グリムノーツ二次創作置き場

リョーマ

三月ウサギの悪戯

「ねぇハッター、まだなのー?」


 紅茶を準備している彼の背中に向け、声をかける。


「まあ待てよ。ゴールデンルールはしっかり守らないとな。せっかくのお茶だ、美味しく頂きたいだろ?」


 彼はそう言いながら振り向き、こちらに笑いかけた後、また紅茶の準備に戻ってしまう。

 普段であれば退屈だと、彼の視線を独占したくて、駄々をこねるところであろう。


 しかし、今日は違う。


 三月ウサギはそっと、ポケットから小瓶を取り出した。小瓶の中では、透明な液体が波打っている。

 この液体の正体は、所謂お酒である。それもかなり度数の高いものだ。

 彼にちょっとした悪戯を仕掛けるために、白の女王の城からくすねてきたものだ。

 普段から一緒に、ティーパーティーやバカ騒ぎをしている仲の二人だ。しかし、今まで酒に酔った姿というのはお互い晒したことは無かった。彼が酒に酔った姿を見てみたい。そう思った三月ウサギは、酒を用意してハッタとお茶会を始めたのだ。


「よし!待たせたな三月ウサギ、ほら」


 彼はそう言いながら、湯気の立つティーカップを渡してくる。それを受け取りつつ、彼のお茶に酒を入れるため、空を指で指し叫ぶ。


「あ!空飛ぶ眠りネズミちゃん!」

「何!?何処だ!?」


 あっさりとバレバレの嘘に引っかかる彼のティーカップに、素早く取り出した小瓶の中の酒を注ぎ込む。


「あーもう行っちゃったよー」

「そうか……今度眠り鼠に空の飛び方聞いてみるか……」


 眠り鼠が空を飛べることになってしまっているが、今は瑣末なことだ。彼が酒入りのお茶を飲んで、どんな風になってしまうのか、楽しみで仕方が無いのだ。


「まあいい、それより乾杯だ!」

「アハ!カンパーイ!」


 乾杯の掛け声と共に、お茶を飲み込んでいく彼を見ながら、三月ウサギもお茶を飲んでいく。


「美味しいー!流石ハッタ!」

「だろ?……ん、なんか暑いな」


 見れば、彼の頬が少しずつ、紅く染まっていく。これからだ。酔った彼がどんな行動をとるのか楽しみで楽しみで仕方がない。


 そんなことを考えていたがそんな余裕は、次の瞬間吹き飛んだ。


「三月ウサギ……」


 突如、彼がとても優しい手つきで、三月ウサギの頭を撫で始めたのだ。


「え……!えっ……!?」


 突然の事に、体がうまく動かず、彼に撫でられるがままになってしまう。


「やっぱり、かわいいな……三月ウサギは……」

「うぁ……っ!!」


 顔が熱い。鏡なんて見なくても、顔が熟れたリンゴのように真っ赤になっていくのが分かった。彼の様子を伺えば、彼は普段よりとろんとした目をしている。


「き、急にどうしたの?は、恥ずかしいから止めようぜ?」


 気恥しさと……嬉しさで、声が震えてしまう。

 せめて、紅く染まってしまった顔を彼に見られないように、俯いた。


 しかし、俯いたせいで、彼の次の行動が、とてつもない不意打ちとなってしまった。


「大好きだ、三月ウサギ」


 耳元で、そう囁かれた。


 ****************


 三月ウサギは、恥ずかしさに耐えられず何処かへと走って逃げてしまった。


 一人になった帽子屋ハッタは


「……気づかないとでも、思ったかい?」


 真っ赤になった顔で、呟いた。

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