活があった。
『ゲーム部』である。
さすが自由な校風である私立。部活動でもその自由奔放な校風は浸透しているようだ。
「部活動見学は・・・明日か。行ってみるか。」
そんなこんなで入学式も終わり、今日も終わった。
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朝目が覚めて、いつものルーティーンで着替えと朝食を済まし、学校に向かう。
いつもと違うのは登校する道と制服だけである。
学校が近くなるにつれて自分と同じ制服をよく見かけるようになる。あたりまえのことだが、ひとつだけ違和感を覚えたのは入学して2日目だというのにもう既に二人で話しながら歩いていたり集団で登校したりしているのだ。
「どんだけフレンドリーな学校なんだよ。。。」
俺は思わず口に出してしまった。
ずっと一人でゲームばかりしていた俺には司しか友人らしい友人は居ないし、今のこの現状を見て一生かかってもついていけない世界だと実感した。
しかし現実などどうでもいいのだ。俺は中学三年間を無駄に浪費していた訳じゃない。
しっかりとゲームに時間を費やしていたのである。その中でも最も時間を費やしたゲーム。
『オンラインゲーム』である。俗にネトゲとかオンゲなどと言われているが、正式に言えば、
MMORPGである。そのゲームの最中一人の女性プレイヤーに出会った。彼女の腕は素晴らしく、当時始めたばかりだった俺はその女性プレイヤーに憧れを抱いた。それからというもの俺は少しでもその人と並んで戦えるようになりたくて必死にゲームをしていた。
そして始めて半年で一緒に遊べるレベルまで到達した。彼女も学生らしく、ゲームをプレイする時間帯が同じだったので、それからほとんどの時間を一緒にゲームをして過ごした。
ついには他のゲームまでも共に攻略をするようなコンビになっていった。
今でもずっとタッグを組んで様々なMMORPG等を攻略している。
俺にはそんなVR上ではあるが心強い相方がいるので、現実などどうでもいいのだ。
体力は自然に減っていくしコストもかかる。そんなクソゲーがあってたまるか。
そんなことをいつも登校中に考えていた。
教室に着き朝のホームルームが始まった。
俺の今日の楽しみはもちろん部活動見学である。学校に来て楽しいことがあるなんて今まででは考えられないことであったが、さすが高校。義務教育とは一味違う。
まぁしかし部活動見学は放課後の事だろうと気長に待つことにした。そのとき。
「では、この部活動活動場所を確認して希望の部活を見学して来てください~」
うちの担任がそう言った。ついに妹と同じお花畑になったのかとかと思ったが、時間割を見たら確かにそう表記してあった。
さすがに驚いた。一時間目からだとは思わなかった。後で確認すると今日は一日中部活動の見学で終わるらしい。しかも見学終了し、感想を書いた紙を提出さえすれば後は自由に下校して良いらしい。さすがにここまでくると自由奔放というよりかは放任主義といった方が適切であると思う。一瞬このまま帰ってやろうかと脳裏をよぎったが、感想が書けなくなるので、一つだけ見学したらそのまま帰る予定をたてた。
その後、俺とは正反対の司は見学する部活動が違うので、別れて見学することにした。
ゲーム部があるのは別棟の四階、それに一番奥だった。
さすがグレーゾーンギリギリの部活は活動場所もギリギリでいらっしゃる。
それにゲームをするためとはいえ四階まで階段で上るのはひきこもっていた俺からすると
相当の重労働である。
「失礼しまーす。」
そう言って扉を開けたが誰も居ない。
部屋を間違えたかな・・・。いや、ここで合ってるな。
帰ろうと一瞬思ったが、先輩方が来るまで部室内で待機することにした。
「静かだ。」
そう、ここの棟はほとんどが空き教室か物置らしいのだ。
それにここは四階。窓を開ければほこりが舞うことを我慢すればなかなかに気持ちいい風が吹く。
そんな静けさに足音が混ざった。
ようやく先輩方が来た。そう思った。
徐々に近づく足音。緊張した。挨拶をいろいろ考えていたら扉が開いた。
しかし、そこには入学式で人に囲まれていたあの美少女が立っていた。
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