第3話
着ぐるみが三体もいては悪目立ちが過ぎるので抵抗せずにパーティーを組みフィールドに出る。
「しかし兄さんが言ってたとおり本当に脱げねえんだな。あとあれだ。運営からのツッコミがウゼエ」
「そうですか? 運営さんがいればソロでも寂しくないから良くないですか?」
タミコは第三の呪いに対してポジティブ過ぎるな。出来ればこの機能はオフにしたい。
「それよりもレベルが1に戻った方がショックですよ。こんなことならしろくまさんみたいにチュートリアルを続ければ良かったです」
タミコもアキラもそれぞれが盗賊と魔術師としてレベル10に届くか届かないかというところまで育てていたらしい。
「そういうなよ嬢ちゃん。ノーマルプレイはノーマルプレイで楽しめたと思えばいいだろ?」
「むう、アキラさんは前向きですね」
こいつら、今流行りのポジティブモンスターとかいうやつらか?
「お前らさ、このゲームにファンタジーな世界観は求めてないわけ?」
「十分ファンタジーですよ?」
「ああ、そうだな。俺はあんまり詳しかないが、中世ヨーロッパってのはあんな街並みだったんだろ?」
俺も含めてお前たち自身がファンタジーから逸脱してると言いたかったんだが、聞いた俺が馬鹿だった。まあいいか。ゲームなんか楽しんだもん勝ちだし。
『そうそう。その意気です!』
貴様は出てくるな。
「そういえばよお、兄さん。適正レベル外の依頼を受けたみたいだが良かったのか?」
アキラが心配した今回の受注はこれ。
『依頼内容: 岩鬼討伐
必要討伐数 : 1体
推奨Lv : Lv10以上
推奨職業 :槌使い
報酬 : 岩鬼の核石、岩鬼の角』
俺がレベル4、タミコとアキラは着ぐるみ装備の影響でレベル1。レベル相応なら自殺行為でしかない。しかし、俺たち三人はレベル相応ではない。
「着ぐるみを着た俺たちはステータスに100の補正だからな。適正レベル帯のゴブリンなんか卵より脆いぞ」
「それでも岩鬼は難しいんじゃないですか? ネットなんか見ると硬すぎて適正レベル詐欺だって書かれてましたし」
岩鬼は要はゴーレムの一種。特別な攻撃はしてこないけど、序盤ではずば抜けたCONの高さでプレイヤーにとって初めての壁として君臨しているらしい。
「岩鬼の核石は高くで売れるからな。もし兄さんの言うとおり倒せるなら金策もだいぶ楽になるってもんだ」
金策? 装備を揃える必要もないのに金を貯める必要があるかね。回復手段がないからアイテムは買い込む必要があるけど。
『これから順次様々な要素が解放されていきます。お金を貯めているといいことがあるかも?』
なるほど。ゲームで良くあるプライベートエリアなんかの販売も考えられるか。装備に金がかからない分イベント関係に突っ込むのはありだな。
「あ! いましたよ岩鬼! なんか、遠近感狂いそうなサイズですね」
ゴツゴツした岩状の外皮と額から突き出た一本の角。そして何より特筆するべきなのはそのサイズだ。これまでゴブリンやホーンラビしか相手してなかったから見上げるほどのサイズ感の岩鬼に圧倒された。
「アキラくんよ、あれは二メートルじゃきかないな。三メートル級か?」
「ああ、そんくらいはありそうだ。日本であんなんがいたらちびっちまうよなあ」
着ぐるみを着てるので表情はわからないが、声の震えが感じられる。それは俺も同じだ。しかし、この震えは恐怖じゃない。何これ、楽しい!! やばくないかこれ。このサイズでもモブなんだろ? ということはこれから先もっとヤバいのが出てくるのか。テンション上がってきた!!
「やべえ。兄さんよ……早くやっちまおうぜ! 我慢できねえ!」
「アキラさんが言うとなんだかいかがわしいです。でもわたしも賛成です。早くあのデカブツと戦いたい!」
二人も同じく昂ぶっていらっしゃる。
「よっしゃ行こうか。初対面の俺たちに連携なんかないからな。AGIを生かして二人で先制してこい。それ以降は俺が盾になるから隙を見て攻撃を当てていく。OK?」
「了解! 一番槍はもらうぜ!」
「あ、ずるい! わたしが先ですよ!」
あっという間に岩鬼に肉薄する二人。AGI特化は伊達じゃない。
「行くぜ! 【フェザーバレット】!!」
空を行くアキラが岩鬼よりさらに上空からスキルを放つ。羽根を弾丸にして飛ばす遠距離攻撃のようだ。約十発をまともに受けた岩鬼がよろけて片膝をついたところに、キジトラの着ぐるみが両手を広げて飛びかかる。
「アキラさんごっつぁんです! 【ネイルスラッシュ】!!」
ザシュッという音とともに岩鬼の硬そうな胸部にバッテンの爪痕が浅く残された。タミコはSTRへの補正が低いはずなのに結構なダメージが入ったみたいだな。LUCが高いからクリティカルでも発生したか?
「二人ともナイスアタック」
「すげえよ、この着ぐるみすげえ!」
「はい! スキル二発だけで岩鬼があんなに!」
「だが油断してはいけない。なぜならお前ら二人のCONはレベル1相当しかないから。食らったら一発アウトってことを忘れちゃダメだぞ」
そう。タミコとアキラのステータスはCONに1ポイントも補正がない紙装甲のままだ。
「さっき言ったとおり俺が前に出て攻撃を防ぐからあとはちまちま攻撃してくれ」
「はい! お願いしますしろくまさん!」
「頼りにしてるぜ兄さん」
ようやくダメージから回復した岩鬼がゆっくりと立ち上がる。とりあえず盾役はヘイトを貯めるのが優先だ。一撃入れてこっちに意識を向ける、と。
「食らえ! 【テイルハンマー】!!」
立ち上がり、タミコに視線を向けた岩鬼のヘイトをこちらに向けるべくスキルを発動。謎オーラを纏って巨大化した尻尾部分で、回転しながら思いっきり殴りつける。
バキバキッ!!!
「あ!?」
「うそ!?」
いい手応えだ。岩鬼が腰から真っ二つになるくらい。……え?
『岩鬼討伐を達成しました。報酬の岩鬼の核石、岩鬼の角をストレージに送りました』
お、おう。
「お疲れ、っていうほど疲れてもいねえか。スキル一発ずつだしよ」
「まさかこんなにあっさり倒せるなんて……予想外でした」
俺もだよ。レベル10相当なら苦戦しないまでも何度か攻撃を受けるくらいはあると思ったんだけどなあ。着ぐるみが三人揃えばこうなるのか。五人とか十人揃ったらどうなるんだ? そうならないためにエグい出現率だったのかもしれんが。
「レベルが上がりました! でも、2だけですね」
「俺もだな。レベル差がでかくても上がり方が鈍いか。まるで上級職だな」
俺に至っては1しか上がってない。まあ仕方ないか。岩鬼もゴブリンも大差ない労力しか使ってないしな。一匹倒しただけでレベルが上がるならまだましだと思おう。
Name : しろくま
Race: 着ぐるみ
Sex: 雄
Job : アンキロサウルス
Lv : 5
HP :35(+1)
MP :15
STR : 33(+1)
AGI : 16
CON :41(+1)
INT : 3
DEX : 5
LUC : 15
Actionskill : 【硬化】【咆哮】【テイルハンマー】
Passiveskill : 【嗅覚】
Name : アキラ
Race: 着ぐるみ
Sex: 雄
Job : イヌワシ
Lv : 3
HP :15(+1)
MP :10
STR :37(+1)
AGI : 49(+2)
CON :8(+1)
INT :16
DEX :18(+1)
LUC :3
Actionskill : 【フェザーバレット】
Passiveskill : 【鷹の目】
Name : タミコ
Race: 着ぐるみ
Sex: 雄
Job : サーバルキャット
Lv : 3
HP :15(+2)
MP :7
STR : 16(+1)
AGI : 53(+2)
CON :4
INT : 13
DEX : 18(+1)
LUC : 30
Actionskill : 【ネイルスラッシュ】【毛繕い】
Passiveskill : 【ヒゲアンテナ】
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