第2話 序章

 退屈すぎて、今にも死んでしまいそうな私は何度も壁掛け時計をチラ見する。


 おかげで教壇でわざとらしく一つ咳ばらいをした教師と目が合ってしまう。

解答を考えていたわけではないのに、目が合っただけで私を指名する。

  

 やばい、まったくもって無に近かったのに――。

慌てて回答を導き出せる才能は、あいにく持ち合わせていない。

 詰まってしまって、しんと辺り一面越境がきた様な静けさで教室が静まりかえる。

いままであれほど騒がしかった教室が、瞬間で息をとめたようだった。


 音のない、寂しい世界へ。

たったいま置き去りにされた気がした。


いや喧騒の箱の中から、少し上品な騒がしさへメロディーラインが変化しただけかもしれない。


**

 それは珍しく雪が降ったような幻想を私にプレゼントする。

 たったいま深く険しい山道に置き去りにされた私は、いつかの絶望を思い出していた。

凍死しても構わない、いっそのこと――。

たったいま浮かび上がった切なさが胸を覆って、透明でもなさそうな涙が臆病な唇を伝った。

 



くだらない———。酷く、くだらない恋だとあのひとは笑うだろう。

あの人は私をものとしての価値で見聞きするから、許せなかった。

 一体の蝋人形で在れたなら、酷く臆病で、脆く儚く一生を終えることが出来たはずだ。


あの人には最後まで言えなかった言葉がある。

好き、そう単体で表現すればあの人は素っ気なく私を抱きしめる。


俄然私が一体の装飾が施されたドールに過ぎないということを再認識してしまう。

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四月のエフェメラルな恋 いずみ まいか @mini1006

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