その十七(最終話)

 サトルはその時、『教授』から依頼された仕事をしていた。

 依頼内容自体は至極簡単である。いわゆる「サーチ・アンド・デストロイ」系で、ただし教授の依頼の場合にはそれに特約事項で「クッキング」が続く。

 相手はどこかで見たような顔だったが、名前までは思い出せない。軍関係者かもしれなかったが、それでやることが変わるわけではない。

 その時はちょうどクッキングの時間だった。


 作業の最中、珍しいことに教授の助手のエミリアから着信が入る。

(ヤッホー、サトル! 今何してる?)

「何って、切り分けてるところだけど」

(後どのくらいかかりそう?)

「……緊急事態?」

(そう! 察しが良くて助かるわぁ!!)

 エミリアの弾んだ声を聞きながら、サトルは部屋の天井を見上げた。

 ――確実にろくでもない案件だ。

サトルの懸念をよそに、エミリアが楽しそうに話を続ける。

(アレックスからこっちに連絡があったのよ。今仕事中だって言ったんだけどさぁ。『いいから、早くうちに来てマリアに抱かれて連れて帰ってもらいたい。そうでないと誰もマリアを動かせなくなる』だってさぁ)

 エミリアがアレックスの口真似をする。

 毎度の事ながら、それが無駄に上手い。アレックスの苛立ちが手に取るようにわかる。

「わかった。十五分以内に――」

(それに今、店内にはクレアとパティが一緒にいるんだって。勿論、ファットマンも一緒だよね。『意味は分かるな』だってさぁ)

 今度の口真似には殺意すら籠もっている。

 サトルは肩を落とした。

「分かった。二分以内で行くから、それまで何とかしてくれ、とアレックスに伝えて」

(了解、うふふふ)

 エミリアが含み笑いとともに接続を切る。

 残されたサトルは、今度は本気で天を仰いだ。


 レッツ・ロックンロール――今夜は眠れそうにない。


 *


 その日の晩、軍事務所での会話。

「お前さん、なんで道の真ん中で寝てたんだよ」

「俺にも分かりませんよ」

「ふうん。で、さっきから匿名のデータ限定通信で、お前がやった犯罪の情報提供が山ほど入ってるんだけどよ」

「……」

「まあ、生体認証で明らかに間違ってんのは振り分けてるから、残りは五から六件だろうけどさ」

「……」

「しかし、このJFKを殺した真犯人がお前だってのは――お前、一体何歳だよ」


( 終わり )

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ピースメイカー・ブルース 一 遠近法 阿井上夫 @Aiueo

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