寿司擬人化計画

阿井上夫

寿司擬人化計画

「これは――あわびです」


 会議室にやけに響く声で彼女がそう言い切った瞬間、全国寿司協同組合が企画した「寿司擬人化計画コンテスト」の審査会場は静まり返った。

 場内には、

 カッパ――そのものずばり。

 いくら――そのものずばり。

 という、ひねりのない人形が並んでおり、コンテストの行方を悲観させていたが、その一角にあって「あわび」だけが異彩を放っていることに、既に審査委員全員が気づいていた。

 その上での彼女の発言である。

「その、他のものではないのだな」

「はい、これは『あわび』です」

 彼らの目の前には、黒い海苔がラッパ状に巻かれた女の子のフィギュアがある。つまり、海苔の下は、その、なんだ、「あれ」になっているということになる。

「その、何度も言うようで申し訳ないのだが――」

「まぎれもなく『あ・わ・び』です」

 彼女は念を押すように区切りながら言い、審査員全員が唾を飲み込んだ。

 そして、ここで審査委員長が重要な発言をする。

「……では、その『あわび』を手にとって拝見しても構わないかな」

 その審査委員長の勇気に、会場内の空気がにわかに緊張した、その時、

「もちろんです。応募作品ですから。ただ――」

 彼女はにっこりと笑って、こう言った。


「下から覗くのはやめて下さい。コンテストの倫理規定に抵触します」


( 終わり )

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