クリスマスが終わった
告井 凪
クリスマスが終わった
12月26日。クリスマスが終わった。
イブからずっと、ゲームばっかりしていた。
徹夜でゲームして、一旦寝て、また徹夜でゲームして、今に至る。
おかげで眠くて仕方が無い。
クリスマスってなんだ?
高校はもう冬休みに入ったし、外は寒いし。家にこもってゲームするしかないだろ。
前にものすごくハマった、対戦シューティングゲームをひたすらやっていた。イカが戦うアレだ。
久々だったが、かなり熱くなった。途中からずっと同じヤツが対戦に入っていて、勝つのに必死になった。
ここで、その対戦相手が実は女の子で――なんて妄想を膨らませたいところだが、そいつは友だちの
あいつが合流したせいで、やめられなくなったんだ。まったくクリスマスだってのに、暇なヤツだ。
「にしても、すげー上手くなってたなぁ。俺がやらなくなってからもやってたんだな」
なんだよS+って。どんだけやり込んでたんだよ。俺なんてまだBランクだぞ。
「そうだ、今度タッグでランク上げさせてもらお」
あれだけ強いのと一緒なら、すぐに上がるだろう。くっくっく。今から楽しみだぜ。
「………………はぁ。虚しいな。どっか行くか」
外に出る。徹夜明けの俺の目に、朝日が突き刺さった。
「つーか、寒すぎ」
冬の冷たい風が身に染みる。
昨日も一昨日も寒かったはずだ。ざまあみろ。
クリスマスが終われば、もう年末モードだ。
それなのにクリスマス飾りがまだあちこちに残っていて、イラっとする。
とっとと片付けろって。……眩しいだろ?
「あーあ、俺にも彼女がいればなー」
感情のこもってない声でぼやく。あんまり感情込めると悲しくなる。
家にこもっていたのは、クリスマスにひとりで歩くのがとても惨めだったからだ。
友だちもみんな予定入れてやがったからな。そのうち何人かは、強がりだっただろう。
『すまんな、その日は予定があってな……』
そう言い出したのは俺だった。何人かが同調し、俺も俺もと言い出したんだった。
こんなことなら男同士で集まって、騒いで遊ぶんだった。
徹夜でゲームよりはきっとマシだっただろう。
俺たち、彼女いない同士、友だちだよな。って肩でも組んで、馬鹿騒ぎしてれば惨めな思いなんてしなかったのに。俺たちはバカだった。
「初詣くらいはみんなに声かけてみっか……」
彼女持ちのヤツは誘えないが、そうじゃないヤツはいっぱいいる。
早速、誘うメンツを頭の中でリストアップしていると――。
「
「ひとりでわるいかっ!」
「わっ、なんですか急に」
「ハッ、
「いつにも増して変ですね、先輩」
「どういう意味だこのやろう……。まぁいい、驚かせちゃったからな。見逃そうじゃないか」
突然現れた真理亜ちゃん。この子は後輩であり――
「元気ですねぇ。って思ったけど、眠そうですね」
「ああ……徹夜でゲームしてたんだ。君の兄貴とな」
――浩助の妹である。
黒髪ロングでお淑やか、に見えるが割とズバズバ言う、遠慮の無いタイプだ。
浩助の家に遊びに行くと混ざってきて、よく三人で遊んだり話したりする。だから遠慮が無くなったのかもしれない。
「あはは……。目がとろんとしてますよ」
「ほんとは眠いはずなんだけどなー。なんか目が冴えちゃってさ」
無理にでも寝てしまえばよかったのだが、外の空気を吸いたくなったのだ。ついでに、クリスマスが終わったことを実感したかった。
「クリスマスって、なんでカップルのイベントみたくなってるんだろうなー」
「突然ですね。ロマンチックでいいじゃないですか、クリスマス」
「そりゃあな、恋人がいればそれでもいいさ。でもいない側からしたら、こんな惨めな日は無いぞ。やめるべきだね」
「いつか恋人ができたときに、クリスマスが廃止されてたら困りませんか?」
「……困るかもしれない。真理亜ちゃんはどんなクリスマスを過ごした?」
「私ですか? すっごく楽しいクリスマスでした!」
「マジかよ……」
心なしかショックを受けている自分がいる。
親友の妹だが、どこかで自分の妹みたいに感じていたのかもしれない。
真理亜ちゃんもそんなお年頃なんだな。
「ふふっ、お兄ちゃんにも負けないくらい、最高のクリスマスでした」
「あー、そういや浩助、彼女いたっけ……」
「お兄ちゃん、二日連続デートで楽しそうでしたよ」
「ケッ、兄妹揃って羨ましいこって。…………ん?」
浩助は親友ではあるが、同士ではない。クラスの女子と付き合っている。
クリスマスは当然デートだと、俺も聞いていた。
フラれてデートが中止になったわけじゃないとすると、昨日ゲームしてたのは誰だ?
「なぁ……真理亜ちゃん。君もなんか眠そうだな?」
「はい。ゲームばっかりしてたので。さっきまでずっと」
「……そうか。さっきまで、ね。時に、お兄さんは最近ゲームしてますか?」
「彼女ができてから全然ですね。代わりに、私がゲーム機借りてやってます」
「ああー……。あれ、真理亜ちゃんか……」
「ふふふっ、やっと気付いたんですか?」
クリスマスにずっと一緒にゲームをしていたのは、目の前の真理亜ちゃんだったらしい。
浩助には彼女がいるんだから、もっと早く気付けって話だ。
「強くなったなぁ。S+に上げたの、真理亜ちゃんか?」
「はいっ! 大変でしたよ、カンストさせるの」
「カンストしてんのかよっ。……あとで、ランク上げにタッグ付き合ってくれない?」
「ええー? 養殖はよくないですよ」
「養殖て……。あ、コーヒー奢るからさ。な?」
「んー、缶コーヒーとかコンビニじゃ嫌ですよ」
「わかってる、そこの喫茶店で」
「ケーキもお願いします」
「オーケー。任せとけ」
寝不足でハイになっているのか、俺は真理亜ちゃんの要求をすべて受け入れていた。
しかしこんなゲーマー少女に育っていたとは。お兄さん知らなかったぞ。
クリスマス潰してずっとゲームなんて、ガチすぎるだろ……。
ん? さっき、最高のクリスマスだったとか、言ってなかったか?
「ほら先輩、行きましょ? ついでだから、対戦で勝つ方法、伝授しますよ!」
「おぉっ、先生! お願いします!」
俺は調子よくそう応えて、歩き出す。
きっと真理亜ちゃんも、強がって言っただけなのだろう。
女の子がクリスマスにひとりでゲームしてたなんて、恥ずかしいもんな。
「あ、祐司先輩。……本当ですよ?」
「えっ……。な、なにがだ?」
思わず心の中を読まれたのかと、ドキッとする。
彼女はそっと近づき、はにかんで小声で答えた。
「本当に、最高のクリスマスでした」
クリスマスが終わった 告井 凪 @nagi_schier
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