最強村

三佐京

第1話

「なあ、神様。俺を普通に暮らせるようにしてるれるんじゃなかったのかよ」


俺ことリヒト・ヴァイスは現状に嘆くばかりであった。

俺は転生している。

一度目の生でよくわからない奴らと意味不明な武器とまったく意味のない力でドンパチやっていた。

そして気がついたら死んでいたらしい。

うん、本当に理解に苦しむ人生だった。


死んだら神様とか名乗る頭の中がお花畑な少女とまったくもって意思疎通が不安になるような会話をして、俺は普通を願って転生したのだ。生まれたのは山奥の百人に満たないような村の長の孫。

暮らしぶりは本当に平凡だが、それは見た目だけであると気づかされた。

今日の朝食でも異様さが漂っている。


「今日もマリアの作るご飯は美味しいなぁ」

「もうっ! 朝からそんなに褒められると舞い上がっちゃうわ。それに子供の前でこんな気持ちにさせるなんて……」

「いいじゃないか。子供は親の愛を受けて育つんだ」

「それもそうね」


…まあ、認めたくはないが両親のバカップルは普通の範疇ということにしておこう。

父はグルド、母はマリア、それぞれ村の顔役として町のトラブル解決に尽力を尽くすことを仕事にしている。

それが仕事と言うのは如何なものかとも思うが村人全員がそれで良いと言っているのだからそれでいいのだろう。


「そういえば隣のシバ爺さんが畑を荒らされそうになったと言っていたぞ?」

「あら大変! 畑は大丈夫だったの?」

「ああ。畑に張り巡らせた結界で粗方吹き飛ばしたが、持病の腰痛でドラゴンを一体逃してしてまったと言っていた」

「腰に響くから雷魔法を使っちゃダメって言ったのに。……そういえば装飾屋のシェルドが寝ぼけて外に出たらドラゴンがいたから消し飛ばしてしまったと言ってたわ。誰かのペットだったら申し訳ないことをしたと。畑を荒らす害獣だったのなら問題ないわね」

「そうかそうか。それでも最近はやたらと魔物が騒がしいな」

「ほら、最近魔王とか言う人が騒ぎを起こしているらしいわ。まったくはた迷惑な話ね」

「そうだな。私が代表してその魔王に抗議してこよう」

「本当にグルドは人思いね。そんなところに惚れたのだけれど」

「はっはっは。でもマリア、君を一番に思っているよ」

「グルド……」


もうこの会話だけでいろいろとおかしい。

ドラゴンをまるで犬か猫のように言っているが体長数十メートル級の化け物だ。

それこそ数体で国が滅んでも不思議ではない。

それを駆逐する農家の爺さんは何処の賢者様ですかって話である。

寝ぼけてそれを消し飛ばす装飾屋はいっそ勇者に転職することを薦めよう。

魔王に抗議?

隣の家の人に文句を言いに行ってくるみたいなノリで世界滅ぼす魔王に単身で出向くとかほんとう勘弁していただきたい。


これが我が家と農家と装飾屋だけが異様に強いのではない。

この村に住む全ての人間がこの水準なのだ。


一番の問題はそこじゃない。

まあそれも問題ではあるのだが、一番危惧しているのは。


「おにい、おにい。ドラゴン来ても、守るから」


隣で俺の袖を引っ張り続ける妹、フィルアの存在である。

一見微笑ましく見える。

両親もそう見ているらしいが、なかなか離れてくれない。

それはもう一晩中傍にいる。

トイレのときも風呂のときも一緒に入る状況だけは回避しているのだが、扉の前でそれこそ一時間でも二時間でも待ち続ける。

最近は妹の将来に恐怖さえ感じている。

主に俺の身が危ない気がしてならないのだ。

正直な話、この村の人々はもともと強いが俺自身は一般人と同じくらいである。


そこだけは普通にしてくれたらしい。

ありがた迷惑な話だ。


現時点で妹との年の差は二つである。

力の差は歴然であり、組み伏せられたら俺は一生立ち上がることなど出来ないだろう。

情けなくはあるが、本当の意味で妹に逆らうことなど出来ない。

今はおとなしく話を聞いてくれてはいるが、機嫌を損ねれば死にかねない。


本当に勘弁していただきたい。

俺はもっと普通を望んでいたはずなのに、これでは前の世界と何にも変わらないではないか。


「そういえばリヒト、隣に住むカドラちゃんがお前を探していたぞ? なんでも新しい魔法を考えたらしい。よかったなあんな将来有望な女の子そうそういないな。後々、後悔しないように仲良くしておくんだぞ?」


「ぜ、善処するよ」


俺の笑顔は引きつっている。

そういえばもう一つ、隣の幼馴染も問題だった。何が楽しくて新しく生み出した魔法の実験台にならねばならないのだ。

後々とか以前に明日には俺は死ぬかもしれないと言うのに。


幸いと言うべきかフィルアとカドラは非常に仲が悪い。

毎度のことながら情けなくもフィルアの背に隠れながらカドラと対話するということを行っている。

隙あらば魔法をぶっ放すカドラは一対一で会話すら成り立たないだろう。

その点、フィルアは恐ろしいまでの魔法耐性を持っている。前に一度、先の話に出たシバ爺の畑に特攻し、結界をぶち破った挙句、怒り狂ったシバ爺の魔法を無数に受けながらも無傷で野菜を奪い去るという恐ろしい行動を平然と行った。

きっとこの世界でフィルマに傷を負わせることが出来る魔法は存在していないだろう。


「フィルマ、お兄ちゃんはお前がいないと生きていけないよ」


「おにいがいないと、いきていけない。いっしょだよ」


本当に可愛らしい自慢の妹である。

まあ、片手に物凄く、ものすごおぉく大きい大剣を携えていなければ今すぐにでも抱きついていたかもしれない。

そうしてお兄ちゃんは抱き返された瞬間に内臓破裂して死んでいただろう。


「そうだリヒト、父さんが呼んでいたよ」

「お爺様がですか? 珍しいですね」

「なんでも大切な話があるそうだ」

「特に予定もないから今から行ってくるよ」


そうして家を飛び出した。

本当にどこにでもある田舎の小さな村である。

だと言うのにどうしてこんなにも恐怖を感じてしまうのだろうか。

それにしても、お爺様が呼び出すなんてなんだろうか。

というか三年くらい姿すら見ていない。

家には居らず村はずれの祠に住み着いている仙人みたいな人である。


「まってよ、おにい」

「フィルマは待っていたほうがいいよ。これから祠のほうにいくから」

「むーわたしもいく」

「たぶん無理だよ。あそこに入れるのはお爺様と俺だけだから」

「そこまでいっしょにいく!」

「しょうがないな。一緒に行こうか」

「うん!」


兄弟って言うのも悪くない。

出来れば大剣は置いてきて欲しかったわけだが、まあそこは目を瞑ろう。

その方がいろんな意味で心強い。


家からはあまり離れていない場所に祠があるのだが、よく分からない魔法の作用で決まった手順を踏まないとたどり着けない。

その手順は簡単なのだが、何故かこの村の住人は俺以外はできないというのだ。


「なんでできないんだろう?」

「どうしたの?」

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