思い出と新たな想い

眼の前でゆらゆらと揺れ動く焚き火を絶やさないように、あらかじめ集めて置いた枯れ枝を焚き火へと投じる。

エクス達、調律の巫女一行は、とある想区の森の開けた場所で野営をしていた。先程まではタオが火の番をしており、今はエクスの番となっていた。

木々の間から覗く月は真上を通り過ぎ、僅かに西に傾いている。

ヴィランの気配は無く、猛獣も火を恐れているのか近寄ってこないため、辺りは静寂に満ちていた。

こうして、1人で静かな状況にいるのをエクスはとても久しぶりに感じた。普段は街の宿屋や、その想区の重要人物の屋敷などに泊まることが多く、その際は寝る前まで談笑したりしているのだ。しかし今回は野営のため火の番をしなければならず、順番を決めた後は皆早々に眠ってしまった。

次の順番はレイナであるが、まだタオからエクスに変わったばかりなので、しばらくはこの静寂が続くとなるとどうしても暇を持て余してしまう。そこまで考え、レイナ達と出会ってからは殆ど暇というものが無く、時間がとても早く過ぎ去ってしまったように思えた。それでも、もうレイナやタオ、シェインと出会って旅を始めてから、一年なのだ。


「一年……か。もうそんなに経っちゃったんだなぁ……。」


レイナ達との旅が始まって一年は、エクスの故郷、シンデレラの想区との別れが、……初恋の人との別れから一年が経ったことも意味している。


――シンデレラは、元気にしているかな……?カオス・シンデレラの想区での彼女のように、悪意に晒されたりしてはいないだろうか……?――


先程より少しだけ西に傾いた月を見上げながら、エクスは初恋の彼女のことを考える。実らぬ初恋と分かっていて、それでもなお焦がれた彼女が、どうか幸せに過ごしていることを願いながら、エクスは少し小さくなってしまった焚き火へと、枯れ枝を投げる。

それからまた、枝を数本投げ入れたところで、女性陣が眠っている天幕から、レイナが起き出してきた。


「おはよう、レイナ。」

「ふぁ……。おはよう、エクス」

「珍しいね。まだ交代の時間には早いのに、レイナが起きてくるなんて」


眠っている他の仲間達を起こさぬように、小声で挨拶を交わし、エクスはからかうようにレイナに尋ねる。


「ちょっと、それどういう意味よ。私だって早起きくらい出来るわよ」

「あはは。ごめんごめん」

「まったく、もう……」


呆れたようにため息を漏らしたレイナは、一度伸びをして、月を見上げた後、懐かしむように話し出した。


「そういえば、そろそろエクスと出会って、一緒に旅を始めてから一年位かしら」

「そうだね。全然、一年なんて経った気がしないあっという間の一年だったよ」

「ふふ、色々あったものね」

「本当だよ」


二人で、今まで旅してきた想区、出会った人々を思い出し懐かしむ。

しばらく旅の思い出に浸ったところで、レイナは真面目な声色でエクスに尋ねた。


「ねえ、エクス。エクスは……やっぱりまだ、故郷の……シンデレラのことが気になる?」

「っ……もしかしてさっきの、声に出してた……?」

「しっかりとね」

「あはは……そっか……」


レイナの問いかけに、エクスは一瞬息を詰まらせ、驚いたようにした後、絞り出すように話し始める。


「気にならない……って言えば、嘘になるかな。……小さい頃から一緒にいた初恋の幼馴染だから、ね。シンデレラは、幸せに過ごしているかな……」

「……エクスは。エクスは今、幸せ?」

「……僕?」


レイナは心配そうに、エクスに問いかけた。

レイナの問いかけに、エクスは


「幸せだよ」


そう答えた。


「とっても幸せだよ。辛いこともあるけれど、いろんな想区で、いろんな景色やいろんな人と出会えて、何より、タオや、シェインや、エイダやファムにクロヴィス」


「そして、レイナと旅が出来て、とっても幸せだよ」


――シンデレラ。いつか、故郷の想区に帰ることが出来たら、話したいことがあるんだ。仲間達と、色んな想区を旅したこと。旅した想区で出会った、いろんな人達のこと。あと、それから――


「……ふふっ、そう。なら良かったわ。……きっとシンデレラも、幸せに暮らしているわよ。だって、こんなにエクスに想われているんだもの」


レイナはそう言って、月を背に、エクスに笑いかけた。


「あはは。何さ、その理由」


――好きな人のこと。――

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