ファラオにミネラルウォーターをささげよ!

今回のお題

【大喜利】【エクスカリバー】【絶体絶命】【動物園】




 深夜の動物園に、男子高校生が二人。

 ツタンカーメンにしか見えない格好をした津田が、パジャマにスニーカーという姿の軽部に、スマホの画面を見せている。


「トート神からなんだけど、スマホの使い方がまだ良くわかってないみたいで、途中で切れちゃってるんだよな」

 そのメールには、エジプトの神の一人がこの動物園で音信不通になり、どうやらライオンの檻に閉じ込められているらしいと記されていた。

「何で出られないのかわかんねーけど、神様だし食べられちゃうってことはねーだろ」


 ほのかな月明かりの下、足もとに注意しつつ津田がゆっくり歩き出す。

 軽部は、何で自分はこんなところに居るんだろうと思いつつ、大きなあくびを一つしたら何もかもどうでも良くなって、黙って津田についていった。



「居た居た! おーい! スフィンクスー!」

 見覚えのある後ろ姿を見つけて、津田は不思議な力で浮遊して、柵も堀もふわりと飛び越え、檻の真ん中に降り立った。

(スフィンクスってあれか? 頭が人間で体がライオンの……だから飼育係に本物のライオンと間違えられたのかな?)

 軽部がぼんやりと考える。


「ガオーーーッ!!」

「うわあーーーっ!?」

 それは本物のライオンだった。


「津田!?」

「軽部! 祈れ!」

「えええっ!?」

「武器を思い浮かべろ! 早く!」

 ライオンの牙が津田に迫る。

 軽部は目を閉じた。


 強い光を感じて軽部が再び目を開くと、津田の手には一振りの剣が握られていた。

 ライオンは、剣が放つ光に怯え、物影に隠れていた。


「あんまりエジプトっぽくないな。聖剣エクスカリバー……いや、万書館のアンク・カリブルヌスか。おまえ、あの話、好きだからな」

 また浮遊して軽部のところに戻ってくる。

「それってオレが出したのか?」

「おまえのイメージを媒体におれが召喚した」

 津田は、えっへんと胸を張って見せた。



 トート神にメールで状況を伝えても返信はない。

 あるいはハイテクはもう投げ出してしまったのかもしれない。


 鞘に収めてもなお輝くアンク・カリブルヌスをたいまつの代わりにして、津田が案内板を照らす。

「動物園に閉じ込められてる神様って、スフィンクスじゃないなら誰なんだ?」

「うーん。動物園に居そうな神様ねぇ……お稲荷様とか馬頭観音とか……」

「エジプトから来てる神だよ」

「ただの犬とか猫とかは動物園には合わないよね」

「アヌビス神とバステト女神のことか? あのかた達は、こんなとこで出られなくなるようなマヌケじゃねーよ」



 それから二人は、カバの女神タウレトを捜しに行って、本物のカバしか居なくて、わーっ!となり。

 ワニの神セベクを捜しに行って、本物のワニしか居なくて、ぎゃーっ!となって。

 牛の女神ハトホルを捜しに行って、本物の牛しか居なくて、もーっ!となった。



「お疲れさまー! 少し休んだほうがいいよー!」

 アテン神が二人にコップを差し出す。

 礼を言って津田と軽部が水を飲み干し……

「ちょっと待て!! いつから居た!?」

 いきなり津田が叫び、軽部がムセた。


 太陽神アテン。

 浮遊する円盤状の体に、無数の光の触手を生やした異形の神――コップはその触手で持っていた――は、人間でいう首をかしげるようなしぐさで体をかたむけて見せた。

「ライオンの檻から。え? だってつーたんが、ライオンに捕まって湯たんぽみたいにされてたボクを助けてくれたんじゃないのさ」

 太陽神だから体温が高いのである。


「何でー? ボクに気づいてなかったの? ボク、こんなに目立つのに?」

 太陽神なので激しく光り輝いている。

「うああ! アンク・カリブルヌスの光だと思ってた! なあ、軽部!?」

「いや、オレは気づいてた。津田が気づいてないのには気づいてなかった」

「えええええ!?」


「ところでつーたん達、誰か捜してるみたいだけど、誰をなの?」

「えーと、今、この動物園の中に神は……?」

「地元の神様に何人か逢ったよー」

「エジプトのは?」

「ボクだけだよ」

「確保ーーー!!」

 津田がアテン神に飛びついた。


「わ~い! カクホカクホ~!」

 アテン神は、何だかわからないが津田に抱きつき返してクルクル回る。

 軽部は巻き込まれないように素早く後ずさりしたが、アテン神の触手が伸びてきて、絡めとられて、一緒にクルクルさせられてしまった。

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津田ンカーメンの日常(短編集) ヤミヲミルメ @yamiwomirume

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