カルフォルニア・ロール

圭琴子

カルフォルニア・ロール

「レナ、今日は何が食いたい?」


「スシバーに行ってみたい!」


 常ならぬ意外なリクエストに、ジョニーは不思議そうに尋ねた。


「スシバー? 何でまた、急に」


「この間ダンが、デートで行ったらエキゾチックでウケが良かった、って話してたの。カルフォルニア・ロールがお勧めだって言ってたわ」


 期待に声を弾ませるレナに、ジョニーは俄然やる気になった。


「よっしゃ。じゃあ、今日は奮発してやる。どうせ行くなら、高級なトコ行こうぜ」


 レストランガイドを立ち読みし、ポップで安いと評判のスシバーを幾つも見付けたが、二人は敢えて『本格的な一流店』と紹介されていた一軒を選んだ。


 シンプルな店内はカウンター席しかなく、その内側に店主が一人、黙々とスシを握っている。席につくと、スッと二人の前にスシが二つ並べられた。ライスの上に、赤い生魚の切り身が乗っている。


「まだ頼んでないぜ?」


「ウチは、お任せなんでね」


「あの、カルフォルニア・ロールが食べたいんですけど……」


 途端、店主の顔色が変わった。


「かるふぉるにあだぁ!? あんなモン、寿司じゃねぇ! 店を間違まちげぇたようだな、アンタら! ぇれぇれ!!」


 大声でなじられ、二人は何も腹に入れられないまま、追い立てられるように店を出た。


「お腹空いた……」


 ぐー。押さえた掌の下で、レナの腹が鳴った。


「カルフォルニア・ロール……」


「分かった。俺が作ってやる」


「ホントに?」


 顔を輝かせるレナに、ジョニーは気を良くして、ニヤリと片頬を上げた。


「ああ。代金はたっぷり払って貰うけどな」


「ええ?」


「身体で」


「なっ……!」


 レナが言葉を失っている間に、ジョニーは携帯で手早くダンにカルフォルニア・ロールの何たるかを聞き出した。


「さ、材料買って帰るぞレナ。……俺も早くお前が食いたい」


「ジョニー!」


 いつまでもこの手の冗談に慣れず頬を染めるレナの手を引き、ジョニーはくつくつと笑いながら、言葉通り家路を急ぎ始めた。


End.

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カルフォルニア・ロール 圭琴子 @nijiiro365

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