第3話

「私も新人類としての能力が解放されているみたいなんですよね〜」そう言った、桐谷はアホみたいな顔をしたまま固まっている会長と俺を見て引き攣った笑顔を向けていた。


「そんな顔をしないでくださいよ〜。私だって驚いているんですからね〜」どこまでも呑気な声が、より一層と不安を掻き立てる。


「新人類として覚醒したって、お前大丈夫なのか?」


「大丈夫って、確かに頭がおかしくなったように見えるかもしれないですけど体の方に異常とかはないのですよ〜。ちょっといつもより体が軽いくらいですかね〜」また、軽い様子でいう桐谷は、ニコッとあざとい笑みを浮かべる。


「てことは、お前もアイツらみたいに何か能力が使えるのか?」単純に疑問に思っただけだ。


「それがイマイチ使い方がわからなくて色々と試して見たんですけど・・・・・・」申し訳なさそうな顔をしながら桐谷は答えた。


そして、桐谷の言った事から一つわかったことがある。

それは、俺ではなく一ノ瀬が口にした。


は、新人類として覚醒したから生き残ったのだな。」


ということは、一ノ瀬にも心当たりがあるのだろう。


そもそも生き残った理由など、あのイヴという少女に殺されかけた時にわかっていた。


しかし、それでも心のどこかで認めたくなかったのだろう自分が化物になってしまった事を。


一ノ瀬の言葉から、お通夜の様な重たい空気になり俺も桐谷も言葉を発した一ノ瀬さえも黙ってしまい誰も喋らなくなってしまった。


お通夜の様な・・・・・・そんなものでは、収まりきらないような数の人間がたった今日という一日で死んだ。


その中には、俺の知らない奴やクラスメイト、毎日下らない話で盛り上がった友人達、それらの死体を見ても何も感じなかったのは俺が既に人間ではなくなっていたからのだろうか?

もし仮に俺が、新人類として生き残らず人として死んだなら救われたのだろうか?


そんなどこまでも無意味で無価値な思考が頭でぐるぐると回り、俺の事を飲み込もう襲いかかってくる様に感じる。


人として死んでしまった方が楽だったかもな・・・・・・。


そんな考えになった矢先、生徒会室の扉が勢い良く開かれた。


生き残っている人を探しに行くと出ていった高杉たかすぎ 栄一えいいちだった。


息を切らしながら、高杉は言った。

「生き残った生徒を見つけた!!」


ーーー

高杉の後に続き、生き残りの生徒を見つけた場所に向かう。


向かう途中、また沢山の生徒の死体を見る事になったがなるべく見ないように前だけをみて走った。


五分とかからずついた場所は、体育館だった。


「体育館って人が一番いそうな場所だろ?なんで探しに来なかったんだ?」


やれやれと言った顔で高杉は答える。

「一番最初に探しに来たに決まっているだろ。でもその時には誰もいなかったんだ。」


そして、少し嫌そうな顔をして高杉は続けた。

「生き残りがいたのはいいが、一人厄介な奴がいる・・・・・・」


「厄介なやつ?それならもうここに・・・・・・」言い切った直後に、脇腹に鋭いエルボーが飛んでくる。


何事もなかったかのように、体育館の扉に手をかけ開けようとする一ノ瀬を高杉が慌てて止める。


「ちょっ・・・・・・ストップストップ厄介な奴がいるって言っただろ」


止めらた一ノ瀬は、汚物を見るような目でこちらをながら簡潔に言った。


「厄介な奴ならここにいるのでしょう

?」そう睨んでくる一ノ瀬の目は、俺を殺しそうな勢いだった。


「いや、そういう事ではなくてだな。中に矢畑やばた大慈だいじがいるだよ」


矢畑 大慈·····柔道有段者で今年も全日本選手権でベスト4に入っているかなりの実力者。

しかし、素行が悪くかなり悪い噂をよく耳にする。

高杉が厄介だと言ったのもの頷ける。


「俺が先に入るよ」そう言って俺は、体育館のドアを開けた。



ーーー

重々しい音ともに、体育館の扉を開く。

体育館の中には数十人の生徒がいるが、ほぼ全員の目が暗く、重い。


中に入ると、ギシッと床が軋む音がする。

ゆっくりと生徒達に近づき、ある程度のところで声を掛けようとする。


しかし、その声は低くドスのきいた声に遮られる。


「おうおう、生徒会の皆様方。重役出勤とはいいご身分ですなぁ。」嫌味たらしい口調でこちら語りかけてくる。



「遅くなってしまいすみませんでした。みんなを助けて頂いてありがとうございます。矢畑さんのように強い方が、生き残ってくれていて心強いです。」


ステージの上から、悪態を着いてきた男は舌打ちをしてこちらに近づいてきた。


「しかし、どこに隠れていたんですか?これだけの人数だ隠れらるスペースはそんなになかったでしょう?」


「さあな、お前に教えてやる義理はないだろう」


「こんな状況ですし、必要な情報は共有しとくべきだと思うんですけども·····。それとも、何か言えない理由でもあるんですか?」


「お前·····誰に向かって口をきいてんだ?」


矢畑を纏う雰囲気が変わった。


「お前は前から気に食わなかったんだよ。」


一触即発の雰囲気の中、一人の女が割ってはいる。


「そこまでにしておけ、生き残った者同士で争うのは一番愚かだと思うぞ」凛とした佇まいに、氷のように冷たい目が両者を睨む。


「一ノ瀬·····お前も生き残っていたんだな。てっきりあの爆発に巻き込まれて死んだものだと思っていたよ」


「あぁ、私はお前は生き残っていると思っていたがね。昔から悪運だけは強かったからな」


バチバチと火花が上がりそうな状態で、矢畑と一ノ瀬が睨み合う。


(あぁ、そういけばこの二人幼なじみだったな·····)


「ここは一旦出直すぞ相澤。今の状態では、まともに話し合えるとは思えない」そう言うと、一ノ瀬は出口の方へ踵を返した。


「おいおい待てよ一ノ瀬。別に俺だって、意地悪をしたい訳じゃない。お前がきちんと頭を下げて頼んでくるなら、別にここで守ってやってもいいんだぜ?」一ノ瀬を煽るように、言葉を発する。


「校内で、ここが絶対に安全とは限らないだろう。それにまだ、助けて待っている生徒がいるかもしれないだろう」


「そうかい、流石は生徒会長様だ。まぁ、どうせすぐに頭を下げに来ることになると思うがな」


「行くぞ相澤」


黙って出ていこうする俺に、矢畑は静かな声で言った。


「命拾いしたな相澤。せいぜい背後には気をつけるだな」


何も言い返すことも無く、俺は体育館を後にする。




ーーー

体育館を後にした俺達は、今後の方針を一度決めるために生徒会室に戻ることにした。


その道中、俺は一ノ瀬にお礼を言った。


「すまなかった·····。止めてくれて助かったよ」少し重たい空気の中、ハーッとため息を吐きながら言った。


「全くだ、あんな意気揚々と入っていて喧嘩腰でどうする。他に生き残っていた生徒達に恐怖を与えるような真似はするな」


「返す言葉もないよ·····」


「次はないからな」そう言って、生徒会室に向かう足を早めた。


(今回は見逃してくれるってことか·····)


スススっと桐谷が俺の近くに寄ってきた。

「先輩〜。どうしてあんな言い方したんですか〜?」


「いやーなんでだろうなー。こんな状況で、情報を共有しないアイツに腹がたったのかな·····」


「先輩もあんな風に怒ることがあるんですね。初めて見ましたよ〜」


確かに、あんな風に喧嘩腰でいったのは初めてかもしれない。


「でも、あそこであんな風に怒るのはダメだと思いますよ」


「その通りだ、返す言葉もない」


「分かってるなら反省してくださいね〜」

少しスキップしながら、桐谷は言った。


(なんでコイツちょっと嬉しそうなんだよ)


しかし、一ノ瀬や桐谷に言われたように少し感情的になり過ぎてしまっていた。


こんな状況なんだもっと冷静に、対処しないといけないな。


ーーー

生徒会室に戻った俺達は、今後方針を固めるため話し合いを行った。


第一に優先すべき事項は、食料の確保。

これに関して言えば、俺と上杉で学校の外のコンビニやスーパーなどで探すのを決定した。


そして、一ノ瀬からある提案があがる。

「一度私の家に、拠点を移すのはどうだろうか?私の家なら体育館にいたあの人数も入ることが出来る」


この提案に上杉が反論する。

「さっき生き残った生徒を探す時に、街の様子を見たけどかなり破壊されいた。会長の家も壊されていないとは限らないだろ?」


「確かにな、だが地下シェルターも完備してある。それに非常用の食料も確保してあったはずだ。いつまでもここにいるよりは、安全だと思うのだが」


こういった状況で、どういった判断を下すのが正しいのかがわからない。

確かに、ここがいつまでも安全とは限らないが移動するのも得策とは思えない。

こういう時に、判断出来る人がいればどれほど楽になるだろうか·····。


「先生方の生き残りはいなかったのか?」


「いなかったな·····今日来てない先生もいたみたいだが少なくとも判断を下せる人は一人もいなかった」


少しの間、沈黙が流れる。

そんななか、桐谷が口を開く。

「なら、いっその事体育館にいる人達にも意見を聞いてみるのはどうですか?」


「確かにそうだな。このような状況だ一度様々な意見を聞いておきたい」一ノ瀬もこれに賛同する。


「だがそれは、明日行うとしよう。今日は、少し休みたい」窓から差し込んでいた陽の光は完全に沈んでしまったみたいだ。


それには、全員が同意見だったようで今日は体を休めることを決めた。


長かった一日がようやく終わりを告げたような気がした。

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退屈なこの世界で 火担当 @hitantou

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