ここまで濃厚でドラマチックなスポーツ小説はそうそうお目にかかれないと思います。
ひとつひとつのお話は長いですが基本一話完結となっているお話で読後は大盛の定食を食べたような、ドラマやアニメを見終わったような満足感があり、バスケット知識をふわっとしか持っていなくても彼女達と一緒にバスケット知識を覚えていく面白さもあります。
きっとこの「ファイトオーバー!」を読むとバスケットボールの楽しさと魅力が再認識できると思います。
続きは気長に待って始まったらみんなで物語の続きを楽しみましょう。僕はまだまだ彼女達のバスケットボールが見たい。
納得できるリアリティだから一層ドラマチックになる。
コンプレックスや過去、事情、理由、女子中学生という枠だけでは収まりきらない「個人」の葛藤。人間を描くにあたっていわゆるキャラクターづけというものは過剰なアクセントになってしまうし、彼女たちを知るなら人間性を描いてもらって知りたい、と思います。
フィクション特有のキャラクターの個性。そういったものに頼らず、等身大の「生きた」存在がそこにいる。そう感じてしまうほどの書き込み、それを無理なく掘り下げできる構成。
文字数で尻込みするのはとんでもない、のめりこむドラマです。
ああ、青春っていいなあ。酸いも甘いもたまらないなあ。なんて思いつつ。
できること。
バスケットボーール!
なんだろう。一つ一つのエピソードで心が揺れるのは、少しずつ、しかし確実な変化がそこで起きているからだと思います。
それは、具体的な技術であったり、ふとした気づきであったり、人との関係であったりとさまざま。
体育館の床に鳴る靴の底、二歩踏み切って跳ぶレイアップ、ローポストでのせめぎあい。
僕は経験者なので、個人的に思い出すことはいろいろありまして、そうやって、思い出しながら読むのもよし。
一年生で、まだ知らないことだらけの彼女らと一緒に、基礎から学んで楽しむのもよし。
だと思います。
彼女らの負けたり勝ったり変わったりを追体験して、まぁ明日も頑張ってみるかなとか、そんなことを思うのであります。
この作品、試合描写が実に良いです。
書き込みすぎず、しかし押さえるべきところをキチッと押さえて描かれる試合シーンは、読んでいてコーチと一緒にプレイを見守っているかのように感じました。
また、メインとなるヒロインの5人それぞれが、自分のコンプレックスと向き合い、それを乗り越えて成長してゆく過程が実に青春という感じで、ときどきむず痒く、ときどきウルッと来てしまう……そんな感覚に背中を押され、気付いたら最後の数話は一気読みでした。
問題は、一話一話がかなりの文量があるため、腰を据えてじっくり読まざるを得ないため、スマホでちょっと読みには向かないこと。
そして、一話の中で視点保持者からの描写、俯瞰的三人称での描写などのカメラワークがめまぐるしく変わるため、読んでいて時々「ん?」と思って読み返すことがあったことでしょうか。
しかし、この問題はそっくりそのまま、この作品の魅力でもあります。
タイトルに書いたとおり、じっくり読むにはこれ以上ないくらいに最適の作品ですし、スポーツ青春モノが読みたいと思ったらもう一度最初から読んでも良いかな?と感じるほどです。
描写に関しても、カメラが切り替わるタイミングでは大きく行間が空いていますからそれを目安にすればいいでしょうし、なによりこの作品が群像劇であること……明確な主人公やヒロインを設けず、全員が主人公であり、全員の視線を通してしかキャラクターたちの魅力は分からないという表れとも取れます。
問題のように見える点が、実は何よりの魅力……
まるで本作に出てくるヒロインたちそのもののようです。
まだ連載は続いていくでしょうから、これからも一読者として、このチームを応援していきたくなる、そんな一作でした。
そして最後に。
長身女子萌え!
引っ込み思案の長身女子が、自分の身長は魅力なんだって気付いていく……ホントいいですよね。