Epoch

@iron_elbow

そして夜は明ける

「いいか。見てろよ。フゥゥーーーッ! ンオーーーッ! スアァァーーーッ!!」


目を血走らせながら全身を痙攣させる安田の右手から、艶やかに輝く白銀が溢れてくる。


「え、なにこれ。米だ」


もりもり、嗚呼もりもりと、奴の手のひらからは今も米が湧き出している。

その一粒一粒が、存在を主張するかのごとく立ちあがる。

なんということでしょう。不思議なものだなあ。


「いや、驚くにはまだ早い。食べてみな」


ぼくは、恐る恐るそれを手に取る。

ほんのりと淡い温かさ。

口に運べば、おや、これは。

鼻にすんと抜ける、白米らしからぬ酸味。


「……そう。酢飯だ」


ぼくの反応を見るや、安田は我が意を得たりと恍惚の表情を見せる。

生乾きの靴下を嗅がされたビーバーみたいな顔だ、と思う。

こんな顔を見たのは、駄菓子屋で買った二つのアメが両方当たりだった時以来である。

何故こいつは得意げなのだろう。その役に立たない自信が、ぼくは意外と嫌いじゃない。


だけど、そんなことは置いといて。




ならばそれは、きっと――運命だったのだろう。




「なあ、安田」


「なんだ? もう一口食べるか」


「ううん、そうじゃない。見てて」


ぼくはおもむろに手をかざし、波に揺蕩うように空間を滑らせる。

一度。二度。三度。

折り返すたび、その軌跡の上に、透き通ったしなやかなシルエットがするりするりと現れる。


「すげえ……」


安田が口をぼうと開け、切れ長の目をいっぱいに広げて仰ぎ見る。

この間買った無農薬のピーマンがちょうどこれに似ていた。

思えば、ミックス餅を手作りしてやった時もこんな面をしていたものだ。パターンが少ない。

しかしその心境は、今ならぼくにも少しわかる。



「イカ……じゃねえか……!」



そうだ。

これはぼくと安田の、いかのおすし。

こうも腐れ縁が続くのなら、もうどこへでも行ってやろう。



記念すべき二人の一貫目は、パック寿司の味がした。

寿司職人への道のりは遠い。

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