おとぎ話のような、やさしいお話でした。
十七歳までに真実の愛を知らなければ、永遠の眠りについてしまう呪いをかけられた令嬢サフィニア。
でも魔女がどうしてそんな呪いをかけたかといえば、誕生日パーティーに誘われなかったから…ではなく、サフィニアがこのままでは一生愛を知ることがないから。
この時点でもう、やさしい!
永遠の眠りもやさしい眠りだというからなおやさしい。
サフィニア自身もやさしい眠りなら呪いが解けなくてもいいんじゃない?とのんきなものです。(ここで残される周囲の人のことが頭にないあたりが、愛を知らないゆえなのかなあと怖くなったりしつつ…)
そんな彼女を周囲の人たちはみんな大切に思っていて、心配しています。呪われているのだからサムシングフォーのよっつでは足りないと、それぞれに贈りものをしてくれます。贈りもの、それに込められた祈りの内容が素敵だし、同時にそれを身につけたサフィニアの花嫁姿を想像したりもして、たいへん心温まります。
みんなやさしいなあ!いい奴!
と涙腺をゆるくして癒されているところに、あの男が登場します。王子さまです。
この王子さまもといメイトランド伯爵どのがね…またいいんですよ…紳士なのは間違いないけれど、なんといっても変わり者。好きです。天才肌の感もあり、初対面でサフィニアを本人だと見抜いたくだり、ホームズっぽさすらありました。
なにより、愛を知らないサフィニアに、愛を教える立場であるわけです。教える。いい響きです。伯爵によってサフィニアは決定的に変わっていくのです。
こんなにも人を愛せないなんて自分は欠陥品じゃないのだろうかと思い悩むサフィニアに優しく語りかける伯爵…!ぐっとくるシーンです。
そんな彼とサフィニアの恋模様はどうなってしまうのか、サフィニアの呪いは解けるのかは読んで確かめていただくとして、この伯爵変わり者のくせしてしっかり甘い行動をしてくれるので、きゅんとすること請け合いです。
冬に読むにはぴったりの、心温まるやさしいお話です。
ひとに愛されているということは分かってもひとを愛するということはよく分からない令嬢のお話。
まるで童話のような始まり方で、簡潔で読みやすい文章ながらも甘さは最後まで残したまま、ふわふわとして優しい印象を保っていました。
手紙の先生との関係はどうなっちゃうの!?とちょっと心配をしましたが、そういうことか、よかったよかった!
ラストシーン、すべてが書かれているわけではないんですけど、ハッピーエンドが見えていて、とても安心できるほっこりとした読後感です。
本当に大切なものはその時にならないと分からないものなんですよね。運命ってやつはよくできている。そんなことを思いました。