霊配師

雪野 凪

第1話 - 通勤電車と寄り道 -

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 おはようございます。


 社員証を忘れ、これから一旦帰宅するため、1時間ほど遅れての出社となります。


 連日の遅刻で申し訳ありません。


 ご迷惑をおかけしますが宜しくお願い致します。



                  下神葉月


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 「今週コンプリートで遅刻はヤバイよなぁ...」



 全力疾走で切らした息をようやく整え、いつもと変わらぬ車窓の景色を眺めながら、呟いてしまった。



 正面にいるサラリーマン風のオジさんが自らのスマホから一瞬こちらの方に目を向けただけで、他に反応する者は居ない。



 遅刻で乗り遅れた分、電車内は普段より空いている様に感じた。



 乗車率200%の殺人的車両から比べると、通勤ラッシュを過ぎた車両は愛でてあげたいほどの空き具合ではあるが、座席が空くことは無く、僕は吊革に体重を乗せてフラフラ揺られている。




 起床して、時計の針の位置に驚倒しながらもベッドから跳ね起き、歯を磨きながら着替えを済ませ、部屋を飛び出し駅を目掛けて走り出す。



 車両に乗り込むとすかさずスマホを取り出し、社内専用のチャットツールで遅刻の報告を済ませる。



 昨日に引き続き、起床して最初の仕事はこれだった。



 一昨日もそうだった。



 それだけに留まらず、月曜日から同じ事をやっている様な気がする。



 2日連続ならまだしも、5日連続の遅刻は流石にまずい。



 月・火曜日こそ電車遅延による遅刻ではある。


 しかし、実のところ両日ともに寝坊している。


 たまたま電車遅延が発生し、全面的に電車遅延に罪を被せた。


 申し訳ない。



 水・木曜日は共に1時間以上の大幅遅刻だった。


 起きると出社5分前。


 両日、「体調不良のため様子をみてからの出社」というように報告はしているが、社内の印象は悪いだろうし、恐らく寝坊だということはバレているだろう。


 体調不良の様な素振りを見せてみたが誰からも心配されることもなく、仲の良い連中には「ドンマイ」と慰められただけだった。



 「いっその事、体調が悪化した事にして欠勤すれば良かったかも・・・」


 しかし、先程「社員証を忘れて取りに戻っている」との報告を入れてしまった。


 こんな時に変な判断をしてしまい、嘘に嘘を重ね、罪悪感を感じてしまう。


 もっと図太く生きていきたいものではあるが、要領の悪さと妙な真面目さが邪魔してしまう。



 そんな事を考えているうちに乗り換えの駅に到着した。



 ここまで来ればあと15分ほど電車に揺られていれば会社の最寄り駅に着く。



 僕はその15分を使って、出社してからの行動をシミュレートしてみた。



 まず、受付からエレベーターに乗るまでは、いかにも「外回りをしてから出社しました」と言わんばかりに我が物顔で闊歩しよう。



 所属部所のある24階についた瞬間早足で向かい、少々息を切らせ、申し訳なさそうにオフィスに入ろう。



 そして、体調悪気に課長に謝罪すれば良い。



 そこで怒られるんだったらその時に考えれば良いし、今日は金曜日だ。



 土日を挟んで月曜を迎えればあまり気まずくもないだろう。



 今日を乗り越えられたら今週を乗り越えられるのだ。



 そして、今朝を乗り越えられたら今日を乗り越えられるのだ。



 そう意気込みながら無駄にテンションを上げているのに気づき、体調が悪いのは事実かもしれないと思った。




 電車内は相変わらず静まり返っている。



 「急停車します。ご注意ください。」



 「ぬぉっ!!」



 アナウンスとほぼ同時に急停車し、僕の身体は前方方向へ勢い良く舞った。



 「あんた!あんた!大丈夫かい!?」



 優先席付近まで飛ばされて倒れ込んでしまった僕にご老人方々が叫ぶように声をかけてくれている。



 加えて何名かが手を差し伸べてくれているのだが、その手もシワシワだ。



 流石に優先席に座られている方々に助けてもらうわけにはいかない。



 「あー、すみません、すみません!驚かせましたよね!僕は全然大丈夫なんで、気にしないでください!ほんと、ありがとうございます。」



 と言って、全身に激しい痛みを伴いながらも、なんとか平然と立ち上がってみせた。



 急停車だったとはいえ、派手にぶっ飛んだのは20代前半の僕だけだ。



 何よりも恥ずかしい。




 「只今線路内に不審物立ち入りのため急停車しました。現在、当車の乗務員が確認作業を行っております。このため、当電車は薪野駅から城陽駅間にて停車いたしております。ご利用のお客様にはご迷惑をおかけしましています。大変申し訳ありません。今暫くお待ち下さい。」



 派手に転んだ上に暫くここから抜け出せないのか。



 せめて車両だけでも変えようかと考えたがそれも逃げているように思えて気が乗らず、足を引き摺りたいのを我慢しながら元の場所に戻ることにした。





 ん...




 吊革がない?




 確かに先程まで握りしめていた吊革がなくなっている。



 正確に言えば、先程まで僕が握りしめていた吊革だけなくなっている。



 投げ出される直前まで、確かに僕はこの列の一番端の吊革を掴んでいた。



 前に座っている爆睡中のオジさんも、隣の青年の顔も覚えている。



 確実にこの場所に僕は居たのだ。




 周りからの視線を感じる。



 近くの幼稚園児はポカンと口を開けてこちら凝視している。



 それもそうだ。



 車両の端までぶっ飛んだ男が今度は存在してないエアー吊革を右手でハフハフしてるのだ。



 ついでにブツブツ何か呟いている。



 注目の眼差し以外の何者でもないだろう。



 可愛い幼稚園児にはニコッと笑って誤魔化せたとしてもその他の乗客に愛想を振りまいても無用。



 ただただその場をやり過ごすしか無かった。





 スマホが震えた。



 社内専用チャットの通知に上司の名前が表示された。



 なかなか出社しないのを心配しての連絡だったが、明らかに激怒しているだろう。



 とにかく、今の現状を伝えるしかなさそうだ。




 「大変お待たせいたしました。電車動きますのでご注意ください。」



 電車がゆっくりと動き出した。



 1分ほどして城陽駅に到着し、再びアナウンスが流れた。



 「只今、トラブルのため全線運転を見合わせております。現在、原因究明を行っております。ご利用のお客様にはご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。臨時バスにつきましては・・・」



 こればかりはどう急いでも自分で何かできるものではない。



 ため息を付きながらホームを降りていく乗客の流れにのり、スマホを取り出し、上司に電話した。




 「おはようございます。下神です。あれ?大森課長では・・・?」



 「大森?ちょっと分からんが、大森という課長に用事があるのか?今、社内はバタバタしてるぞー。伝言しておこうか?」



 「あ、はい。大変申し訳ありません。只今、城陽駅にいるのですが全線見合わせのようで・・・」



 「あぁ、遅刻するっていうことやな。大丈夫、大丈夫。今、遅刻するっていう連絡がアチラコチラで入ってるみたいだから。とりあえず、伝えとくわ!」



 「あ、はい。ありがとうございます。できるだけ早く向かうので、宜しくお願いします。」



 「はいはぁ~い。どもー。あ、名前なんだっけ?」



 「シモガミ、といいます。上下の下に神様の神とかいてシモガミです。」



 「おっけー!りょうかい、りょうかーい。伝えとくわー」



 なんだか騒々しい人だった。



 それ以上に、受話器越しに聞こえるオフィス内はかなり慌ただしく、緊急対応を強いられているのだということが容易に想像できた。



 臨時バスに乗るならばバス待ちの行列の一員にならなければならない。



 ここから歩いても1時間は費やしてしまうだろう。




 「歩くか。」



 これから満員のバスに乗り込むことを考えると多少疲れても歩いた方が良いと思った。



 というより、満員のバスに揺られる方が疲れる。





 3月になり春とはいえど、まだまだ寒さが残っている。



 しかし、全力疾走や電車内の温度、転んだことからの羞恥心もあり、身体はやけに熱っていた。



 空を眺めながら、風に浸れば気持ちも晴れるだろう。



 もう殴打した痛みは何処にもない。



 残っているのは、おそらく、心の痛みだけだと思う。




 スマホの地図アプリで会社までの道のりを検索すると52分と表示された。



 予想に反し1時間も掛からないようだ。




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 お疲れ様です。


 只今、臨時バスを待っているのですが待ち時間が1時間を越えるらしく、出社が更に遅れる予定です。


 おそらく、11時30分には出社できると思います。


 ご迷惑をおかけしますが宜しくお願い致します。



                  下神葉月


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 30分程余裕を持たせた時間で報告した。



 どうせ遅刻している身だ。



 余分に30分くらい遅れたところで、どうということはないだろう。



 少し寄り道して、のんびりしてから出社することにしよう。




 城陽駅を出て、小さな商店街を抜け、川沿いをダラダラと歩き出した。



 休日は野球少年たちで賑わう河川敷も平日はゲートボールを行っている団体が1つあるだけで、閑散としている。



 駅近くにはビルが立ち並び、いかにもオフィス街といった風格を醸し出している一方でこの河川敷はのんびりとしたものだ。



 3~4キロ前方には同じく巨大なオフィス群がそびえ立っており、オフィス群とオフィス群を河川敷が結んでいる様にも見える。




 オフィス街の喧騒から逃れたこの空間が好きだ。



 オフィス街に阻まれた爽やかな風が颯爽と通り抜ける。



 土の匂いが微かに香り、草木が揺れている。



 ド田舎から越して来た友人曰く「都会の自然は純粋な自然の香りがしない」らしいのだが、僕はこの香りが落ち着く。



 大自然すぎると返って落ち着かないだろう。



 そう思うと、都会に嫌気がさしながらも、こんな場所に愛着を持つのは、都会に安心感を抱いているではないだろうか。



 喧騒から逃れながらも、いつでもその喧騒に戻ることができるからこそ、この場所が好きなのかもしれない。




 しかし、理由はそれだけではない。



 河川敷のちょうど中央、堤防の道路沿いに一件のカフェがある。



 森の中からそのまま持ってきたかのようなログハウス様の一階建てで、反射したガラス細工の柔らかい光が揺れながら外に漏れ出している。



 実は雑貨屋らしいのだが、そこの行くと決まって珈琲とラスクをご馳走になるため、僕の中ではカフェをいう言葉が相応しい。



 最初にこのカフェ(雑貨屋)を訪れたのはちょうど一年くらい前で、1ヶ月程前までは毎週通っていた場所だ。



 最近は忙しくなり、ご無沙汰となってしまったのだが、たまたま通勤電車が運転を見合わせ、それがちょうどカフェの最寄り駅という幸運が重なった。



 平日の朝という普段は行かない時間ではあるが少し顔を出していこう。




 月や妖精の装飾がされてある木製の看板には「雑貨屋 ルナ」と書かれている。



 ズシリと重い木製のドアを引くと懐かしい香りが流れ出し、開いた隙間を通り抜けて外に放たれた。



 「こんにちは」



 珈琲の香りと砂糖の甘い香り、木材の香りに加え、少し埃っぽい匂いも好きだった。



 「いらっしゃいませ。」



 店内から聞き慣れぬ声が聞えた。



 この店の店員さんは3人。



 店主夫婦とその娘さんだ。



 娘さんは休日しかいないので、平日の今は店主夫婦の2人しか居ないはずである。



 1ヶ月ぶりとは言え、約1年の付き合いになるが、流石に2人の声を忘れるはずがない。



 声がした方に顔を向けると見たことのない若い男性がこちらに微笑み、「どゆっくりどうぞ」と告げ、業務に戻った。



 新しい店員さんでも雇ったのか。




 キョロキョロと周りを見回してみると、以前との相違がチラホラと見受けられた。



 以前では月をモチーフにした物しか置いていなかったが今の店内にはそんな一貫性は無いようだ。



 「店員さん、すみません。今日は店主さんはいらっしゃらないんですか?」



 僕は先程の店員に訪ねた。



 店の奥に居れば良いのだが、留守だとしても伝言の一言くらい残しておこうと思った。



 その店員は並べていたネコの置物を両手にこちらまで歩み寄り、のんびりとした口調で答えた。



 「店主は私です。」



 そう言って微笑む男性とは対称的に、僕は少し険しい表情になり、頭にはハテナマークが点在していた。



 「あなたが店主さん...なんですね。あの...店主さん...じゃなくて、セイジさんはいらっしゃいますか?」



 「すみません。セイジさんという方はこの店には居ないです。ここは私と妻の2人でやっているので、間違い無いとは思うのですが...」




 ・・・どういう事態だ?少々の相違は見受けられるが、ここは間違いなく1年近く通っていた「雑貨屋 ルナ」そのものである。



 社会人になってからは自分の部屋と会社の次に長く居た場所だ。この場所のことをたった1ヶ月で忘れる訳がない。何かあるのだろう。



 「あの...ここの品物を作ってるのってどなたですか?」



 「あぁ、こちらは私と妻が作っているんですよ。私が形を作って、妻はそこに色を付けたり仕上げの作業をしてます。」



 「仕入れたものとか、他に作ってる人とか居ないんですか?」



 「少しは仕入れたものもありますが、基本的には僕達が作ったものばかりだと思いますが...」



 「あの...質問ばかりですみません。男性なんですけど、身長が180cmくらいで痩せ型で白髪交じりの男性との関わりはあったりします?」



 「すみません。知らないですね...もしかしたら、品物の材料を持ってきてくれる業者の方ですかね。しかし、私には心当たりが...妻も今出かけておりまして...」



 「そうでしたか。わかりました。質問ばかりで申し訳ありません。」



 「いえいえ。ごゆっくりどうぞ。」



 そう言われたが、僕はすぐさま店を後にした。



 あの河川敷。


 これは間違いない。



 僕は振り返ってもう一度「雑貨屋 ルナ」の看板を確認し、外観を見渡した。



 間違いないと思いながらも、先程まで起きていたことも事実なのだ。



 居るはずの人が居ない。



 そして、その人のことを知らない人が居る。



 何が起きているのかよく把握できなかった。



 もしかしたら、平日と休日で店員が変わっているということも考えられたが、流石に店員同士で顔も名前も知らないということは考えづらい。



 しかも、先程の男性は店主と言っていた。



 店を離れて会社へ向かいながらも、雑貨屋のことばかり考えていた。



 最早、自分が大遅刻している身だということさえ忘却の彼方である。



 僕が知っている1年分の記憶を辿ってみた。



 辿っても辿って現状に繋がるような手がかりは思い出せない。





 気付けば目的地である会社のビル前に居た。



 この場に来て初めて自分が出勤中だと気づいた。


 11時30分。


 報告した時間ぴったりだった。



 今日はとりあえず仕事をしよう。


 そして、土曜日の朝一番に雑貨屋に行こう。



 さっきのことは忘れておこう。



 電車の中であれ程考えた出社してから謝るまでのシチュエーションも、今となってはどうでも良かった。


 所属する部所のある24階にエレベーターが止まった。



 珈琲の匂いがする。



 同じ珈琲なのに雑貨屋とここまで違うものかと毎回思う。



 すりガラスのドアの向こうが慌ただしさが隙間から漏れ出して今にも破裂しそうだ。



 繁忙期に入り1ヶ月だが、この状況がもう1ヶ月続く。



 そして今日も僕はこのすりガラスの向こうに飛び込まないとならない。



 僕は一息、大きなため息を付いて、ドアに手をかけた。




 その時...




 取っ手を握りしめたて捕まれ、抵抗する間もなく身体を抱えられ、もの凄い勢いで移動させられた。



 というより、僕の身体が浮いて、僕の手をにぎる者に振り回されながら導かれるだけだ。



 まるで風船を持って走る人間と風船そのものの様だなと思ったのもつかの間、僕の身体はその者と共に男子トイレ(女性用トイレじゃなくて良かった)に吸いこまれた。



 そして、壁や小便器に身体をぶつけながら、ようやく僕の身体は一番奥の個室内にある便座の上で落ち着いた。



 見知らぬ者と2人で。




 トイレの個室に...




 僕と同じくスーツをまとった、恐らく同い歳くらいの男性だった。



 「・・・んでいるんですよ。」



 何を言っているのかは聴き取れなかった。



 しかし、その男の言葉をはっきりと聞きたいという感情より先に解決したい問題が僕の頭を占拠した。



 男と2人でこの男子トイレを脱出する方法である。



 入るときには、(あまりの速さに不確かではあるが)トイレ内には人は居なかった。



 しかし、今は小便器で用を足す音が聞える。



 今、用を足している彼が立ち去っても誰かが居るかもしれないし、居ないタイミングを見計らっても、2人で個室を出た瞬間に誰かに出くわす可能性が無いとは言い切れない。



 さて...そうなった場合はこの会社に所属すること自体が危ぶまれる。



 というか、即退社するしかなくなるだろう。



 だって恥ずかしいじゃないか。



 社内の雰囲気からして、あまり馬鹿にされることは無いとは思うが、どうせ「あいつは遅刻して来た上に、便所で男と2人で出てきた」なんて裏でこそこそ言われるのであろう。



 面と向かって言われたら、事情を説明することも出来るのだろうが、僕が知らないところで掛け回る噂をいちいち抑止することなど出来やしない。



 そして、あることないこと思われて、ココロの中でクスクスと笑われながら共に仕事をすることになるのであろう。





 終わった。





 これから、どうしようか。



 新入社員として入った会社を1年持たつず辞めた人間など、取ってくれる企業なんて...



 僕は今日の出来事を思い返してみた。



 寝坊して朝から全力疾走。



 電車は止まり、途中から徒歩での出勤。



 あの雑貨屋では意味の分からないことが起こるし、最終的には見知らぬ男とトイレの個室で二人きりという状況である。



 そう言えば、電車内でぶっ飛んだのも今朝だったか。




 時刻は11時40分を回ったところである。



 この午前中で様々なことが起こりすぎた。




 そして、今日の午前中にして、人生が詰みかけてる。





 「終わった。」



 あまりの驚きに声を出すことを忘れていた僕の口から、よくやく言葉が漏れてきた。



 「いえ、あの、いきなりすみません。」



 そう言う男の声も聞えるようになった。





 「あの...貴方はもう終わっているんですよ。」




 「んへ?」




 また訳の分からないことを言われた。



 訳が分からなさすぎて、変な擬音語を発してしまった。



 そんな僕の顔を見て男は申し訳無さそうな顔をした。




 「あの...貴方は既に終わった人なのです。えっと...貴方の現世での人生は一旦終了です。」




 僕は返事を返すことは出来なかったが、その男は更に申し訳無さそうな顔をして続けた。




 「貴方は既にお亡くなりになられているのです。昨夜、23時17分。現世にて息を引き取られ、こちらの世界にお越しになりました。」





 近くで水の流れる音が聞える。




 三途の川のせせらぎではない。見知らぬ誰かがドアの向こうで用を足す音だ。




 そして、手を洗う水音が聞こえた後、ハンドドライヤーの音が聞こえてきた。




 その音は轟音の如く僕の両耳を刺激し、右脳と左脳を刺激した。




 次第に目の前は真っ暗になり、気を失った。

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霊配師 雪野 凪 @nagi_yukino

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