amber

@drfaceless

第1話

彼女は夜が嫌いではなかった。

むしろ太陽が己の身を照り付け、隠れることが出来ない昼間の方が嫌いだった。

ひねくれてる、と言われて仕舞えばそれで終わりだけれど、どこか心地よい涼やかな風が身を包む夜を彼女は嫌いになれない。

そんな夜を初めて恐ろしいと思うのは、おそらく今が初めてではないかだろうか。

早く夜が明けてくれれば。

そう拳を握りしめてただひたすら暗闇を走る。

もうどれだけ走っただろう、足が棒のようだ、などと考えてはまた走る。

自分を襲う恐怖と暗闇から逃げようと必死で走る。

心地よいはずの風は、薄ら寒いだけたった。



彼女はエイレーンという名だ。

エイレーンという名がどんな意味なのかは知らない。

彼女にこの名を与えた両親は既に居なかったからである。

死んでいるかもしれないし、そうでないかもしれない。

だが、彼女の前から居ないというのは事実だった。

そんな孤児を拾って育ててくれたのが、おじさん《おじさん》だった。

おじさんといっても彼女と、エイレーンと血のつながりはないだろう。

そのことは、エイレーンの美しい栗色の御髪とおじさんの漆黒の髪が物語っている。

血の繋がりがなくても、エイレーンは彼が好きだった。

彼がエイレーンを実の娘のように愛してくれた。

おじさんは私をあいしてくれている。

それは、確かなはずだった。

だから彼女は今、暗闇を走るーーーーーーーーー

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