【ポケモンGO&ポケットモンスター 赤・緑】
やせいの!
【GO!】
「てんちょうー!」
トレードマークであるポニーテールをぶんぶん振りながら、スマートフォンを手にした旭川が『ミレニアムブックス』に飛び込んでくる。
本日の服装はどこかのバンドのライトブルーのライブTシャツに黒いパンツ。正しい本屋さんスタイル一歩手前だ。
「なんだい旭川くん、珍しい登場パターンではないか」
「『ポケモンGO』が配信開始されたんですよー! やりましょう!」
「んーそれがなあ……ほら」
大平が取り出したスマートフォンのホームボタンには、燦然と輝くWindowsマークが。
「なっ!? Windows 10 Mobileですかっ!?」
「そう、昨日買ってきた。なかなかいいよ」
「このタイミングでAndroidから変更なんて、それでもゲーマーですかー!」
「まあまあ、落ち着きなさいよ旭川くん……ああそうか、タブレットでやればいいんだ」
そう言って大平はカウンターの奥からAndroidタブレットを取り出す。
「Playストアに行って……あ、未対応の端末だってさ」
「ええー……」
がくりとうなだれる旭川。
「せっかくみんなで遊べると思って楽しみにしていたのにー」
「あれ、でも旭川くんってポケモン世代だっけ?」
「いえ、少なくとも初代ポケモン世代ではないですねー。小学生の頃『ルビー・サファイア』とか周りでは流行ってたんですけど、わたしはやったことないです」
「俺も初代が流行った頃は高校生だったしな……。あの時代はアーケードに夢中だったし、シリーズ通してプレイしたことないんだよね。新政も彩子さんもそうなんじゃないかな」
「うーん……。あっ、そういえば世代的にぴったりな人がいるじゃないですか!」
旭川にはある人物が思い当たったようで、すぐさま店の外へ飛び出す。
「あー、今はムリなんじゃないかな……って、聞こえてないか」
【重巡洋艦旭川】
およそ30分後。
「気づいたらコレ着させられていました……」
ゲームコーナーのイスにちょこんと座り込む旭川。その姿は先ほどとは打って変わって、『艦隊これくしょん』のZara級重巡洋艦三番艦Polaのコスプレ衣装になっている。髪型はポニテのままだが。
お隣の中華料理屋の娘、高清水泉――彼女は一九八六年生まれで、世代的にはまさに初代ポケモン世代だ――の家に突撃し、ポケモン仲間をゲットしようとしたのだが、見事に返り討ちにあったようだ。
「高清水、今年は夏のイベントにコスプレ参加するって言ってたしね。制作に忙しいだろうからポケモンどころじゃないだろうと思ったんだよね」
「だからってなんでわたしがコレ着させられてるんですか!?」
「詳しくは聞いてないけど、イベントに拉致られるんじゃない? 旭川くんの分もあるってことはさ」
「聞いてないですよー!」
「まああいつのことだ、すでに何かしらの罠が仕掛けられているんだろう……。観念して行っておいでよ、その時期休みあげてもいいから」
「ええー……」
心中複雑な気持ちで足をぱたぱたさせる旭川。
「にしても……」
大平が旭川の姿をちらちらと見る。
「?」
裾にフリルをあしらった赤のミニスカートと白のサイハイソックスによって形成される絶対領域。
旭川の体型――言うまでもなく胸回り、腰回りのサイズとか――に合わせて作られた、首元に赤いリボンの飾られた白と黒のトップス。
「あいつ……腕を上げたな……! ありがとうございます……」
ぼそぼそとつぶやきながら高清水家の方角に手を合わせる大平。
「なにをぶつぶつ言っているのですか……」
【赤緑、ゲットだぜ!】
「あ、そうそう、泉さんはやっぱり忙しくてまだインストールもしていないし、そもそも昔からポケモンやってなかったそうですよ」
「そういえばそうだな、昔はあいつが携帯ゲーム機を持っているところを見たことなかったな」
なお近年は『初音ミク Project DIVA』シリーズのためだけにPSPやPSVitaを購入しているようだ。
「もー! 誰かわたしと一緒に『ポケモンGO』やってくれる人はいないんですかー!」
「じゃあさあ」
頬を膨らます旭川の横を通り抜け、大平がゲーム棚から一本のゲームボーイソフトを取り出す。
「初代ポケモンでも一緒にやる?」
大平が手に持っているのは、『ポケットモンスター 赤』と『ポケットモンスター 緑』の初代ポケモン。
「うっ、初代ですかっ。ちょっと興味あります……ありますけど!」
大平の持つソフトにちょっと手を伸ばしかけて、やはり引っ込め立ち上がる旭川。
「わたしはこの時流に乗ってポケモントレーナーになりたいんですー!」
そう言ってスマホ片手に再び外へ飛び出す旭川。
「あー……。まあいいか、初代やって待ってよう」
大平は愛用の
数分後。
本日三度目の旭川入店。
「暑いです……。そもそもこんな格好でポケモン探して歩き回れません……」
「そりゃそうだ。大丈夫? ポケモンやる?」
『赤』をプレイしながら旭川にGBASPと『緑』のセットを差し出す大平。なんだかムダにさわやかな笑顔を向ける。
「ううう……なんか悔しいですけど、やります、ください……」
渋々ながら大平からセットを受け取る旭川であった。
【うめのんGO】
あ! やせいの うめのが とびだしてきた!
「うめのちゃん!」
すでにこの古本屋の常連となっているねこ少女の来店に目を輝かせる旭川。
うめののいつものスタイルである大きな猫耳のついた縞三毛模様のパーカーは、薄手の生地で半袖という夏仕様になっている。
旭川は今にもモンスターボールを投げそうな勢いである。
「な、なんじゃ旭川。なんか目が怖いぞ……」
「ぽ、ポケ……いや! スマホ持ってる!?」
「持っておるぞ、ほら」
旭川の勢いに圧倒され、うめのがパーカーのポケットから取り出したのは、白く小さいスマホ。画面の下の中央に見慣れないトラックボールが配置されている。
「え、これ……日本初のAndroid搭載スマホー!?」
あまりの衝撃に思いっきりのけぞる旭川。後ろにカウンターがあってなんとか倒れずに済んだようだ。未だにコスプレ状態なのでミニスカートが危うい。
「未だにそれ使ってる人いるんだ……。Android1.6でしょたぶん。まあ当然、『ポケモンGO』はできないよねえ」
ポケモン赤をプレイしながら、大平が落ち着いて補足する。
旭川はその事実に大げさに肩を落とす。
「残念……一緒にプレイしたかったのにー」
「そうなのじゃ。父上からこれしか渡されていなくて仕方なくな……ん、どうしたかの? りむなよ」
ちりん、と、うめのの後ろから鈴の音が鳴った。
【りむにゃんGO】
うめのが、自分の陰に隠れている一回り小さな女の子を気にする。女の子の手が、ぎゅっとうめののパーカーを握りしめる。手首に青いリボンで鈴がつけられており、その音が鳴ったのだろう。
その小さな女の子は、日本人離れした白い肌と長くふわふわした銀髪、緑色の瞳を持ち、白のワンピースに身をつつんでいる。うめのが三毛猫ならばこちらは白猫といったところか。
「えっ? その子、もしかして前話していた妹さん?」
「そうじゃ! わらわのすぐ下の妹の、りむなじゃ。お人形さんみたいでかわいいじゃろう?」
「…………」
あ! やせいの りむなが とびだしてきた!
しかし、りむなは相変わらず、うめのの後ろからじっと旭川を見つめているだけである。
「りむなちゃん! か、かわいい!」
旭川の目がレアポケモンを狩る目に変わっている。
旭川がりむなに近づこうと一歩前に踏み出すと、りむなはそのただならぬ気配を感じ取り、ビクッとその場で震え――
「にゃがーーー!!」
やせいのりむなは にげだした!
ワンピースの腰にあしらわれている白く長いリボンが、しっぽのようにふりふりと揺れながら。
「えっ! ああ、りむなー待つのじゃー!」
やせいのうめのは にげだした!
その様子を見て大平がつぶやく。
「レアポケモン、ゲットできなかったぜー」
「う、だってあんなにかわいかったんですもん……。ちょっと反省……」
いろいろゲットできず高まった欲を抑えられない自分にしょんぼりする旭川であった。
レトロゲームと古本にゃ☆ みれにん @millenni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。レトロゲームと古本にゃ☆の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます