第4話

「推奨レベルとこんだけ差があっても余裕ってことは、もうちょい上の依頼にいけそうじゃねえ?」

「まあそうだろうな。出来れば徐々に刻みながら適正な依頼のレベル帯を探りたいたいところだ」

「んーと、じゃあ次はこのあたりですか? さっきの岩鬼が推奨レベル10以上でしたよね」


『依頼内容: 泥狼でいろう討伐

必要討伐数 : 5体

推奨Lv : Lv15以上

推奨職業 :魔術師全般

報酬 : 泥炭、湿った粘土』


 タミコが示したのは岩鬼よりもさらに推奨レベル+5の依頼。

 泥狼か。

 普通狼と言えば風とか素早そうな属性なイメージだけど。

 報酬も狼じゃなくてゴーレムを倒した時にドロップするやつだよ。


「いきなり5も上げるか? 大胆だなタミコくんよ」

「まあ、キリよく5の倍数で攻めるってのもありっちゃあありだな。俺ら全員Lv10以下だからデスペナもねえし。やられたらレベル帯を下げるってのでどうだい兄さん」


 知らなかったけど、初心者救済措置としてLv10以下のプレイヤーは死んでもバッドステータスの付与が免除されるらしい。

 デスペナがあることも初めて知ったんだけど。


「なるほどね。死んだってデメリットはないのか。よし、行こう」

「はっはあ! 流石はパーティーリーダーだぜ。決断が早えわ」


 泥狼の生息地まで徒歩移動する着ぐるみ三人衆。

 通りすがる他のプレイヤーからめっちゃ見られたけど今更気にしない。

 俺が逆の立場ならガン見するに決まってるしな。

 

「今更だけど、本当に三人でパーティー組む気か?」

「え、ダメですか? 私はもうそのつもりでいたんですけど」

「俺もだよ。着ぐるみ装備が三人揃ってたら目立つし絶対楽しいって」


 目立つのはもう間違いない。

 既に目立ってるから。

 それが悪目立ちだとしても。

 楽しいかどうかは……まあこれからわかるだろう。

 今のところ基本ワンパンで敵を葬ってるので戦闘の楽しさをまだ味わえてない気がする。

 いや、岩鬼のサイズ感とかに興奮はしたけど、その分呆気なく終わったから肩透かし感があったんだよ。


「まあ、正直言ってこの装備でお前ら二人以外とパーティー組むのは無理だろうから選択肢はないんだけどね。仕方ない。パーティー組むか」

「そうこなくっちゃ! パーティーリーダーは兄さんとして。パーティー名はどうするよ? ビッとした奴じゃなきゃ締まらねえぜ?」

「着ぐるみはパーティー名に絡めますよね?」


 共通点それしかないしやむを得ない。

 着ぐるみから連想されるもので何かいいのはないかな……。

 ないな。

 確か着ぐるみを英語にしてもコスチュームとかそんなんだったはずだし、着ぐるみから連想できるものなんて遊園地とかデパートの物産展とかしかない。


「別に『着ぐるみ』ってパーティー名でいいんだけどな」

「そこは捻ろうぜ兄さん」

「可愛いのがいいですよね。この見た目でカッコつけても違和感凄いですから」


 違和感ね。

 そこから攻めるのもありだな。

 

「むしろ振り切るくらいカッコつけてみるのもありか? タミコくんが言う違和感、つまりこの可愛さ重視の見た目に反したギャップを前面に押し出してみたりさ」

「例えば?」

「『KI-gulumi《ケイアイ-グルミ》』なんてどうだ?」

「結果『着ぐるみ』じゃねえかよ。表記的には意外とスタイリッシュだから文句も言い辛えけどさ」

「私は賛成です! いいですね、シックな感じでカッコいいです!」

  

 シックでもスタイリッシュでもない気がするが、二人がいいならそれでいこう。

 略称は『きぐるみ』。

 そうなるよね。


「じゃあパーティー名『KI-gulumi』、パーティーリーダーはしろくまさんっと。はい、申請しました! これで野良パーティーじゃ使えない機能も使えますよー」

「え、そんなのあるの?」

「しろくまさんって、何も調べずにプレイ始めたんですね」

「暇つぶし目的だからな。正直箱から出したら即ログインしてきてる。事前の情報収集なんか一切してないぞ」

「まあ、その結果チュートリアル周回なんて普通はやらねえことやってるんだろうな。ありがてえこった」


 正式にパーティーを組むとログインしてなくてもメールが使えるらしい

 大丈夫かそれ

 ストーカー化したりしたいだろうな

 あとは金を貯めるとパーティー専用の家が買えたり、ペットを飼えたりするんだとか

 ログアウトしたら一応最低限の仕様くらいは確認しておくかな


「なるほど、確かに便利機能だな。一応確認なんだけど、2人は大体何時くらいにログインするんだ? 俺は三十路手前のリーマンだから早くて9時、遅けりゃ11時なんてこともある。時間が合わなきゃ一緒に遊べないが……」

「へえ、兄さん三十路なんか。話した感じ、もっと若いと思ってたぜ」

「ゲームの中だから砕けた話し方してるだけだよ。現実では年相応にしてるさ」

「私は学生なんでバイトがない日は6時くらいからログインできますよー。バイトがあっても10時とかなんで、問題ないです」


 アキラくんは25歳、タミコくんは20歳の大学生らしい

 若いねー

 

「俺も問題ないぜ? 親の仕事手伝ってっけど遅くても8時には解放されるしな」

「なるほど。じゃあとりあえずパーティーのメール機能で毎日ログインの可否とログイン時間は連絡することにしよう。ただ、毎回集まる必要はないよな? パーティー推奨の依頼があるとか、イベントがあるとか。そういう感じでパーティー活動するのはどうだろう」


 パーティーでべったりだと飽きるしダレる

 暇つぶし目的なのにノルマ的なものに追われるのも嫌だ

 たまに、必要に応じて、打算的に集まれる関係がベストだと思う


「OK、兄さん。問題ねえよ。ま、こんななりしてっと他のプレイヤーから浮いちまうから二人がいねえときはソロプレイだわな」

「他の着ぐるみ愛好家を探し出すのもありかもしれませんね! もしいたらパーティーに誘ってもいいですか?」

「その際は人物面重視で頼む」

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