【03】祭りの余興
◇
「無理無理無理」
「だーいじょうぶだって!全部任せるわけじゃないし!」
「無理」
「ヤバい。この人無理しか言わないわ」
説得に応じてくれず、ヨウは助けを求めるように友人のほうを振り返ったが、青い方は目に涙を浮かべるほど笑っていた。
教室が気に入ったのか、別の何かが気に入ったのか、トワの頭には小さな生き物が座っているが、今のところトワ以外には認識されていない。
他に視ることができるヒトオミは、今はそれどころではない。
第4回の会議は普通科2年の2名が無断で退出した後、後を追うように普通科3年が退出。体して関わりの無い1年同士は顔を見合わせ、肩を縮こまらせていた。特科の提案に納得は行かないが、けんか腰になれる度胸もない。
特科の生徒会長が目にしていた資料を手に席を外すと、他の生徒達もぞろぞろと出て行った。自分たちの長が出て行ったので、生徒会役員も退出。
普通科の生徒会と風紀委員が難しそうな顔をしたまま自然と前に集まる。
出席していた普通科の各委員長達は、集まった彼らを一心に見ていた。
なるべく穏便に。
そうは思っているし、特科に関わらなければ波は立たない。けれど、今回はそうは言っていられない。横暴すぎるし、他の生徒達だって間違いなく不満を訴える。
「火宮生徒会長と話をしてみる」
普通科生徒会長がそういったことで、今回はお開きとなった。
特に口止めはされていないが、言わない方がいいとなんとなく思った。事を大にすれば、特科も引くに引けなくなる。騒ぎになれば教師陣が文化祭の中止を言い出しかねない。それはどちらにも不本意の結果だ。
そんな流れで委員会が終わり、教室に2人は戻ってきた。
ヨウが先に入ると、ドア付近で待ち伏せしていたのかと聞きたくなるほどあっという間にクラスメートに囲まれた。
どうだった?どうだった?としきりに聞かれ、ヨウは「落ち着け」と1人ずつに言って聞かせた。そんな人だまりの後ろをヒトオミは忍のように静かに入り、自分の席に座る。これから先は準備だから、自分たちではなくクラス委員を中心に話が進む。役目は全うした。
委員会で案が通ったことの歓声を聞きながら、ヒトオミは背もたれに背を預けた。なんとなく肩を揉んでみる。首を回して、リラックスをしていると、「お疲れやね」と上から訛り声がふってきた。
「慣れないことで、ちょっと……ね」
「よぉ休んだらええよ。まぁすぐに忙しくなるやろうけど……」
トワはにこやかに微笑んだ。おっとりした訛り口調が癒しに思えた。委員会で堅苦しい声を聞いてきた後だからだろう。
委員会の方ではなんかとんでもない議案が出されているし、出店内容が決まった次は店の規模を決め、次の会議では場所を決めなければいけない。まだ役目は終わっていないけれど、一休み。
「てなわけで、これから作業に入るわけだけど、どうする?どうやってわける?」
誰かの声に、トワが顔をむけた。
「何の作業が必要かによるよね。謎というかゲームを考える係、あとは飾り付けとかのデザインを考える係、それを作る係」
「今のとこはそんなもんかな?まだ形もないしね」
「デザインはなんとなくできかけてるんだよね?」
「いくつか考えあるから、多数決とかで決めて欲しいかも」
女子生徒が紙を数枚手に持つと、横から複数手が伸びてきて、円状に集まっていた生徒達が見て、それを横に回し出す。
これがいい。こっちもいい。そうやって盛り上がっていく集団から話し合っていた人達が少し離れて、軌道を戻す。
「ゲームといっても、どういうのがいいのかとかあんま分かんないかも」
「あー確かに。なんかこういうの得意な人とかで作れば?」
「頭がいいって事?じゃあサクとかどうよ?」
「え?僕やっていいの!?それは嬉しい話だね」
「とか言ってるし、じゃあこの馬鹿が好きなメンバー引き抜くっていうのはどうよ?」
「僕はそれでもいいけどさ、こういうのはやっぱ発案者に確認するべきなんじゃない?」
友人の青い目が人の合間を縫って、ヒトオミの元に届けられた。。
サッと目を逸らすが、一瞬反応が遅れた。誰かがこちらに近寄ってくる様な気がする。
「あちゃぁ……」というトワの声がその証拠だった。
誰かの陰が目の前に現れた。
「ヒートオーミ君、一緒にやろうよ」
遊びましょ、みたいなノリで気軽に誘われたってそう簡単に頷いてやるものか。サク1人だけじゃ足りないと思ったのか、そこに見た目は不良の赤が加わる。
そして、冒頭に至る。
「ここまで拒否る根性、別のことに生かしてくれよ」
どうにもならないことがようやく伝わったのか、ヨウは揺さぶっていたヒトオミの肩から手を離す。
「逆に、何がそんなに嫌なのさ。僕らと作業すること?」
からかうその口調は拒否されるなんてことを想定していないもの。
何が何でも首を縦に振らせる気だ。そういうところは強情な奴だ。
「案外そうかも」
「ひどいや」
そう言いながらサクは愉快そうに笑う。
「とりあえず、なんかゲームブックみたいなのからネタ探そうか」
「メンバー決めてから言えや」
「あぁそうだった。どれくらいの割合で人数割く?装飾の方が人手要るよね?」
どうやらこっちのほうはサクがやるのは決まったらしい。そして、なんとなく自分も含まれているような気がする。勝手に決められた気がする。
「そっち人が多いと考えがまとまらなくてやりにくいかもだしね。10人もいらないっしょ?」
「最高10人ぐらいかなぁ、今のとこは。足りなかったらお手伝いお願いするよ」
「おけ。んじゃ、候補者募るなり引き抜くなりしてくれ。そっちは任せた」
OKとサクが親指を立てると、ヨウも応じて親指を立てる。
異論がある人は居ないらしく、むしろゲーム制作に携わりたいという生徒がサクに詰め寄る。方針も決まり、生徒達がそれぞれ動き出した。
結局俺は確定なのか。それをサクに確認しようとしたら、肩を叩かれた。
「俺ら文化祭実行委員はそれぞれ別れよう。なんかあったら生徒会とかにすぐ連絡できる方が都合いいだろうし」
「あぁ……そうだね」
「どっちがいい?俺はどっちも楽しそうだからどっちでもいいけど、多分そっちの方が人との関わり少ないかもだけど……どうする?代わる?」
弾かれたようにヨウの顔を見た。真面目な顔がそこにはあった。どことなく心配されているような気もする。
「……俺で良ければ、こっちは任せて欲しい」
ばしっ!と思いっきり背を叩かれた。鮮やかな紅葉が出来てるに違いない。
「オーケー、相棒。任した」
「もうちょっと手加減してよね……」
叩かれた背を押さえながら小さく抗議すると、すがすがしく笑い飛ばされた。
感情の起伏が少ない特殊な面が、ほんの少し口角を上げた。
◇
前々から変な予感はしていた。
それが確証に変わったのは、9月上旬。始めはただのやんちゃだと思った。暇つぶしに始めたことだったのだろうけれど、やり過ぎだとも思い始めていた。
やんちゃ。暇つぶし。そんな言葉で片付けられなくなったのが、9月上旬から始まった暴力事件の模倣。彼女の動きを探っているうちに、【外】の勢力と繋がっている事が分かった。
そして、19日。ようやく話をすることが出来た。
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INSTANT WORLD 玖柳龍華 @ryuka
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