第5話

 泥狼でいろう五匹の討伐は難なくクリアすることができた。

 タンクよろしく俺が攻撃を引き受けている間に空からアキラくんが牽制し、出来た隙をタミコくんが突く。

 泥狼も複数の連携で獲物を仕留めるらしいんだけど、俺たち着ぐるみ三人衆の即席連携の前に一匹一匹が分断され、敢えなく散って行った。

 次の5の倍数はLv20以上推奨になるけど、あまり調子に乗ってると悪目立ちしちゃうので当面はLv15前後の依頼を受けることで意見が一致。

 差し当たってはチート装備着ぐるみを使いこなすべく、スキルを使わず通常攻撃だけ縛ってみたり、一人だけ戦って後の二人は観戦モードになってみたり修行に励んだ。

 

 


 正月休みも今日で最後だ。

 DOの世界にどっぷり浸りきって過ごしたおかげで退屈はしなくて済んだのは良かった。

 起きて朝飯食べてログインして、昼飯食べてログインして、晩飯食べてログインして、寝る。

 控えめに言っても最高だ。


ポーン♪


 休み最後の昼飯に、近所のラーメン屋から焼飯の出前をとって食べていると着信を知らせる間の抜けた音が鳴る。

 差出人は見なくてもわかる。

 どうせタミコくんかアキラくんだ。

 学生のタミコくんはもちろん、アキラくんの実家も商売は明日かららしいので、結局知り合った日から毎日パーティーメールによるお誘いが続いた。

 

『しろくまさんへ

 お休みも最後なので、昨日話してた迷宮にチャレンジしませんか?

 アキラさんはOKらしいです。

 お返事待ってますね!』


 タミコくんはあれだな。

 歳の割に若干幼いところがあるね。

 もしかしたらゲームのなかだけでリアルでは信じられないくらいの堅物の可能性もあるけど。

 ここ数日、毎日一緒にDOをプレイしてわかったことがある。

 二人ともとてもいい子だということだ。

 口調はロールプレイだとしても、その端々に人柄が滲み出てる。

 きっと優しい子たちなんだろう。

 そんな若者二人と枯れたリーマンな俺の三人組。

 我々『KI-gulumi』は和気藹々とした雰囲気の風通しのいいアットホームなパーティーです。

 ……胡散臭いブラック企業の求人広告みたいだな。

 

『了解。時間と集合場所を指定してくれたら合流する』


 ポーン♪


『わーい!

 じゃあ街の南門に13時に集合しましょう。

 アキラさんにも伝えておきますね!』

 

 あと一時間くらいか。

 先にログインしてたまには街をぶらついてみるか。

 武器とか防具はいらないし、今のところ深刻なダメージも受けてないから回復アイテムなんかも買ってない。

 だもんで街をぶらつくことがないんだよね。

 絡まれても面倒だしさ。


「おいおい、なんだこの着ぐるみ!」

「だっせ! ダサ過ぎて世界観壊してんだよ」

「これチュートリアルのクソドロップだろ? そんなもんしか装備できてねえとかよっぽどカスプレイヤーなんじゃね?」

 

 ほらね。

 あー面倒くさい。

 どこにでもいるんだなこの手合いは。

 しかし彼らの生き様がテンプレ過ぎる気がするのは気のせいだろうか。

 考えようによっちゃタミコくんが絡まれたんじゃなくて良かったのかもしれない。

 待ち合わせまでまだ大分あるなあ。

 


「おいおい、なに無視してんだよ! なんとか言えよ着ぐるみ!」

「馬鹿お前、俺らにビビって声も出ないんだよ言わせんな恥ずかしい」

「確かに確かに。俺らみたいな攻略組に声かけられたら誰でもこうなっちまうわな!」


 本当に実在するのかこいつら。

 俺ツエー系に出てくる荒くれ冒険者をそのままトレースしたような台詞を息をするように吐いてくるなんて痺れるね。

 まあ実害ないから放置で。

 全年齢対象でセクハラパワハラ一切ノーの安全設計らしい。

 同意がなければ一定以上の距離からは近づけなくなってて快適なことこの上ない。


 ポーン♪

 

『プレイヤーネーム†アルフレッド†様よりプレイヤーvsプレイヤーの申込が届いています!

 対戦を行いますか?

→ YES

 NO』


 NO


「おい! なんで拒否するんだよ!」

「ヘタレかよ!」

「勘弁しろよ盛り下がるわー」


 今日行くのは……そうそう赤銅の迷宮だ。 

 初心者向けのダンジョンで腕試しをしつつ次の街に進むためのアイテムを確保すると。

 違うな。

 赤銅の迷宮をクリアすると次の街に進むためのアイテムの材料が手に入るんだと。

 まあレベル15以上推奨の依頼はあらかた片付けたし、俺たちのレベルも上がってきたからそこまで苦労はしないだろう。


Name : しろくま

Race: 着ぐるみ

Sex: 雄

Job : アンキロサウルス

Lv : 9

HP :39(+4)

MP :17(+2)

STR : 36(+3)

AGI : 16

CON :44(+3)

INT : 3

DEX : 5

LUC : 15


Actionskill : 【硬化】【咆哮】【テイルハンマー】

Passiveskill : 【嗅覚】


Name : アキラ

Race: 着ぐるみ

Sex: 雄

Job : イヌワシ

Lv : 7

HP :17(+2)

MP :12(+2)

STR :38(+1)

AGI : 53(+4)

CON :9(+1)

INT :16

DEX :20(+2)

LUC :3


Actionskill : 【フェザーバレット】【鷲掴み】

Passiveskill : 【鷹の目】


Name : タミコ

Race: 着ぐるみ

Sex: 雄

Job : サーバルキャット

Lv : 7

HP :17(+2)

MP :9(+2)

STR : 17(+1)

AGI : 57(+4)

CON :4

INT : 13

DEX : 18

LUC : 33(+3)


Actionskill : 【ネイルスラッシュ】【毛繕い】【受身】

Passiveskill : 【ヒゲアンテナ】


 二人とも装甲薄すぎるだろ。

 そして俺は鈍足すぎるわけだが、なんだかんだとお互いを補い合えるステータスに落ち着いてるな。

 硬い軟い軟い。

 遅い速い速い。

 ノーマルラック、バッドラック、グッドラック。

 俺の賢さとアキラくんの運、死んどるがな。

 


「いつまで無視してんだよこらあ!」

「こっち向けやこら着ぐるみがあ!」

「PvP受けろやくらあ!」

「……しつこいなテンプレ3人組。散れ散れ。攻略組? なら攻略組? らしくフィールドに出てきなさいよ」


 まあまあ集中してパーティーステータス眺めてたのにまだいるわ。

 ここまでいくとなかなか根性あるのかもしれん。

 ……ただ粘着質なだけか。

 えーと、あ、このボタンか。


『プレイヤーネーム†アルフレッド†様にプレイヤーvsプレイヤーを申込ました!』


「覚悟しろよ自称攻略組。食い散らかしてやるわ!」


 


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