コーヒーと生クリーム(百合要素有)

 心落ち着く、ゆったりとしたクラシック。

 コーヒーの香りとともにするほのかな木の香りも、また彼女の心をリラックスさせる。


「うーん、いい香り……」


 とある喫茶店の席で、美しく輝く金髪の少女はソーサーに乗せられた湯気の立つカップを手に取り、カップに注がれたコーヒーの香ばしい香りを楽しむ。

 大人のレディを志す少女は、コーヒーをまず香りから楽しむのだ。

 コーヒーの香りに頬を緩ませた後、その可憐な唇にカップをつけ、ゆっくりと傾ける。


「熱っ」


 コーヒーの熱さの少女の肩が跳ね、思わず声が出てしまう。静かな店内には、さして大きな声でも響いてしまい、少女――アリスは、羞恥に顔を赤く染めた。


 気を取り直してアリスはカップを――今度は息を吹きかけ冷ましてから口につけ、ゆっくりと傾けていく。


「……うぅ、苦い。お砂糖……でも、大人のレディになるにはブラックコーヒーくらい……。……でも残しちゃったらそれこそ……ううう」


 大人のレディになるため、背伸びをしてブラックコーヒーを飲んだはいいが、その苦さにちらちらとテーブルの隅に置かれている砂糖に目が行ってしまう。ブラックコーヒーにこだわる必要は本来無いのだが、彼女は担任の教師がよくブラックコーヒーを飲んでいるのを目にしているせいか、ブラックコーヒーへのこだわりがあったのだ。

 そんなふうにアリスが悩んでいると、背後から彼女に忍び寄る影。美しい紫の髪に猫の耳を持つその人物は、からかうようにアリスに声をかける。


「やあアリス。こんなところでうんうん唸ってどうしたんだい、ニシシ」

「ひゃあ!チェシャ猫!?もう、急に話しかけないでよ!」


 悪戯が成功したと言うように、その声の主――チェシャ猫は、ニシシと笑いながらアリスの隣に座る。アリスは全く悪いと思っていない様子のチェシャ猫を見てジト目をするが、この人には何を言っても無駄だという事を思い出し、ため息をついて諦める。


「それで、一体どうしたんだい?」

「それはこっちのセリフよ!チェシャ猫こそなんでこんなところに」

「ニシシ、僕もたまにここに来てコーヒーを飲むんだよ。そしたら君が居たからね。少しからかっただけさ」


 やはり微塵も反省などしていないチェシャ猫に、再度のため息をつくアリス。


「それで、さっきも聞いたけどどうして唸ってたのかな?まぁ大方コーヒーが苦かったんだろう?ニシシ」

「……いつから見ていたのよ」

「ニシシ、キミのことならなんでもお見通しだよ」

「なによそれ……」

「ニシシ、そんなことより、コーヒーが冷めてしまうよ?」

「あ……うぅ、お砂糖……どうしよう……」

「……全く、しょうがないね。マスター、コーヒーとパフェをくれるかい?」


 しょうがない、と言いつつも、どこか楽しげなチェシャ猫は、注文を済ませ、アリスに「少し待っていなよ」と伝え、アリスはその言葉に戸惑いつつも従った。

 少しの間、ふたりは口を閉じ店内に流れるクラシックに耳を傾けていたが、店主の「お待たせいたしました」という声と共に置かれたコーヒーとパフェに、アリスは「わぁ……!」と釘付けになってしまう。


「ニシシ、これを食べながら飲むといいよ」

「え、でも、いいの?」

「ニシシ、遠慮なんかしなくてもいいさ」

「ありがとう!チェシャ猫!」


 チェシャ猫が勧めたパフェを嬉しそうに頬張り顔を緩めるアリスを見て、チェシャ猫は自分も笑顔になっていくことに気づく。いつからこんなにも彼女に入れ込むようになったのだろうかと考えながらアリスを見ていれば、彼女は口の端に生クリームを付けている。普段の大人のレディになるために背伸びしている彼女もチェシャ猫は好きなのだが、子供らしい彼女もそれはそれで可愛らしくて、チェシャ猫は好きなのだ。ここで、チェシャ猫ふと悪戯を思いつく。なかなかに恥ずかしい悪戯を。


「アリス、こっちを向いて」

「なあに?チェシャ猫?……!」


 アリスがチェシャ猫の方を向けば、キスが出来そうなほどすぐ側に、チェシャ猫の顔があった。そのアメジストのような瞳に、一瞬吸い込まれてしまうような感覚をアリスは覚えた。そして、チェシャ猫の顔が更に近づいたかと思うと、口の端に暖かく濡れた感触を感じた。


「……っ!」


 そして、それが何なのかを理解したアリスは一瞬で顔を赤く染め、俯いてしまう。

 そんなアリスを見て


「……ニシシ」


 チェシャ猫も僅かに頬を染めながら、口の中の生クリームの甘さを感じていた。


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グリムノーツ二次創作置き場 リョーマ @ryoma_grimms

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