第4話 初戦闘と……。

「マサヨシ! 今だ!」

「せやぁ!」

 リリアの掛け声に合わせて、俺は導きの剣を魔物の体に突き立てる。

 二つの頭を持った小型犬のような魔物が、その攻撃によって息絶えた。

「よし、大分コツを掴めてきたようだな。さすが勇者だ」

「いやいや、これもみんなのおかげだよ」

 魔物を倒すたびにリリアが褒めてくれるが、これだけお膳立てしてくれれば、猿にでも同じことができるだろう。

 俺たちがいるのは街の外に広がっている草原だ。振り返ると、城壁に囲まれた街が見える。

 この世界には魔物<モンスター>がいる。

 彼らは人間を見ると襲い掛かってくる危険な生き物で、それを狩るのは冒険者の仕事だった。

 魔物は野生の動物に近い姿をしている。

 これは動物が何らかの形で魔石と呼ばれる石を取り込み、魔物になっているからだといわれている。

 俺からすれば「ゲームに出てくる敵」と考えればわかりやすかった。

 魔物は倒すと経験値が手に入るし、死骸は色々なアイテムや装備の材料にもなったりする。

 経験値は手に入れるとレベルが上がっていき、それにつれて冒険者は強くなっていく。

 ちなみに自分の強さは「ステータス」と頭の中で念じると、自分の視界に映すことができる。

 俺の現在のステータスはこんな感じだ。


名前:マサヨシ

職業:勇者

種族:人間(転生者 )

レベル:3

経験値:12/30

HP:20/20

MP:10/10

???:1000/9999

スキル:剣術、魔法、痛覚無効、誰からも愛される


 もっと詳しく見ようと思えばいろいろ見れるんだけど、平常時はこのくらいの情報量にしている。

 スキルは俺が女神様と出会った時に貰ったものがそのまま表示されていた。

 ただ、気になるのは「???」という項目だ。

 HPとMPはそれぞれ体力と魔力だった。これらは自分の体調次第で増えたり減ったりする。休めば上限まで回復する。

 だが、???は上がりも下がりもしない。もしかしたらレベルが上がっていけば何かわかるのかもしれない。


 ちなみにこの世界では他人のステータスを見ることはできない。なので俺の仲間たちは俺が転生者であることも、生まれ持ったチートスキル「誰からも愛される」の存在も知らない。

(まあ、別に言う必要はないだろう。俺は勇者なんだし、誰からも愛されるのは当たり前だ)


 実戦経験が乏しい俺のために、仲間たちは戦闘の練習をさせてくれた。

 さっきの頭が2つあったケルベロスもどきも、リリアが弱らせたうえでトドメを刺したのだ。

 何回か戦って、俺はレベルが3になった。レベルが上がるたびになんとなく強くなった気がする。

 実際、ステータスも少しずつ上がっていた。だが……。


「あー、またやっちゃったわぁ……」

 イーリスが残念そうに呟く。その視線の先には、一瞬で消し炭になった魔物の残滓が漂っている。

 魔法を使って魔物をおびき寄せようとしたのだが、彼女の魔法が強力すぎて、うっかり殺してしまうのだ。

「困ったわねぇ。これじゃ勇者様のレベル上げができないわぁ」

 彼女たちは非常に優秀だった。いや、優秀すぎた。彼女たちのレベルは俺よりも遥かに高いのだ。

 必然、俺のレベルに合わせた魔物が相手では、瞬殺もやむなしだった。

 だが、それはある意味で好都合だ。前世の俺は家でひたすらネットゲームをやっていた。

 故に知っているのだ。あの方法を。

「パワーレベリングをしよう」

 パワーレベリングとは、不特定多数のプレイヤーが同時にゲームをプレイするようなネットゲームにあるレベル上げの方法だ。

 敵を倒して経験値を手に入れる際、敵と自分の強さに差があればあるほど、多くの経験値が手に入る。

 だから単純に強大な敵を倒せばいいのだが、あまりにも差があると自分が殺されてしまう。

 それを解決するのがパワーレベリングだ。

 簡単に言うと、高レベルの仲間に助けてもらいながら、強敵を倒す。それだけだ。

「強い敵がいる場所へ向かおう。そこでさっさとレベルを上げて、魔王を倒そうぜ」

 そうだ。魔王退治に時間をかけるほどに、俺のハーレムライフは減っていくのだ。冒険の途中でも彼女たちとは楽しむつもりだが、やっぱり面倒事はさっさと終わらせてから、ゆっくりと愛を育みたいからな。

 俺の素晴らしい提案にみんなが頷く――リリアがやや不服そうにしているが、まあほうっておいて良いだろう。我ながら素晴らしいアイデアだ。 

「へぇ、今代の勇者は、そんな方法で魔王を倒す気なのかい?」

「ひゃぁ!?」

 突然耳元で聞こえた声に、俺は思わず飛び上がる。

 横を振り向くと、すぐそばに見知らぬ男が立っていた。

「強い仲間におんぶだっこしてもらうような勇者が、魔王に勝てるのかな?」

 男はそう言って、挑戦的な笑みを浮かべる。

 黒いローブに身を包み、すっぽりとかぶったフードで顔は見えない。

 ただ、そこから見える口は、あきらかに挑発的な笑みに歪んでいた。

「誰だよ、お前」

 イベントキャラか何かだろうか。テンプレ的に、冒険の始まりに他の冒険者が絡んでくるのは珍しい事じゃない。割とよくある展開だだろう。

「俺の名前を聞いたのか? お前は、俺の名を本当に聞きたいのか?」

 愉快そうな声音で男は言う。明らかにこちらをナメている口調にカチンときた。

「うるさい。俺はお前みたいなヘラヘラした奴がキライなんだよ。用がないなら消えろよ」

 俺が勇者であることが分かった上でのこの言動。何か思惑があるんだろうが、知ったことか。

「ハハ。さすがZ(ゼット)だな。懐が狭い上に、まるで勇者とは思えないような言葉だ」

「ゼット……?」

 この世界の言語は地球のものとは違う。

 でも、俺が喋り聞く言葉、読み書きする文字は自動的にこの世界のものに変わるようになっている。

 地球でなら「ゼット」はアルファベットの1文字だが、こちらでは何か違う意味があるのかもしれない。

 だが、それならその意味として俺には聞こえるはずだ。どういう事なのだろうか。

「あぁ、本人には見えないんだったな。かわいそうに」

 同情するようにそう言ったが、口は相変わらず笑っている。いちいち癇に障る奴だ。

 もう殺してしまおうかと思った時、俺たちの間にリリアが割って入ってきた。

「貴様。何者かは知らんが、勇者様を相手にこれ以上の狼藉は許さんぞ」

 腰の剣に手をかけながら、リリアは相手を睨みつける。

「おいおい、よしてくれよ。ザコ勇者はともかく、君とケンカをする気は――」

「私は、許さんと言った」

 男の喉元にリリアの剣が突きつけられていた。彼女の体から溢れ出る殺気に、後ろにいた俺さえもが怯んでしまう。

 だが、男の笑みは消えていない。両手を上に掲げ、非戦闘の意思を見せてはいるが、動揺している様子はなかった。

「やれやれ。俺は君たちを迎えに来たんだよ。リリア、イーリス、リト」

「なに?」「え?」「ふぇ?」「はぁ?」

 突然の謎の言葉に、俺たち一同は思わず固まってしまう。

「俺の名はロキ。ロキ・トリックスターだ。優秀な冒険者を仲間にしたくて世界を回っているところさ」

「ロキだと!?」

 リリアが驚きの声を上げる。俺も、何を言っていいかわからなくて、茫然としている。

 ロキ・トリックスター。

 それは俺たちが打倒すべき敵、魔王の名前だった。

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元勇者の断章〜その者は誰からも愛されて〜 みやのかや @kaya_miyano

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