約束の地

太刀川るい

約束の地

人類が築き上げた文明が滅び、かつて東京と呼ばれた土地は荒れ果てた廃墟と化した。しかし、ツキジ市場はまだ移転できていなかった!


半分砂に埋れた巨大市場を朝日が照らし出す。と、そこにうごめく2つの影が見える。

「いいか、この市場はもうだめだ。維持できない。超古代文明の寿司マシーンもすでにシャリしか合成できなくなっている。

寿司が無くなれば俺達は終わりだ。だからよく聞け。お前はここから約束の地、トヨスに向かうのだ。

古文書の解読によるとトヨスはツキジの後継として作られた最新鋭の市場だそうだ。数世紀に渡るトヨスの浄化プロジェクトが成功していれば、清浄な世界があるはずだ」

兄貴分の言葉に若者は真剣な目で頷いた。

「さあ、ここは俺が食い止める。早く行くんだ!」その言葉が終わらないうちに追っ手がやってきた。ツキジの外に出てはならない。その禁を破った彼らを連れ戻しに来たのだ。自らを逃がすために犠牲になった兄貴分への思いを振り切って、若者はツキジの外に飛び出した。


大砂漠と化した東京を若者は行く。

かろうじて残っていた橋をつかいスミダを超え、大回りをしながらトヨスを目指す。

なんとか作成した粗末な筏で、海流の早い水路を抜けると、ようやっとその眼前に清潔感あふれる純白の建物が姿を表した。

間違いなくここだ。古代文明のテクノロジを注ぎ込み100%の安全と安心を実現した絶対無敵の食の殿堂、トヨスに間違いない。

浄化プロジェクトは成功しているのだろうか。胸を高鳴らせながら若者が足を踏み入れた時、致命的な光線がその胸を貫いた。

声を漏らす間もなく、若者は地面に崩れ落ちる。キチン質の体から乳白色の液体が漏れだした。

若者が最後に見たのは色あせた古代の掲示物だった。巨大な古代人の顔の下に古代文字が書かれている。

「トヨスは完全です。衛生害虫は全てシャットアウトされます」


次の文明の担い手は触覚を微かに動かしながら静かに息を引き取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

約束の地 太刀川るい @R_tachigawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ