黒金カウンセリング終了

腕から流れ落ちる黒金の温かい血液。嘘だ、こんなのって、あんまりだ。黒金はいつだって自分を犠牲にして、妹や、子猫や、僕のことを優先して。こんなきつい人生で終わっていいはずがない。黒金は、絶対に、絶対に、こんなことで死んじゃいけないんだ。


「こんなことでお前が死ぬはずないだろう!!早く、目を開けてくれよ。目を開けて言霊の力で傷を治してくれよ。」と僕は祈るようにギュッと目を閉じた。


ゴホッゴホッとせき込む音が聞こえる。黒金が動いた。「く、黒金?大丈夫か?」あわてて目を開けて声をかける。

「ああ・・・大丈夫、気持ちよく・・・眠れると思ったのに・・・お前の声は本当によく聞こえる。ありがとな。これぐらいの傷なら、すぐ治る。」


黒金がそういうと、昨日の夜のように淡い光が黒金の傷を覆い始める。


「やれやれ、どうなることかと思ったが、皆無事のようじゃな。」


良かった。ホッとして全身の力が抜ける。

ふにゃふにゃとなった僕の指にチクっとした痛みを感じる。


「いてて。」痛覚の原因を確かめると、小さな黒猫が僕の指を嚙んでいた。


「猫!!」目を輝かせた黒金が子猫を抱き上げる。僕を攻撃してきた子猫は、黒金には懐いているようだった。

苦慮豹は倒したはずなのに、それに、元々子猫は死んでしまっていたはずなのに、どうしてだろう?


「パク、これって、どういう?」


「こいつはお主の苦慮豹じゃよ。フワフワ頭。」


「僕の苦慮豹?」


「あの状況で、能力を解放するとは、やはりお主は儂が見込んだ男じゃな。黒眼鏡が死んでしまうと思ったお主の中に生まれたストレスが、言霊の力を解放したんじゃよ。お主は言霊を使ったはずじゃ。『目を開けて傷を治せ』とな。その小さな苦慮豹からも推測されるように、お主の言霊にはさほど力はない。しかし、目を開けて声を出させる程度のことは可能だったようじゃの。」


「僕が、言霊を?じゃあ、こいつは俺のストレスの分身なのか?全然懐いてないけれど。」

黒金は本当に嬉しそうに子猫とじゃれあっている。子猫も嬉しそうに黒金に甘えているようだ。

そこに手を伸ばして、黒猫の頭をなでようとすると、またしても噛みつかれてしまった。


「当然じゃな。具現化されたストレスは、その主を殺そうとするものじゃ。まあ、その程度の小さな猫は、脅威でもなんでもないがの。」


「そういうもんなのか。てことはこれで一件落着か?って、あれ?蝶野さんは?なんだかものすごいパワーで苦慮豹を殴り倒していたけれど・・・。」

周囲を見回してみるが、蝶野さんの姿はない。


「ああ、あの小娘なら先に下山しよったわ。何やら様子がおかしかったようじゃが、しっかりとした足取りで歩いておったから大丈夫じゃろう。あれほど強ければ夜道で襲われることもないじゃろうしの。」


「よしっ!じゃあ、俺らも帰るか!」

黒金が立ち上がる。ある程度傷口は塞がったのだろうか、出血はほとんどおさまっているようだった。


「あ、ああ、そうだな。よっととと。」僕は立ち上がろうとしたが、足に力が入らず倒れ込んでしまった。

黒金に手を引かれて抱き上げられる。


「今回は世話になったからな。おぶってやる。」


「お前の方が重傷だったはずなのに、申し訳ないよ。」


「いいからいいから。いつまでもこんなとこにいるわけにはいかないだろ。」

黒金に誘導されるまま、おぶってもらう。

黒金が歩くたびに身体が揺れ、一歩一歩の力強さを感じることができた。もし、黒金に彼女ができたら、その女性はずっとこんな風に守ってもらえるのだろうな。俺も、もっと頼りがいのある男にならなくっちゃな。なんてことを思う。


「なあ、俺たちって、ほかの人から見たらなんて思われるんだろうな。」


黒金がポツリと言う。血まみれの道着姿の高校生が、同じく血まみれのジャージ姿の高校生をおんぶして歩いている。しかもその方には小さな黒猫、頭には象のぬいぐるみである。警察が見かけたら即職務質問されるだろう。


どちらからともなく笑いがこみ上げる。


「なあ黒金、僕はお前におぶってもらった恩を返したいと思っているんだ。どういう風に返していけばいい?」


「待ってました。それじゃあ、俺をしばらくお前のところに泊めてくれ」


「それは、最初っからそのつもりだから、恩を返したことにはならないだろう。」


「それじゃあ、子猫付きってことで。」


「それで、手をうとうか。」


「張間、俺さ、妹のこと諦めないよ。いつかまた話ができる日が来るって信じることにする。」


「ああ。」


僕らはそんな会話をしながら帰宅した。

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青春カウンセリングバトル しゃちほこ眼鏡 @shachihokomegane

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