第6話 生きる場所
リビングにて蒼志は正座をしていた。そして顔を俯き冷や汗がたらたらと流れていた。いや正座をしていると言うよりも、させられている方がこの場合正しい。
「あの…。足が痺れて…。」
「はぁ…?」
「何でもありません。すみませんでした。」
光希はまるで般若面のように怖い顔をしており、直視することが出来ないほど、恐ろしかった。そして彼の隣には女の子座りで座りジャージに着替えた波瑠がいた。
「あなたは何者なの?」
「私?」
「当たり前よ。あなた以外誰がいるっていうの!?」
自分を指さしてキョトンとしている波瑠であった。波瑠は光希から質問をされると、蒼志の後ろで浮いているターナーの顔を見た。
「ん?まさか私のこと言ってるの?この女には見えないわよ。」
「そうなんだ。」
「ちょっと私の話聞いてるの!?」
怒りに満ちた表情の光希を見ても波瑠は至って冷静であった。それを蒼志は冷や冷やしながら見ていた。
「ねぇ、蒼。」
「は、はい!なんでございましょうか!?」
「この女誰?」
「えっと…。川で溺れてたので助けました。」
ありのままを話した。傍から見れば信用出来ないかもしれないが、これは紛れもない事実である。
「何それ?意味わかんないだけど?」
「ちょっと…あんたも弁解してくれよ…。」
小声で波瑠に話しかけた。それに納得したようにうなづいて口を開いた。
これで誤解がとけると思った。
「この人に無理やり連れてこられた。」
「おい蒼どういうことよ…。ねぇ…?」
「いやいやいやいや!!待って!!違うって!?」
誤解を得どころかもっと行けない方向へと進んでしまった。みるみる光希の表情が引き攣り今にも人を殺しそうな顔をしていた。
「私に嘘つくなんていい度胸じゃない?」
「話せば分かる!話せば分かるからぁ!!!」
「問答無用!変態には成敗を!!」
「あぁぁぁーーー!!!!」
蒼志の悲痛な叫び声が家の中に響き渡った。
「今日はこれくらいにしておくから。」
「しくしく…。もうお婿にいけない…。」
「次やったら…。もいじゃうからね?」
「お前は鬼か!!!?」
手荒いことをされた蒼志は酷いことをされたあとの少女のような姿になっていた。そして嘘泣きで光希に訴えた。
だが、悪びれることも無くむしろエグい発言をした。
「ははは!!!ざまぁないわね!!」
ターナはその様子をたいそう笑いながら見ていた。また、波瑠はただ黙々と表情を変えずに二人の姿を見た。
「お灸は据えたところで…。あんた名前は?」
「私は夜木沼波瑠。」
「夜木沼さんね。あなた家は?」
「特にない。」
光希からの質問に淡々と答えていた。驚くべきは家がないということであった。
「家がないって。今までどうやって暮らしてきたの?」
「今までは雨風凌げるところで暮らしてきた。」
「そうだったのか。だからか…。」
蒼志は正座から足を崩してアグラで座っていた。そして、彼女の話を聞いていく中で、あることを考えていた。
「自殺願望ってその境遇からか?」
「まぁ、間違ってはいないよ?こんなに生きる価値のない人生なんて辛いだけだから。」
「でも死ぬのは良くない。折角生きているから。」
彼女の自殺願望は己の境遇によるものだと蒼志は感じていた。しかし、いくら辛い境遇だとしても自ら生命を経つのはいけ好かない。
それは亡き父のことを思っての発言だ。
「人ってわがままな生き物なの。死にたいって思っておきながら、その裏では生きたいって思うの。」
「あなた、そんなこと思って生きてきたの?」
光希は彼女の考え方に苦しさを感じていた。そこまで深く考えることは光希にとっては考えられないからだ。
「偉大なる私から言わせれば、人は愚かだからな。自分を守るくせに、人の命を平気で奪う。実に愚かよ。」
ターナはこの話をじっと聞いていく中で持論を呟いていた。もちろんそれが聞こえているのは蒼志と波瑠だけである。
「でもこれからどうするんだ?帰る家がないんだろ?」
「そうね。またいつも通りかしら?」
波瑠は感情のこもっていないような笑顔で蒼志を見ていた。そんな彼女を見て虚しく感じ、ある一つのことを閃いた。
「だったらうちで暮らす?」
蒼志の口から出たのはここにいる誰もが想像しないような言葉であった…。
例え俺が消えようともあなたを 石田未来 @IshidaMirai
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