第5話 銀髪少女と死能力

「死能力?」


 蒼志は彼女の言葉に疑問を持った。今まで聞いたことのないその言葉は、妙に蒼志の心の中に響いた。

 能力であれば、漫画などでよく聞くが、死能力というのは一体何なのか…。


「死能力って一体何?」


 蒼志は銀髪の少女に尋ねた。彼女は先ほど川に飛び込んだためか身体が濡れており、下着が透けて見えていた。

 ちなみに彼女は、白いブラウスにループタイをつけ、紺色のスカートに編み込みのブーツを履いていた。

 彼女は蒼志の言葉に少し間を置いて口を開いた。


「まぁ、いきなり死能力なんてわからないよね?簡単に言うと、超能力のことだよ。」


「超能力?そんなもの本当にあるのか?」


「えぇ、勿論。私がそこの彼女がくっきり見えるのが証拠よ。」


 超能力というもの懐疑的である蒼志に横にいるターナを指さして彼女は、自分に超能力があることを示した。


「君は、どんな超能力を持っているの?」


 蒼志は彼女に質問をした。超能力と一言で言っても色々な種類のものが存在する。

 例えば、火を操る能力とか、透視能力、サイコキネシスなどである。


「私?私の死能力は、ありとあらゆる真実を見る力。つまり、’’真実の眼’’だよ。」


「’’真実の眼’’?」


 彼女の口から出た能力についていまいちピンと来なかった。

 真実を見て一体何になるのかと思ったからだ。そして、彼女のいう真実というものは一体何を指しているのかもわからなかった。


「私の前では偽りは通用しないってことだよ。例えば、私の下着が見えて興奮しているよね?」


「い、いや、そんなことはないぞ?」


「そして以外と胸小さいなぁと思っているでしょ?」


「!!そんなことは…。」


 彼女は蒼志の思考を先読みするようにして、言葉を発した。全くその通りであり、彼女の透けて見える胸から判断したのだ。

 とは言っても、彼女の胸は至って標準の大きさだと言える。

 むしろいつも見ている者達のものが大きすぎるのだ。


「変態さんだね。」


「ち、違う!俺は…。」


「いいのよ。あなたから見たら私というのは所詮そんなものだから。」


 彼女は哀しそうに目をそらした。その瞬間銀色の髪がひらりと揺れ彼女の綺麗なうなじが見えた。

 その色っぽさに蒼志は少し顔が赤くなった。


「そう思ったのはごめん!でも一つ聞きたいことが。」


「何かしら?」


「その死能力っていつから使えるように?」


「それはね……。へくちっ!」


 彼女が蒼志の質問に対して返答をしようとしていたその時、可愛らしいくしゃみを彼女はした。

 春とはいえ、濡れたままでは流石に風ひくだろう。

 そんな濡れている彼女を見て、蒼志は一つ提案をした。


「俺ん家に来るか?シャワーと着替えくらいなら提供できるけど…。」


「変なことしない…?」


 蒼志の提案に自分は襲われるのではないのかと考えた彼女は疑いの眼差しを向けていた。

 確かに、まだ初対面であり尚且つ、年の近い男女というのは何か起こりそうで危険であった。

 だが、彼女は濡れており、寒そうであった。


「しねぇよ。それより早くしないと風邪引くぞ?」


「それもそうね…。わかった。じゃあ、あなたの家に連れていって?」


 そう言うと彼女は上目遣いで蒼志にお願いをした。整った顔立ちであるだけでなく、濡れておりどこか色っぽい彼女に蒼志も目のやり場に困った。

 そんなこんなで彼女を自分の家へと連れていくことにした。


「そういえば、まだ名前を言ってなかったな…。俺は相川蒼志君は?」


「私は夜木沼波瑠やぎぬまはる。よろしくね蒼志くん?」


 波瑠は自然な笑顔で蒼志を君付けて下の名前を呼んだ。


 ―――――――――――――――――――――――――

 ガチャ…

「ただいま…。誰もいないのか?」


 蒼志は自分の家の扉を開いて誰か人がいるか確認した。

 それにはきちんとした理由がある。

 蒼志が同い年の女子を連れていくと、母親と妹がめんどくさいのだ。

 彼女かどうかを聞いたり、キスはしたのかどうか聞いたりとデリカシーのない質問をするため、あまり女性を家にはあげたくないのだが、今回は仕方がない。


「入っていいよ。」


「失礼します…。結構広いんだね。」


 波瑠は蒼志の家を見て率直な感想を言った。そして、ずぶ濡れの彼女は家の中へと入っていくと風呂場へと案内された。


「とりあえず、シャワー浴びてきなよ。あと濡れた服は洗濯機にいれておけば後で回すから。」


「なんかごめんね?初対面なのにこんなことまで、してもらって?」


 脱衣場にやってきて、蒼志は波瑠に濡れた服の方は処理について説明した。

 初対面である蒼志にここまでしてもらったことを申し訳なさそうに謝った。

 早速シャワーを浴びようと波瑠は濡れた服を脱ぎ始めた。そこで、すぐに蒼志は風呂場を出ていくことにした。

 シャワーを浴びている波瑠に着替えを持ってくることにした。


「流石に男物の服着せるわけにもいかないし、かと言って璃乃の服を勝手に使うのはなぁ…。」


 自分の部屋に入って適当な着替えをみつけようとするも、男物ばかりであり、波瑠が着れるようなものがなかった。

 そこで妹である璃乃の服がいいと思ったが、勝手にあされば怒られるだろうと思いやめた。

 しばらくタンスの中を探していると紺色の赤い三本線の入ったジャージを発見した。


「これでいいかな。」


 ジャージ一式をタンスから取り出して、風呂場の方へと持っていった。


「着替え持ってきたよ〜。」


 そう言って脱衣場の方へと入ろうとしてドアを開けた。

 すると、シャワーを浴び終わり、着替えていた波瑠の姿があった。

 その格好というのが、裸にワイシャツというあまりにもマニアックなものであった。

 そんな姿を見てしまった蒼志は顔が真っ赤になった。


「ちょっと!なんで俺のワイシャツ着てるの!?しかも裸で!?」


「だって下着も濡れてるし…。たまたまここにあったから借りちゃった。ダメだった?」


 首をコクリと傾げて可愛く尋ねた。タダでさえ裸ワイシャツというセクシーでマニアックな格好をしているのに、そのような仕草をされては健全な男子高校生はイチコロであろう。

 しかし、ここで理性がなくなってしまえば、いけないと思った蒼志は平静をとにかく保った。


「目のやり場に困るからやめてくれよ!」


「ウソ、本当は興奮しているのに…。」


 そのとおり、彼女は嘘すら見抜く眼の’’真実の眼’’を持っているため、蒼志が嘘をついているかどうか見抜くことができるのだ。

 そんな筒抜けな状況に恥ずかしさで蒼志はいっぱいだった。


「そ、それは…。と、とにかく!その格好はダメだって!」


 ジャージに着替えさせようとした時に、玄関のドアが開く音がした。

 すると従妹の光希が聞こえた。


「蒼〜!!入るよ〜!?」


 大きな声で蒼志の名前を呼んで家の中へと入っていった。

 しかし今現在、風呂場で裸ワイシャツの格好をした波瑠と2人でいるところを見られたらタダでは済まされないと思った蒼志は慌ててジャージを着るように波瑠促した。


「頼む!このジャージを早くきてくれ!じゃないとあいつが!」


「さっきの声ってどなた?」


「俺の従妹だよ!とにかくはやく!」


 蒼志は焦っていた。光希にこの状況を見られれば、母親と璃乃に報告するだろう。

 それだけではない、これをネタに不当な要求をしてくるはずである。

 なんとしてもそれだけは避けたかった。


「気持ち悪いわよ。変態蒼志。」


 今までリビングにいたターナは突然壁をすり抜けてやってきた。

 ターナが来ることで余計にややこしくなってしまう。

 早くジャージを着せようと思ったのに、彼女の横槍のせいで進まなかった。

 また、だんだん光希の声が近くなってきた。もう時間の問題であった。


「俺は変態じゃないわ!いいから早くきてくれじゃないと光希が…。」


 波瑠に早くジャージを着せようとしたその時だった…。


「何…してるの…?蒼…。その人は誰?」


 すでにもう遅かったのだった…。


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