第6話

『初めてのプレイヤーVSプレイヤーモードです。このモードは一対一のタイマンスタイルで行われます。利用条件はお互いが合意することです。相手が魔物からプレイヤーに変わるだけのことですが、アイテムの利用は不可となります。ペナルティーの設定はいかがなさいますか?』


 ペナルティーがあるのか。

 何々?

 アイテム譲渡、所持金譲渡、全財産譲渡、ステータスダウン……。

 なるほど、負けたら自分に降りかかってくるから慎重に選んだほうがいいってことだな。

 ならば全財産譲渡に決まってるだろう。

 リスクは最大だけど勝てば実入りも最大だ。

 ここは挑発も込めて全ツッパでお願いします。


「今持っている全財産を全部賭けてやろうか。攻略組名乗ってるんだから逃やしないよな? それとも、負けるのが怖いからやめておくか?」

「あ!? 急に強気になりやがってこのクソ雑魚が!」

「おうアルフレッド、さっさとやっちまえよ!」

「こういう勘違い野郎にゃお仕置きが必要だろうよ!」


 案の定乗ってきたよ。

 冷静に見てみたらそんなに上等な装備なわけでもなさそうだし、言動から漂う下っ端感も半端じゃない。

 仮にこいつらが本当に攻略組とかいうトップ集団のメンバーだとしても末端の末端ってとこだと判断した。

 というかこんなやつらに負けるようだったら引退するわ。


『†アルフレッド†様がペナルティーを承認しました。障壁を展開します。カウントダウン。5、4、3、2、1。プレイヤーVSプレイヤー、しろくまVS†アルフレッド†戦、開始!』


 結構あっさりとカウントダウンが始まってタイマンが始まる。

 演出が淡白だなあ、なんて思ってたらアルフレッドが既に走り出していた。

 

 

「いくぜクソ着ぐるみ野郎! 【アシッドスラッシュ】!」


 アルフレッドの武器はシンプルなナイフ。

 革製っぽい胸当てやブーツを身につけた動きやすそうな格好をしている。

 どうせ俺のAGIじゃ避けられない。

 割り切って観察するとナイフの刃が若干の紫掛かってるのがわかった。

 毒系のスキルかな? なんて見てたら肩ぐちから袈裟斬りに切りつけらる。

 

HP :36/39

MP :17

BUF:

DBUF:


 正面からざっくり切りつけられたとは思えないくらい軽い衝撃のあとステータスを見ると、ほとんど数字に変動はないし毒なんかのバッドステータスの付与もない。

 なるほど、CON様々だな。


「おいおい、そんなもんかい? 正直ガッカリだ。泥狼のほうがまだ歯応えあったぞアルフレッド君」

 

 両腕を広げてノーダメージだとアピール。

 

「ちっ! さてはCON特化か? めんどくせえなおい! 【チャージ】!!」

「そう言うお前はAGI特化の、盗賊系かな?」


 アルフレッドの身体が淡く光り始めた。 

 俗に言う『力を溜める』ってやつね。

 子供の頃は力を溜めるのに一ターン消費するのに納得行かなかったなあ。

 チャージの効果なのかアルフレッドが光を纏ったままだ。

 主人公っぽい演出だな。

 中身チンピラだけど。

 

「はああああ!! 【アシッドスラッ】」

「【テイルハンマー】!!」 

 

 説明しよう。

 テイルハンマーは着ぐるみの短い尻尾がスキルによって長くなり、先端がハンマー型に変形する攻撃スキルだ。

 鞭のようなしなりと硬いハンマーで大ダメージを与える、というのがフレーバーテキストの内容。

 

「グヘッ!」


 無防備なアルフレッドの腹にハンマー部分がクリーンヒットした。

 あ、ごめんスキル止まっちゃったね。

 でもね、終わらないのよ。

 

「【硬化】。からの……【テイルハンマー】!!」


 アクティブスキル硬化発動。

 効果はそのままだ。

 硬化だけに、ね。

 はっはっはあ!

 硬い尻尾は痛えだろうが!


「ゲヘッ!! っそ、調子に乗」

「【咆哮おおおおおおおおあお】!!!」

「いい!?」


 アクティブスキル咆哮発動。

 効果は、格下の相手の動きをほんの少しだけ止める!

 ほら、止まったよなあ!?

 お前はあ、俺よりい、か・く・し・た・だ!!


「死ねおらあ!!」


『プレイヤーVSプレイヤー。しろくまVS†アルフレッド†戦、終了。勝者、しろくま』


 決まり手は、テイルハンマーでくの字になったところに顔面への喧嘩キック。


HP :36/39

MP :0

BUF:

DBUF:


MP尽きてるな。

テイルハンマー二回、硬化一回、咆哮一回か。

覚えておこう。

 

「おい、†アルフレッド†って戦闘集団の『魁』のメンバーだろ?」

「完封かよ。何もんだあの着ぐるみ」

「まあいい気味だろ。強えのはアイツらじゃなくて別パーティーのやつらなのに威張り散らしてたしな」

「よくやったぞ着ぐるみ!」


 遠巻きに見ていた野次馬プレイヤー達からの拍手に右手を突き上げると大盛り上がりだ。

 あー、気持ちいいなこれ。

 

『ペナルティーを実行します。敗者†アルフレッド†様の所持金および全所有アイテムが勝者しろくま様に譲渡されました。ご確認ください』


 おお、結構金持ってたんだな、攻略組ってのは本当だったみたいだ。

 武器やら防具やらあとで売却するとして、回復とかの消費アイテムはあとで二人にも分配しようかね。

 あとは……なんだこれ。


「おい、アルフレッド! 何負けてやがるんだよ!」

「まさかお前、あれも取られたのか!? どうなんだ!?」

「……ねえ、ねえよ! キーアイテムまで取られちまうのかよ……」



「と、いうわけで小金や回復アイテムの他に大分重要なアイテムっぽいものを手に入れたんだがこれ、なんだと思う?」


 第一回、着ぐるみ会議ー!

 はい、集合場所に来た途端タミコくんに冷たい目で見られてます。

 まあ着ぐるみなんで顔見えないけど多分呆れてるだろうことは想像に難くない。


「一体何をしでかしたんですかしろくまさん。ここに来るまでに、着ぐるみだ! とか、恐竜の仲間か? とか知らない人にたくさん声をかけられたんですけど」

「俺にはフレンドからメールが来たぜ? お前と同じ着ぐるみプレイヤーが暴れてるぞってな。なんでも攻略組に絡まれて返り討ちにした挙句全財産掻っ払ったらしいじゃねえか。流石は兄さん。優しいフリしてやることえぐいぜ」


 アキラくんはパーティー以外にもフレンドいるのか、着ぐるみなのにすごいコミュ力だな。

 五分十分前のことが出回ってるってことはさっきの野次馬の中にアキラくんのフレンドがいたのか。

 

「人聞きの悪い。悪質プレイヤーにはペナルティーがあって然るべきだろう」

「攻略組ってどこの団体と戦ったんですか? 掲示板とかで人気なのは『星屑の街』とか『魁』とか」

「一方的に絡まれただけだから自己紹介すらしてない」

「ああ、そうですか。まあいいです。しろくまさんが無闇に攻略組に絡んでPKに勤しむような人じゃないのはわかってますので。それよりもこの鍵ですけど……多分、今日行く予定の迷宮で手に入る材料で作るはずだった、次の街に進むためのアイテムだと思います」


 本当の重要アイテムだったのか。

 流石にこれは可哀想だから返してもいいんだけど、戦利品の一つと、割り切って使ってしまうのもありだ。

 二人の意見を聞いておくか。

 うちのパーティーは民主主義です。


「じゃあ次の街に行っちゃうか?」

「いえ、予定どおり赤銅の迷宮に行きましょう。だってせっかくの初迷宮ですよ! ゲームなんだからスキップせず一つ一つクリアしたいです!」

「ま、タミコの言い分にも一理あるわな。兄さんとタミコは今日休み最後だろ? 一応の区切りとして迷宮とやらをクリアしようや」

「二人がそう言うなら俺は構わないよ。そうするとこの奪った鍵はストレージを圧縮するだけのゴミか」


 やってきました赤銅の迷宮。

 既に多くのパーティーやソロプレイヤーが攻略しているみたいで情報が開示されまくっているらしい。

 うちの情報班ことタミコくんが調べたところによると、四階層で構成されていて、一、二階は取るに足らない雑魚の群れだけど三階からは毒を持ってる魔物が出てくるので注意ということだった。

 最初のダンジョンで毒持ちがいるって、この辺は技術が進んでも王道なんだな。

 最初の街で薬草と毒消しを買い込むのは古今東西変わらないか。

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ファンタジー世界を着ぐるみで @rosecitym1

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