四章04「華楽部の新たな目標」
新たな決意をした副部長と新入部員を含めて昨日と同じメンツが部室に揃う。
「そういえば気になったんですけど」
「どうした?」
理沙が唐突に質問をしてくる。これから幸があまり知らない人を相手に占いをするための準備してる最中に。あの全員を隠す外套をなしにやるのだから幸は緊張のせいでさっきからあまりしゃべってない。
「噂の先輩達ってまだ帰ってこないんですか?」
「んー、どうだろうな。名探偵は学園にいること自体が珍しいし、先輩は納得した成果がでれば山から降りてくるだろうけど」
「そのお二人が来れば華楽部の全員が揃うわけですよね」
「そうだな。その二人のせいでなかなか揃わないけどな」
マイペースな二人が部室に揃うレアな瞬間は数えるほどしかない。
「りさちん、二人のことが気になるの?」
「はい。どちらでもいいので会ってみたいです」
「あたしは勘弁かな……」
部室の隅で膝を抱えて震えている人物が一人いた。あのトラウマは一生ものなのだろう。自業自得ではあるが可哀想だとは思う。
「ふー……よし」
幸が準備の終わった占いの席に座って深呼吸をして、気合を入れていた。周りを気にしている余裕はないらしく、こちらの会話に混ざってこない。
そもそも占いをしてもらう人はこの部室に入ってこないといけない。他の部の部室だから入りにくい人もいるだろうし、本来なら廊下に出てやるべきだ。しかし、慣れてもいないのに放り出す形になってはいけない。
まずは部員のいるところで慣れてもらう。元々、外套を着ていた時も部室でやっていたし、評判が良ければ占いの館の扉を開く感じで抵抗を持つ人は減るだろう。
「だ、誰か来るかな……」
その時、ガラッと部室のドアの開く音が響いた。
「あっ……い、いらっしゃいませ。う、占いの部屋によ、ようこ……そ」
音だけで反応した幸が立ち上がりながら、たどたどしい言葉で迎える。初対面の彼女を思い出して懐かしくなるが、知らない人相手だとやはりこうなる。
しかし、それよりも幸が入ってきた人を見て固まってしまっていた。
「あ、えっと、その」
携えて真っ直ぐ歩いてくる背の高い短髪黒髪の男子生徒に戸惑っているわけではない。混乱している理由はその腰にある刀のほうである。
「もしかしてあの人が」
最初に察したのは理沙だった。刀を見ればある程度想像はつくのだろう。
「おかえりなさい、鶴来先輩」
「えっ?」
幸はその言葉に驚いて拓巳のいる後ろを振り返った。
「……ただいま」
目をつむりながら返事を返し、立ち止まる。堂々とした立ち姿は彼の生き様を表すに等しいものだ。
「あの、副部長さん」
「幸、この人が山ごもりに行ってた鶴来刀夜先輩だ」
「そ、そうなんですか! わ、わたし、そ、その、芙蓉幸と申します。ま、まだ新入部員でわからないことも多いですが、その……よろしくお願いします」
「……あぁ、よろしく」
「幸と同じ新入部員の理沙です。よろしくお願いします」
「……こちらこそ」
いちいち間が開くのはわざとではない。相手の言葉をしっかりと聞いているだけである。
「日向、とうとう年貢の納め時が来たのか」
「もう収めちゃいましたよ、侍先輩」
「そうか……色々あったのだな」
その言葉で色々察したらしい。どうやら連絡をとっていなかったらしく、彼にとっては全部が初耳のようだ。
「おかえり、よっちん」
「吾のいない間に随分と賑やかになったな」
その言葉に歩美は静かに笑みを浮かべる。
「嫌だった?」
「そんなことはない。むしろ好きだ」
静かな空間を好むと勝手に印象を決めていただけに彼の言葉は拓巳にとって以外でしかなかった。
「よっちん、納得行く修行ができた?」
「納得が行かねば降りては来ない。ここにいるのが答えだ、部長殿」
「そうだよね」
同じ学年であるだけに少し砕けた口調でしゃべる歩美。拓巳は何度も見ているから違和感はないが、新入部員二人は動揺を隠せていない。身長のことで子供っぽくキレる渡辺歩美が一番イメージを崩すのだが、それを見た二人でも新鮮な感覚らしい。
「え、っと……つ、鶴来先輩、その刀って本物ですか?」
理沙が気になっていたらしいことを真っ先に聞き出した。
「あぁ、登録証もあるぞ」
スルッとポケットから出して見せる。
「確かに登録証ですね。さっと出せるあたり慣れてますね」
「これがないと捕まるからな」
「それでも常に持ち出していいものじゃない気がします」
幸の小さめのつぶやきは尤もな意見である。
「山から直接来たからな。きちんと家に持って帰って保管する」
「そ、そうなんですか。よかったぁ」
ホッとした幸が胸をなでおろす。それだけなのにあの巨乳が揺れるもんだから拓巳はつい視線をそらした。
「カタナ、コワイ、カタナ……」
「すまないな、高宮。この愛刀が相当なトラウマとなってしまっているだったな」
隅で震え続けるまどかに謝罪する律儀さを見せる。こちらとしては大人しくなるので色々と助かるのだが、さすがに毎日だと部室に寄り付かなくなりそうだ。
「山ごもりって具体的に何をするんですか?」
「吾の場合はこの刀の鍛錬だ。使わないでいると感覚が鈍る。道場で稽古を積んでも所詮は無機物が相手。自然を相手にしないと話にならない。だからこもるのだ」
「はへー……そうなんですか」
予想以上の答えが返ってきて驚きを隠せない理沙。続けて何かを言おうとした時、刀夜が付け加えるように言葉を重ねた。
「先に言っておくが、生物は斬っていない。そんなことをすれば一気に使えなくなる。刀は意外にモロいからな」
「聞いたことだけならあります。実際に人を数人斬ったら刀は使い物にならなかったと」
「そうだ。脂がつくとダメになるからな。戦のあった時代は最初だけ斬って、あとは棍棒扱いだったと聞く。それに戦の主力は槍だ。刀で斬り合うことは滅多にない」
「ふむふむ、勉強になります」
理沙の興味は刀に向きっぱなしだ。
「意外と気が合いそう」
「かもしれません」
歩美と幸はその二人を見ながら意見が合う。少しずつ部に馴染んでいくのはいいことだ。幸の交友関係もゆっくりと広まっていけば、彼女の目的を達成する近道になる。
「盛り上がってるねー、諸君」
部室に響く男の声。拓巳でもなければ、もちろん鶴来刀夜でもない。部室のドアを開け放っている最中の探偵ハットの男だ。
その帽子はシャーロック・ホームズなどが被る一般的なイメージのものではない。昔のドラマでやっていた探偵ものの黒いハットに白いラインがぐるりと一周しているもの。
黒のスーツとモジャっとした長髪ならまさにそのままだ。しかし、ほどよい髪の長さに制服姿に黒の探偵服の上着だけを羽織って、いまいちバランスが悪い。
「あの人は……だれ、ですか?」
幸は知らなくて当然である。
「もしかして、あの人が」
今まで聞いていた話から理沙は誰であるかを察していた。
「やーやー、芙蓉君、櫻華君、華楽部へようこそ」
「名前を知られてる……」
幸の驚きとは対象的に、理沙は苗字で呼ばれたことに不機嫌そうな顔で黙ってしまう。
「当然だよ。そこの優秀な助手から色々聞いてる」
その男子の視線の先はパソコン郡の中に向けられていた。
「そう、なんですか」
釣られて見た幸と視線をそらす理沙。見守っているこっちがハラハラしてくる。
「探偵の僕にとって必須な情報を集めてくれる優秀な助っ人だよ。ぶっちゃけると彼女がいないと僕の探偵業は成り立たないね」
「じゃああなたは噂の」
「噂かどうか知らないけど、僕は金田。金田一。一と書いてはじめだ。そこは間違えないように」
「は、はい……」
雰囲気に気圧されて返事が小さくなっていた。どうやら幸は金田のあの風貌はコスプレみたいなものだと思っていたらしい。
「ようやくおかえりか、名探偵」
「ただいま。あと名はいらない。もし名探偵と名乗るとしても名の部分は彼女がまかなっている部分だ。僕ではないさ」
ハッカーの彼女を高く買っている金田探偵。彼が世間的に有名になりだしたのもハッカーと汲み出してからだ。
推理力、洞察力、観察力。その全てにおいて長けている金田一。そこに足りなかったのは容疑者や依頼相手の情報を集める力だった。
「思ったより控えめな方なんですね。話を聞く限りではこう解けない謎はない、と自信たっぷりみたいな人を想像してました」
幸がこっそりと近づいてきて小声で話しかけてくる。勝手なイメージが先行して高慢な自信過剰キャラだと思いこんでいたようだ。
「自信がないわけじゃないぞ、芙蓉君」
「ひゃっ! き、聞こえてたんですね。す、すいません……」
「謝ることはない。単に僕の耳が地獄耳なだけだ。それに怒ってもいない」
「そ、そうですか」
初めての男子を相手になんとか会話を続けようと努力するあたり、最初に出会った時を思い出して重ねてしまう。あの時は作戦で、今は部員同士の親交を深めようという違いはあると思うが。
「幸、名探偵は冷静に状況を分析できて、客観的に物事を見てるからそう感じるんだよ。推理力に自信は持っているし、実際それが部に誘われた理由らしいから」
「そうなんですね」
納得しているように頷くが表情は晴れない。ピンときてないのだろう。それもそうだ。推理力などの高さは簡単にわかるものじゃないのだから。
「渡辺君には感謝している。学園と交渉してくれたおかげで校外での活動もしやすくなったし、この部にいれば周りも僕の行動に多少納得してくれるようになったからね」
「どうも」
感謝されるのに慣れてない歩美は照れ隠しのように短く返事をする。彼の上級生に対しても君付けで呼ぶことに関しては本人が了承しているので咎められることはない。
「それにしてもかなり学園に来てなかった気がするけど、何かあったのか?」
学園にいるのが珍しい彼でも二週間ばかり部室に一切顔を出さないなんてことはない。何度か教室には行ってないが、部室には来ていることもあるくらいだ。
「あぁ、それは昨日まで山奥の館に閉じ込められていたからだよ」
しれっと大事を口にする金田一。彼にとっては慣れていても、聞く側は慣れていない。
「閉じ込め、って……推理小説でよくある、あれ……ですか?」
だから芙蓉幸が半信半疑で聞き返すのだ。
「そう、あれ」
「また難儀な状況に追い込まれてたんだな」
「まぁね。館に続く唯一の橋を犯人が焼き落としたもんだから、さぁ大変」
「犯人、犯人って……その館で事件が?」
「一件ほど殺人事件が起きてしまったかな。止めることができなかったのは悔やまれる」
探偵としての理想は事件が起こる前に止めること。そんなものは無理かもしれない。大体起こってから調べることになるから。
「そ、そうなんですか」
「名探偵よ、幸が反応に困ってるぞ」
「そうは言っても僕は事実を言ったまでだ」
「でも一件も起こさせない、なんて」
「できる場合もある。それこそ未来予知に達するほどの推理力と運を操作できるなら」
「あっ……」
幸は彼の言葉にハッとなる。探偵である彼がハッカーを通じて情報を手に入れてないわけがない。運喰いの力があれば、自分をターゲットにされるくらいのことだってできる。
「加えて日向君がいれば最後まで生き残るから、もしもの時の保険にもなる」
名探偵が日向拓巳を連れて行きたがる理由。そして、拓巳が部活に入りたくないと言い訳をする大きな理由の一つだった。
「お守りどころか、生き証人の扱いだな。俺でも幸の影響は受けるんだぞ」
「もちろん知っている。だが、わかっているからこそ、そうしない選択もできる」
幸に運を食われないように気を配ることをすればいいだけではある。しかし、それは幸を巻き込むことが前提の話となってしまう。
「わたしの力が役に立つ……」
ただ迷惑をかけるだけじゃない。活用法がある。戸惑いながらも嬉しさが彼女の中に渦巻いていた。それをなんとなく察してしまった拓巳はその考えはダメだと否定するタイミングを見失っていた。
「だからぜひとも今度どこかに行くときは二人共ついてきてほしい。けど、これは言ってみただけだ」
断られるのがわかっているか、言い出した名探偵の方から話題を切った。
「まぁこちらとしても巻き込まれるのはごめんだからな。俺は被害に遭わないが」
「そうだな、日向君はピンピンしてるだろうね」
「にしても名探偵の行く先々で事件が起きるよな。不幸体質なんじゃないのか?」
「ふっ、歩く死神と呼ばれる一歩手前まで来てるぞ」
「ダメだろ、それ」
名探偵というのは事件を解決し、その成果を積み重ねた結果として得るものだ。つまりそれだけの事件に巻き込まれた。もしくは首を突っ込んでいかねば得られない。
これが最初の事件が起きて、刑事と同じタイミングで動くなら何も言われない。
しかし、金田を含む名探偵の中には目的地の先で最初の事件から居合わせてしまう者が多い。重なれば重なるほど、この探偵がいるから事件が起きるのでは、と言われるようになるのである。
その究極系が薬で小さくなってしまった探偵と祖父の名にかけて事件を解決する探偵だ。その中に彼も加わりつつあるのだ。
「いやー、名誉だと思いたいけどね。実際こう重なってはね……」
から笑いをする金田。周りよりも本人が誰よりもそれを理解していた。
運喰いの体質であった幸とは違い、本物の不幸体質と言えるかもしれない。それを自分の推理力とハッカーによる情報で切り抜けているから目立たないだけで。
「あの……わたしで良ければ力になります」
幸が名探偵の境遇に同情してしまったらしく、そんなことを口にした。
「安易にそんなこと言っちゃダメだって」
「生半可な気持ちでは言ってません。わたしならなんとかできます」
体質がわかったのと決意表明をしたせいか、彼女がやけに自信満々だ。しかし、その目はどこか不安が見えて、強がりが何割か混じっているのは確実。
「芙蓉君の気遣い、嬉しいよ。本当にどうしようもなくなったら助けてもらうかもしれないけど」
「そうなる前に言ってください」
含みを持たせる名探偵の言葉をばっさりと切り捨てる幸。
「……わかった。感謝する」
素直にお礼を口にした彼はどこか安心した表情を浮かべていた。口には出さないが、やはり不安だったのだ。
それにしても初対面の男子を相手にここまではっきりと話せるのは驚きだ。ついさっきまで怯えていたというのに。慣れれば普通にできる芙蓉幸。つまり慣れる速さが上がっているのかもしれない。
「成長してるってわけか。俺も成長しないとどんどん置いて行かれそうだな」
そんなことを自然と漏らしてしまっていたのだった。
「これで華楽部の全員が揃った」
その言葉に部員たちの動きが止まる。誰もが部長である彼女の言葉に耳を傾けていた。
「トラブル回避の運を持つ男、日向拓巳。運喰いの占い少女、芙蓉幸。テレキネシスの理事長の娘、櫻華理沙。この三名を加えて、華楽部は八名となった」
ハッカーは顔を見せないし、まどかは未だに隅で震えているが八名がこの部室に集まった。最初は一人で始めた部活が一年でここまで大きくなった。
決して本人は口にしないが、これは部長である渡辺歩美の努力の結果である。
「そしてもう少しで迎える六月に櫻華祭がある」
「……なんだっけ、理沙ちゃん」
「簡単に言えば文化祭よ」
「あ、なるほど」
新入生同士の会話はスルーされつつ、歩美はさらに話を進めていく。
「華楽部の当面の目標はこの六月末週にある櫻華祭に出す出し物を決めること。いえ、さらに成功させることも条件」
「あゆ姉、じゃなかった。部長、なんで急にそんなことを」
「今回の櫻華祭できちんとした成果が出せないと来年の部費が出ないのでよろしく」
まったく表情を変えずにさらりと爆弾発言をする。これがうちの部長である。
「ぶ、部費がなくなるんですか! ……というか、部費って何に使ってるんですか」
最初は驚いたものの、幸はすぐに冷静になった。だんだんとこの部に馴染んできているようでなによりである。
「主にパソコン機器」
「それがシェアの半分以上は確実に占めてそうね」
誰も言わないつもりでいたが、理沙だけは違った。下手な発言をして個人情報を調べられても困らないということなのだろう。
そもそもハッカーがその発言で機嫌を損ねてそこまでするとも思えない。
「あとはかねちんの出張費」
「交通費を部費から出してたのかよ……」
そんな事実は知りたくはなかったと額に手を当ててうなだれた。
「部長、今でないと言いましたね」
理沙は何かが引っかかったらしく、歩美に確認を取る。
「言った」
「つまり部費は学園からまだ出てないってことですよね」
「そう」
「なっ!」
衝撃の事実がさらに飛び出した。そもそも部費がまだ華楽部に入っていない。
「去年の六月の時点でワタシとまどちんしかいなかった。部の活動成果を認めてもらえるような出し物はできなかった。できたとしても部員数が五人いないとおりない。だからまだ部費はない」
審査のタイミングが文化祭である櫻華祭であることに疑問を持つがそれは今置いておく。
「じゃあお金はどこから……」
幸のその疑問は当然のものだ。
「ワタシの本業から出してる」
つまり料理店へのアドバイザー料。
「それにここはコンピュータルーム。パソコンの大半は元からあるのを使ってもらっている。ただメインとなるパソコンにはお金を出した」
「それでも結構したことには変わりないだろ」
「とにかくそこはいいから」
話を打ちきる歩美。そこではなく、もっと別のところにこの話の本題があるということなのだろうか。
「今回部費を獲得しないと苦しくなるのは拓巳君達だから。来年にはワタシもよっちんもいない。その意味はわかるよね」
「そこまで言われてわからない奴はいないさ」
今は部長が個人資産を費やしているから部費の代わりになっている。それが校則違反かどうかはわからないが。
とにかく部を背負うのは副部長である自分になってくる。
「これはがんばらないといけませんね」
幸も状況がわかったらしく、深く頷きながらこちらを見ていた。
「でも今回の出し物は考えなくても決まりじゃない?」
そんな理沙の言葉に部員たちの視線が一気に芙蓉幸に集まった。
「えっ、えっと、皆さん? どうかしましたか?」
「あぁ、それは名案だな、理沙」
「でしょう、副部長」
「ふーむ、なるほど。僕は賛成だ」
「吾も異論はないな」
「あたしも、いいと思う」
隅で膝を抱えながらまどかも賛成を口にする。
ハッカーも腕を伸ばして、頭の上で輪になるように手をくっつけて丸を作っていた。
本人を覗いて、満場一致。
「じゃあ決まり。よろしく、さっちん」
「……あっ! ちょ、ちょっと本気ですか……」
ようやく彼女自身も気づいたようだ。
「もちろん一人でやれ、なんて言わないさ。幸、俺達もいるから」
彼女がぐるりと部室を見回す。ここには個性の塊でしかない人が集まっている。その皆が彼女に視線を向けていた。一人じゃない。みんながいる。
「わ、わかりました……わたし、がんばってみます!」
そのことがわかってくれたらしく、幸の表情も弱気さが抜けてしっかりとしたものになる。
「幸に全部任せっきりにならないようにしっかりと華楽部で支えていく、でいいね?」
反対意見はない。副部長である彼が仕切るのも自然なものとして受け入れられていた。
今年の華楽部の出し物は――占いの館。
主役はもちろん運喰いの占い少女。
学園内の悩みを解決する部をアピールするのに申し分のない出し物なのであった。
END
かがくぶっ!~トラブル回避の運を持つ男と不幸な占い少女~ きーたん @ki-tan
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