悪魔の口づけは300円

ちびまるフォイ

最後に口づける場所は…

それは冬の寒い日。

悪魔はひとりで重い看板を持って寒空の下に立っていた。


「口づけいりませんか。悪魔の口づけいりませんか」


足を止める人はいない。

悪魔の口づけなんて物騒なものに金を払って口づけするなんて変人くらいだ。


「口づけ、1回いくらなんですか」


「えっ、買ってくれるの?」


「はい300円」


男は悪魔にお金を払うと口づけをしてもらった。

唇にはわずかなうるおいがついたのがわかる。


「悪魔の口づけが完了しました。唇が渇くまではあなたの口周りで良い事が起きますよ」


「ぴんと来ないな……」


半信半疑だった男も悪魔の口づけ効果としか言いようのないことが怒り始めた。


今まで断られ続けていた営業も飛ぶように売れて、

男のセールストーク技術は本にされてベストセラーになるほど。


「そうか! 口周りの良い事とはこういうことか!!」


男はすっかり大満足だったが、唇が渇くともう効果はない。

残されたのは才能の残りかすみたいな凡人だけ。



「また口づけを買いたいんだが」


「ふぅん、いいわ。はい1000円」


「高くなってないか」

「いらないの?」


悪魔は少し態度がでかくなり、料金もつり上がっていった。

どうやら口づけのタイミングで魂と自尊心も吸収しているんだとか。


そんな副産物はさておいて、悪魔の口づけを取り戻すとまた元通り。


男の発する言葉には不思議な力がこもり

男が口にする食べ物は不思議と絶品ばかりのバラ色ライフ。


そして、効果が切れるやすぐに悪魔のもとへと向かう。


「たの! 口づけをさせてくれ!」


「庶民のために、この私がしょうがなく口づけしてあげるわ。1回10万円で!」


値段は回を重ねるごとにどんどん増えていく。

それでも男は一度手に入れた栄光を失うまいと、迷わず払っていた。


「あははは! いい気分! やっぱり私って悪魔だわ!

 人間が必死の顔で金を払いに来るなんて最高ね!」


悪魔はすっかり最初のキャラを忘れてしまっていた。


「さて、そろそろ男がくるころね。今日はいくら分捕ってやろうかしら」


 ・

 ・

 ・


悪魔は待った。ずっと待っていた。

それでも男はぴたりと来なくなってしまった。


「ちょっとどういうこと!? まさかお金払えなくなった!?」


悪魔の口づけの効果をいちど味わったらもう戻れない。

どんなに高い金を出してでもやってくるかと思っていた。


そして、男が来ないとわかると、悪魔の胸はぐらりとゆらぐ。


「なにこの気持ち……私が……そんな……」


悪魔は男のもとを訪れて、来なくなった原因を聞いた。


「ねぇ、どうして来てくれないのよ!

 あんなに悪魔の口づけの良さを味わっていたくせに!」


「実はお金がもうないんだ……。

 金がなければ、口づけすることはできない……そうだろ」


「ええ、そうね」


悪魔はうなづいたあと、しっかり付け加えた。


「お金がなくても、私と口づけする方法はあるけどね」


「な、なんだって!? それはどうすればいいんだ!?」



「わ、私と……け、結婚……するとか?」


悪魔はもじもじしながら告白した。

男の迷わず答えた。


「もちろん! 本当にうれしいよ!!」


「夫婦の口づけはプライスレスよ」


悪魔は男と誓いのキスをした。






の、前に。


男は誓いのキスをする前に、パンツを脱いで尻を差し出した。


「実は最近便秘で困っているんだ。

 悪魔の口づけならきっといいものが出てくると思う。

 頼むよ。夫婦の口づけはプライスレスなんだろ?」



男が差し出したケツに、悪魔は槍をつきたてた。

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