えぴろーぐ
コイツジャナイ・・・・
コンナヤツイラナイ・・・・・
ドウシテコンナヤツ・・・・
周りから声がして、あたしが眼を開けると、そこは・・・・・・
・・・・見たこともない世界が広がっていた。
何もない、真っ暗な世界・・・・いや、空間。
あたしはそこを、力なく漂っている。今自分が上を向いているのか、
はたまた下を向いているのか、判らない。
それほどまでに、ここには何もなく、どこまでも、どこまでも暗い。黒い。
「ひ・・・・あ・・・ああ・・・・・!」
あたしは声を上げた。でも、その声は周りには響かない。
闇が、あたしに迫ってくる。あたしを押しつぶそうと、ジリジリ迫ってくる。
ナンデフタリジャナイ・・・・
ドウシテコイツナンダ・・・・・・・・
ケシタイ・・・・!
ユルサナイ!
ワタシヲウラギッタ・・・・!
オレヲバカニシヤガッテ・・・・・・
ダレモタスケテナンカクレナカッタ・・・・・・・・
センセガナンダ! ガッコーガナンダ‼
ミンナ・・・・・シンジャエバイイノニ・・・・・・!
どこからか、沢山の人たちの声がする。
男の子の声。女の子の声。でもそのどれもが・・・・・怒り、悲しみ、
憎しみに満ちていて、聞いているだけで、あたしの身が引き裂かれそうになる。
やめて・・・・・やめて・・・・・・・・・やめて、ぇ・・・・・
あたしは耳を塞ぎ、眼を閉じて、その場にしゃがみ込んだ。
それでも声は、あたしの頭の中に、心の中に響いてくる。
マナカチャン・・・・・・・・
ふと、名前を呼ばれて、あたしは眼を開け、前を見上げた。
そこには、あたしの目の前には、誰かが立っていた。
眩いばかりの光に包まれ、その人がどんな姿をしているのかは、判らない。
でも、背丈や声音から、それが、あたしと同じくらいの女の子ということは、
理解できた。その子がゆっくりと、手を、あたしに向けて差し出した。
『つかんで』と、彼女が言ったような気がした。あたしがおそるおそる
彼女の手を取ると、彼女はゆったりと流れるような動きで、あたしを引き上げて
くれた。そして・・・・・・
あたしが眼を、再び開けた時、そこは、学校の屋上だった。
辺りはすっかり夜の闇に包まれ、空には大きく黄色い光を帯びた満月
が浮かんで、あたしを見下ろしている。
あたしはゆっくりと立ち上がり、周りをぐるりと見まわした。
そこには、鈴沢さんも波川先生も・・・・・・・日影ちゃんもいなかった。
微かに寒さを覚え、あたしはブルッとカラダを震わせた。
「いけない!・・・・・・お父さんが心配してる」
誰に言うとでもなくそう呟くと、あたしは屋上を後にし、誰もいなくなった
教室で荷物を整え、足早に正門へと向かった。振り返って、校舎に
取り付けられた時計を見ると、もう、七時半を回っていた。
あたしは、早く帰らないと、お父さんがホントに心配すると思い、目の前
にある正門を、駆け足でくぐろうと走り出した・・・・・・だけど・・・・
「あれ・・・・・」
あたしは、その時何がおこったのか、解らなかった。あたしは閉じかけている
正門の前で尻餅をつき、その場にヘタレこんでいた。
「なに・・・・・これ・・・・・・」
あたしは立ち上がり、狭くなった出口に近づくと、そこに手をあてた。
そこには何もないはずなのに、“なにか”ある。目に見えない『それ』は、
まるでバリアのように出口を塞ぎ、あたしを外に、出そうとしなかった。
その時になって、あたしは思い出した。
あぁ・・・・・・あたし・・・・もう・・・・・帰れないんだ・・・・
あたしはもう、カラダを日影ちゃんに明け渡して、この世界から、
消えてなくなってしまった。恐らく今、あたしの眼に映るこの手は、この足は、
このカラダは・・・・あたしの、むき出しになった魂、なんだろう。
「そう、だよね・・・・・日影ちゃんにお願い・・・・したもんね・・・・・」
あたしは微かに、ささやいた。でも、目の前を歩く人たちは、それに気づかず、
道を歩いてゆく。あたしが二度と、歩けない、道を・・・・・。
それでもあたしは、悲しくなかった。だって、救えたから。鈴沢さんと、
波川先生を。
あたしは、もう戻れない世界に背を向け、真っ暗になった校舎へと、歩き始めた。
これからどうなるのか、あたしはどうなってしまうのか・・・・あたし自信でも、
全くわからない。今頃お父さんは、日影ちゃんと楽しく、夕ご飯を食べて
いるのかなぁ・・・・・鈴沢さんは、センセは、ちゃんと、家に帰れたのかなぁ・・
・・・・・あたしは最後まで、人の心配ばっかりしている。
「あぁ~疲れたぁ・・・・・・」
あたしの前に、コートを羽織り、リュックを背負った若い女の人が現れ、
あたしに向かって歩いてくる。
森宮・・・・・・先生・・・・・・
あたしの、叔母さん。彼女も、あたしがここにいることなんて、
わからないの、だろう。だって、あたしは・・・・・・・もう・・・・・・・
「あれッ、どおしたんマナちゃん。帰らへんのぉ?」
「えッ・・・・・・」
「あッ、さっき突然飛び出してったからウチびっくりしてもうたわぁ。
なんか急いでたみたいやったけど・・・・・・・なんかあったん?」
「・・・・・・森宮・・・・・・せんせぇ・・・・・」
「んッ、どーしたん?」
あたしは、森宮先生に駆け寄ると、そのまま彼女の胸に飛び込んで、
彼女のベージュのコートを涙で濡らして・・・・わんわん泣き出した。
「ふぇっ・・・・・・えぇ・・・・・あぁっ、ああぁあぁあぁ・・・・!」
「おおどーしたん! ウチなんか、ヘンなこと言った⁉」
なにがなんだか解らずあたふたする先生に、あたしは何も答える
ことが出来ず、息が切れても、涙が枯れても、先生の胸の中で、
泣き続けた。
その日はとても晴れていて、満月が、綺麗に、はかなく、輝いていた。
わたしはひとりでワルツをおどり、孤独な夜をひとりさまよう。
わたしはひとりでワルツをおどり、 Cherry-Sound @111013
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