ゆうこの鬼山大冒険!

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ゆうこの鬼山大冒険!

 ある夏の日、大きな地震がありました。地が裂けるほどの大きな地震で皆震えていました。それから何百年。天まで届くほどの高い山がありました。その山には一人の赤い鬼が住んでいました。その鬼はいつも一人で暮らしていてさびしい思いをしていました。それより前は、鬼も村に出てきて村人と仲良く暮らしていました。ですが、一度暴れてしまってから一人で閉じこもるようになってしまったのです。そんな時でも、ゆうこだけは、一人で村から山に登り、鬼に会いに行っていました。ゆうこと鬼は、いつも仲良く遊んでいた仲でした。ですが、鬼が閉じこもってしまってからなかなか会えなくなってしまったのです。こっそりと上ろうとしていたのですが、お母さんたちに見つかってしまい、行けていなかったのです。今日は、再チャレンジの日です。今日はお母さんが留守にしています。だから、ゆうこは一人で山登りを始めました。ゆうこは、真っ赤なリュックに地図と帽子と前にお母さんからもらった福豆を入れて、山に行きました。

―――

「ゆうこ、これはね、不思議なお豆なの。」

ゆうこがまだ幼稚園に入学する前のこと。お母さんから、魔法のお豆について聞いたことがありました。

「どうして?」

ゆうこは、首をかしげてその訳を聞きました。

「人間は、まずくて食べられないんだけど、動物たちはこれが大好きなのよ。きっと喜んでくれるはずよ。」

ゆうこのお母さんは、科学者で、動物たちとの関わりの研究をしているのです。

そのお豆をゆうこは大切に持っていました。

 道が分からなくなると、周りのスズメたちに聞きました。すると、スズメたちは、口々にこう言うのでした。

「鬼の家に行くの!?ゆうこちゃんに身の危険があっても知らないよ。残念だけど、教えることはできないな。」

ゆうこは仕方なく一人で歩いていくのです。麓につくと、

「この先、鬼山。立ち入り注意。」

の看板。ゆうこは、それをひっくり返して、ずんずん進みます。

 すると、川幅の広い急流の川がありました。ゆうこは、まだ小さく泳いだこともありません。周りを見渡しても、橋のようなものは見当たりません。ようこは、途方にくれて、泣きじゃくってその場に座り込みました。涙を拭こうとしても、急いできたので、ハンカチなんて持ってきていません。ゆうこはTシャツで顔を拭いました。すると、小さなカワウソがようこに近づき、こういいました。

「おいらは、コツメカワウソのこっつん。食べ物くれたら向こう岸まで連れてってやるぜ。」

こっつんは、岸に上がってきて、ゆうこの元に近づいてきます。ようこは、リュックの中のものをあさりました。何も入っていないため、ゆうこは、首を振りましたが、その手はリュックのある物をつかみました。そう、お母さんからもらったお豆です。

「お豆ならあるよ。美味しいお豆。」

それを取り出すと、少し笑ってこっつんに差し出しました。

「うまそう!食べたい!うまそう!食べたい!」

続けて、

「じゃあ、乗せてってやるよ!!」

こっつんは喜んでお豆を一つかみとると、手招きして背中に乗るように言いました。こっつんは四つんばいになり、川を渡りました。すると、さすがの急流。こっつんは、おもいっきり水をかいて、向こう岸にわたろうとします。重さで少しふんばっていましたが、無事に向こう岸に渡れました。こっつんはどんなもんだい!と自慢げに顔を赤らめています。そして、こっつんは

「自分も冒険に連れて行ってくれない?」

とゆうこにお願いしました。

「もちろん!一緒に行こうよ。」

ゆうこは、少し寂しかったので、こっつんと共に山頂を目指すことにしました。長老様から頂いた地図によると、もう少しです。二人は、地図に添って少しずつ歩いています。

「ねえ、こっつん。ちょっと疲れちゃったよ。」

歩き疲れて、喉が渇くと、川の王様「こっつん」が川まで連れて行ってくれます。

「おいらはこのあたりのことなら何でも知ってるよ!寄り道するか!」

透き通った水を二人で飲んで、元気回復。また、二人は歩き続きました。

 ですが、寄り道したせいか、目の前には崖。きっと昔の地震で地割れしてしまったのでしょう。元の道に戻ろうとも地図を気にせず来てしまったので戻ることもできません。ゆうこと、こっつんは顔を合わせて悩んでしまいました。カワウソなので、泳ぐことはできても、飛ぶことはできません。そこに、大きな翼のワシが飛んできました。ゆうこたちを見て、木に停まりました。

「俺は、オジロワシのオジロー。この辺の空の覇者さ。」

大きな翼を広げて、こっちに話しかけてきました。こっつんは、こう提案しました。

「さっきの美味しいお豆をオジローさんにあげて、乗せてもらったらどうかな。」

ゆうこは、手をたたき、大きな声で、オジローに向かって叫びました。

「オジローさん!お豆あげるから乗せてください!!」

ゆうこはこっつんが耳を塞ぐほどの声でオジローに向かって呼びました。オジローは、大きな翼を広げてゆうこたちの下に降りてきました。

「豆?美味しそうだな。分けてくれたら、向こうまで連れてってもいいぜ。」

オジローは、しゃくれた低い声で言いました。ゆうこは、お豆を渡して、オジローの背中に乗りました。勢いよく羽ばたいて、崖を渡りました。

「ところで、なんでこんなところに女の子一人でいるんだよ。」

オジローは聞きました。たしかに、こっつんがいるとはいえ、鬼山は五歳の女の子が一人で来るような場所ではありません。ゆうこは、元気に答えました。

「仲良くしてた鬼さんに会いに行くの!いつも一緒に遊んでたんだ!」

オジローは、そうかい、そうかい、と答え、こう続けました。

「この先も危険なところはいっぱいある。パトロールのついでについて行ってやろう。」

オジローは鳥類の警察署長で、今は、パトロールの最中だったようです。ゆうこは笑顔でうなずきました。また一人仲間が増えて、三人で鬼の家を目指します。

 いよいよ鬼の家が見えてきました。ですが、三人は、落胆しました。目の前には大きな落石です。オジローも疲れて二人を乗せるだけの体力はありません。すると、心に打ち付けるような大きな音。ドンドンドンドンドンドン……。三人は周りを見渡します。台座のような岩石の上にいたのは、ゴリラのゴラッソさん。

「ゴラッソさんなら大きな岩も壊せるかもしれないよ。」

こっつんが二人に呼びかけます。

「それはいい案だ。」

オジローも賛成しました。

「あの岩を壊してくれませんか?美味しいお豆があるよ。」

手にお豆を持ちながら、ゆうこがゴラッソさんに声をかけます。

「よし、やってやろう。」

ゴラッソさんは岩から降りて、大きな拳で落石にパンチしました。

ドォーン!!!

周囲に大きな音が鳴ります。思わず目をつぶり、耳をふさぐ三人。三人が拍手すると、ゴラッソさんは、どこかに行ってしまいました。もう障害物はありません。

「一人でいっておいで。ここで、待っているから。」

こっつんとオジローは送り出します。

「うん!行ってくる!」

ゆうこは、一人で駆け出します。

「赤鬼さーん!!」

一軒の民家のドアを開きます。そこには、声に気づいた赤鬼がいました。

「ゆっこ、ゆっこ、ゆっこなのか!?」

そう、彼こそがゆうこが探していた赤鬼でした。ゆうこのことを「ゆっこ」と呼ぶ赤鬼です。ゆうこも、赤鬼の元に駆け寄りました。

「ずっと会いたかったよ。また、遊ぼうね。」

二人はともに笑い合い、その場にずっといました。

家のドアを開け、帰ろうとすると、三人が来てました。こっつんとオジローとゴラッソさんです。ゴラッソさんは、帰ってしまったはずなのに、二人から事情を聞き、戻ってきてくれたようでした。こっつんは、赤鬼に聞きました。

「どうして、暴れたりなんかしたんだい?」

こっつんは、川辺に住んでいるとはいえ、赤鬼の噂は聞いてしました。少し、ビクビクしているようです。

「い、いや、暴れたわけじゃないんだよ。あ、あのな、山の恵みにカラスとか熊とかが、たかっていて全部取ってしまってたから、それを追い払って皆、仲良くしようとしてただけなんだよ。」

赤鬼には申し訳なさそうに答えました。皆もそんな事情を知らずに、悪者と、赤鬼を軽蔑してしまったことを反省していました。

「村の皆に訳を話しにいこうよ。」

ゆうこは提案しました。そのまま、皆で山を降りました。村の皆もきちんと話すと、納得してくれました。それから、赤鬼は山の動物たちと仲良く暮らしたそうです。

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