最終話 ブラボー、オー、ブラボー?


「おい、こんなに高く飛んでどうするつもりだ?」


 巨赤竜ベテルギウスは己が飛べるぎりぎりの高度を飛行しながら、背中に仁王立ちするブラボーに尋ねた。


「これじゃあ俺のファイアーブレスも届かないぞ?」


 見下ろすと、遥か下方に人間を取り囲むモンスターたちの群れが見えるが、それはまるで地面に落としたお菓子に群る蟻のように小さかった。

 恐らくここからファイアーブレスを放ったとしても、奴らにはおろか、その上空を舞うワイバーンたちにすら届かないだろう。

 

 もっとも。


「いいんだよ、ここまでオレを運んだだけで十分だ」


 ブラボーはそう言うと、


「じゃあな。後はまた地下に潜って、モンスターどもが人間にちょっかいを出さないよう見張っとけ」


 と挨拶を残して飛び降りた。


「あー、さすがは災厄人。やることがムチャクチャだ」


 弾丸のように落ちていくブラボーにベテルギウスは呆れると、言われたようにもと来た方向へと針路を変えるべく、翼を羽ばたかせる。

 巣穴へと戻るベテルギウスは一切振り向いたりはしなかった。




 その頃。地上では。


「くっ! エイメン様、このままでは危険です。ここはやはり撤退を!」


 オークの棍棒による重い一撃を盾で巧みに受け流しながら、傭兵のひとりがエイメンに近寄ってきた。


「ダメだ。ここで敵に後ろを見せればたちまち全滅するぞ。活路は前に進むのみだ」


 エイメンは振り返りもせず答える。


「しかし、こちらも既に半数近くの兵を失っていますが、いまだ敵の本陣に近づくことすら出来ていません」


 それどころかエイメンたちがモンスターを倒して前に進めば進むほど、包囲は厳しくなる一方だ。事実、進軍速度はどんどん遅くなっている。


「どうか今一度お考え直しください」


 部下の忠言にエイメンは剣を持つ手を固く握り締めた。

 状況が絶望的なことは、エイメンにも分かっている。

 おそらくこのまま進んでも、勝機は万に一つと言ったところだろう。

 かと言ってこうも取り囲まれていては撤退も容易ではない。

 どちらにしても多大な犠牲を払うことになるだろう。

 と、なれば……。


「分かった。俺が敵をひきつけるから、お前たちはその間に撤退しろ」


「な、何をおっしゃられるのですかっ! そんなこと我らには――」


 不意に傭兵の声が途切れた。

 やられたのか、と思ったが、断末魔の声も無いのはおかしい。

 

「ぐっ! 放せ!」


 すると声が上空から聞こえた。

 見上げると恐らく先ほど提言をしてきたであろう傭兵が、ワイバーンに天高く持ち上げられていくところだった。


「……ん? なんだあれは?」


 まったく忌々しいワイバーンめと悪態をつこうとしたエイメンの瞳に、キラリと日の光を反射する何かが落ちてくるのが見えた。

 それが全身に刺青を入れた人間だと分かった時。


 ワイバーンはすべてその男によって打ち落とされていた。




 上空より。


「おりゃあああああああ!!!」


 遥か上空から飛び降りたブラボーが手にした大剣の矢先を下に向けて、猛スピードで落ちていく。

 

 ぴぎゃあああああああ!


 そのブラボーがいきなり背に落ちてきて、剣で胴体を貫かれたワイバーンが末期の声をあげた。


「よっしゃ、次!」


 そして力なく地面へと落ちていくワイバーンの体を蹴って、ブラボーが再び宙に舞う。


「とりゃあ!」


 次のワイバーンは首を一刀両断にし、またその体を蹴って次の得物向けてジャンプする。


 自分たちよりも上空から襲い、瞬く間に二人の仲間を葬った翼無き生き物に、ワイバーンたちは大いに慌てた。

 襲撃者から逃れようと、その翼を懸命に羽ばたかせる。


 だが、無駄だった。


 ブラボーは翼こそないものの、跳躍はワイバーンたちの羽ばたきによる推進力よりも遥かに勝っていた。

 ブラボーがワイバーンを倒して跳躍するたび、死体がひとつずつ地面へと墜落していった。


「おっしゃあああああああ!!」


 そして最後の一匹を倒したブラボーが、今度は地面に群るモンスターたち目掛けて飛び降りていく。


 ズドドドーーーーーーーン!!!


 とんでもない衝撃が辺りを襲った。

 ブラボーの直撃を食らったモンスターは言うに及ばず、その周辺にいた連中も吹き飛ばされた。

 それはエイメンたち傭兵団も例外ではない。

 みんなモンスターともども十数メートルは軽く吹き飛ばされ、死にはしなかったものの、多くの者があっさりと気を失った。


 ただエイメンだけは衝撃の瞬間咄嗟に伏せ、吹き飛ばされるのを免れていた。

 かつて地下迷宮でブラボーがマンティコアを倒した時も砂埃が舞ったが、今回のはその比ではない。まるで砂嵐の真っ只中にいるようだった。


「ふんっ!」


 と、その砂埃が暴風によって一瞬にしてかき消えた。

 ブラボーが大剣を一振りしたのだ。


「ちっ、勢い余って地下迷宮の第五層まで突き抜けちまったぜ。おい、オルノア、この穴ぼこを今すぐ埋めろ」


『かしこまりました』


 漆黒の大剣が俄かに光りだした。

 するとブラボーの傍らにあった、まるで隕石でも落ちたかのようなクレーターがたちまち盛り上がり、普通の平地へと姿を戻らせた。


「お前、もしや、ブラボーッ!!」


 突如天から落ちてきて、ワイバーンを全滅させ、モンスターの群れを吹き飛ばしたブラボーにエイメンがその名を叫ぶ。


「お、しぶとく生きてやがったようだな」


 エイメンの姿を確認して、ブラボーがにこりともせず答えた。


「まぁ、てめぇが死んでいたらイミアさんが悲しむ。とりあえず生きていて良かったぜ」


「イミア殿に俺を助けるよう言われてやってきたか!? いや、それよりもお前、その格好はまさか……」


 エイメンは勿論知っている。

 自分がこれから倒そうとする相手が、全身刺青姿であることを。

 そしてとんでもない力の持ち主であることを。

 

「まさかお前が混沌の凶戦士だったと言うのかっ!」


 エイメンが再び叫んだ。


「ふん」


 だが、ブラボーはその問い掛けに答えない。

 答えず、ただエイメンに背を向けて歩き出した。


「なっ!? どこへ行くつもりだ、ブラボー!?」


「決まってるだろうが。俺様のニセモノをぶっ倒しにいくのよ!」


『ブラボー様、それだと先ほどのエイメンさんの問い掛けに答えたことになってしまいますよ?』


「あ」


 剣と化したオルノアのツッコミにブラボーがしまったと額に手を置く。


「エイメン、今のは無しだ。忘れろ」


 そして振り返って、そんなことを言ってくる。


「バカか、お前は?」


「うるせぇ。てめぇはとっとと町へ帰りやがれ」


 イミアさんの街を救うのはこのブラボー様なんだからなっと言い残すと、ブラボーはモンスター軍団を率いる親玉のいる本陣へと走り出した。


『すみません、エイメンさん。ブラボー様はワンダレ国の一件以来、お母様から正体を隠すよう強く言われているのです。どうか先ほどのは聞かなかったことにしてください』


 ブラボーの代わりにオルノアが直接エイメンの心へと話しかける。


「ふん。それは出来ないと言ったらどうなる?」


『ブラボー様がお母様から半殺しにされてしまいます』


「だったら問題ないな」


 エイメンは立ち上がった。


「奴の母親が出てくる前に、この俺が息の根を止めてやる」


 エイメンもまたブラボーの後を追って走り始めた。




 敵本陣まであと数百メートル。


『なんだかエイメンさんが追いかけてきますよ? どうしますか、ブラボー様?』


「ほっとけ。それよりも忌々しい俺のニセモノをぶっ倒すぞ」


『どうしてです? イミアさんにお願いされたのはエイメンさんを助けることだけでしょう?』


「イミアさんにはいい夢を見させてもらったからな。そのお礼だ」


『とか言って、ホントはまだイミアさんに未練たっぷりで、敵の大将を倒して良い所を見せて去りたいだけでしょう?』


「そうだよ! 忘れてくれと言っておきながら、忘れて欲しくないから今から敵の親玉を倒して、『ブラボー様は命の恩人』とずっと記憶に刻み込んで欲しいんだよォォォォォ!」


 悪いかと問いかけるブラボーに剣スタイルのオルノアが『いいえ』と答える。


『分かりました! では街からも見えるぐらい派手に暴れましょう!』


 本陣に集結しているモンスターたちに向かって、ブラボーがオルノアを一閃する。


 モンスターたちがまるでゴミのように空高くへと吹き飛ばされた。


 その様子はレイパーの街の城壁からもはっきりと見えたそうだ。


 

 ブラボーより遅れる事、数十メートル。


「ったく、なんてでたらめな野郎なんだ!」


 敵の本陣にひとりで突っ込み、モンスターたちをまとめて次々吹き飛ばすブラボーの戦闘に、エイメンは呆れるしかなかった。

 噂には聞いていたが、それを遥かに上回るでたらめぶりだ。

 とても人間――いや、災厄人をそう呼んでいいのか分からないが、とにかくひとりの生物の所業とは思えない。

 エイメンは体の芯から震えが来るのを感じた。

 もっとも、それを強者と戦う前の武者震いだとエイメンは信じてやまなかった。




 再び敵本陣真っ只中。


『それにしてもブラボー様のニセモノを語る奴ってどんな奴なんでしょうねぇ?』


 ブラボーにぶるんぶるんと振り回されながらも、オルノアはまるで「今夜のご飯は何でしょうか?」と言わんばかりの平常さでもって尋ねてきた。


「知らん。が、俺の敵でないことだけは間違いない」


『ですよねぇ。ブラボー様以外の災厄人は母君のブルマー様しかおられませんし。かと言って』


「母ちゃんがこんなとこにやってくるはずもないしな」


 オルノアの後を次いでブラボーが結論を出すと、さらにオルノアを振るう腕に力を込める。


 それだけで吹き飛ばされるモンスターの数が、さっきの倍近くに膨れ上がった。


 と、そこへようやく本陣の奥に佇む、敵の親玉らしき姿が見えた。


「よしっ! あいつを倒して終わりだっ!」


 ブラボーが地面を蹴り上げ、高く前方にジャンプする。

 オルノアを振りかぶった。

 上空からの袈裟蹴りで決めるつもりだ。


 が。


「か、母ちゃん!?」


 上空から敵の親玉の姿を確認して、ブラボーはぶったまげた。

 仁王立ちし、不機嫌そうな表情でブラボーを見上げるその女性は、まさしくここにいるはずのないブラボーの母親・ブルマー・E・ブルマーその人であった。


「な、なんで? ナンデェェェェェェェェェェェ!?」


 瞬く間に混乱に陥ったブラボーは、火事場のクソ力で重力を無視して空中逆ダッシュをかまし、大きく距離を取った。


 そして丁度駆けつけたエイメンの近くに着地すると


「母ちゃん、お慈悲っ!」


 と土下座してぷるぷる震え始めた。


「……お前、一体何をしている?」


 この事態にエイメンは至極冷静に問いかける。


「ば、馬鹿野郎! エイメン、てめぇも土下座しろ! さもねぇと母ちゃんにお仕置きされるぞ!」


「はぁ? なんで俺がお前の母親に土下座なぞせねばならん?」


「てめぇも母ちゃんの軍勢に歯向かっただろうが! 悪いことは言わねぇ。死にたくなかったら、今からでも遅くないから全力で謝れ。そうすればせいぜい地獄を見る程度で済む」


「地獄を見るだけで済むって、お前の母親、どれだけ鬼なんだ?」


 と言いつつ、エイメンはブラボーが自分の母親だと言い張る敵の親玉をジロリと睨む。

 そして土下座するどころか、剣を構えてブルマー目掛けて走り始めた。


「あ、あのバカ! やめろ、殺されるぞ!」


 ブラボーが大声をあげて引き止めようとするも、エイメンは止まらない。それどころかさらに速度を上げて、ブルマーを攻撃範囲に捉えるとーー


「ふんっ!」


 一気に剣を振り払った。


「ああああああー!」


 ブラボーが悲鳴をあげた。

 これでエイメンの死は決定的だ。

 それはイミアとの約束を反故にしてしまったことを意味する。

 そしてきっとブルマーはエイメンとつるんでいたブラボーをそう簡単には許してくれないだろう。

 これから我が身に降りかかるお仕置きの数々を想像すると、ブラボーは失神しそうになって地面に頭を突っ伏した。


「ふん、たわいもない。ほらよ」


 絶望に苛まれることしばし。やがてブラボーの耳にエイメンの声が聞こえてきた。

 ついで、どさっと近くに何かが投げ捨てられる音。

 なんだ?

 どうしてエイメンの奴、生きてるんだ?

 と疑問を頭に浮かべながら、ブラボーはそうっと頭を上げる。


 そこには五体満足でブラボーを怪訝そうに見下ろすエイメンと、ブルマーとは似ても似つかない、見知らぬ小柄なモンスターの死骸があった。


『あ、やっぱりタヌーだったんですね』


 オルノアがさもありなんとばかりにモンスターの正体を告げる。


「タ、タヌー?」


『ええ、姿を見た者が一番怖いと思っている奴にバケる魔物です。ブルマー様にしては威圧感が無かったから、なんかおかしいなと思ったんです』


「ちょ、おま! そういうことは早く言えよっ!」


 ブラボーが剣スタイルのオルノアをガツンとどつく。

 と、頭上からなにやら笑いを噛み締めるかのように体を震えさせるエイメンに気付き、バツが悪そうな表情を浮かべて上を見上げた。


「よう、ブラボー。お前、母親がそんなに怖いのか?」


「ぐっ、ぐぐぐぐぐ」


「『母ちゃん、お慈悲!』って土下座する姿、イミアにも見せたかったなぁ」


「ぐ、ぐぐぐぐげげげげげ」


「まぁ敵のボスを倒したことで、この俺が実質的にもこの街を救ったことになるな。ああ、お前もよく頑張ったよ、そこそこに、な」


「げげげげ、ごごごごごごごごご」


「だが、正直、俺は街を救った栄誉もイミアもいらん。だからお前に全部譲ってやってもいいぞ。ただし,この俺と――」


「うぎゃあああああああああああああああああ!!」


 本気で戦うのが条件だがな、と言う前にブラボーが大声をあげてキレた。


 そして。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 叫びながら猛スピードで走り去ってしまった。


「あ、おい、ちょっと、待て。おい、このバカ野郎! 待てって言ってるだろうがっ!」


 慌てたエイメンが必死になって引き止めようと声を張り上げるが、ブラボーはまったく聞き耳持たない。

 その姿はあっという間に小さくなり、やがて地平線の向こうに消え去った。


「くそう、逃げられたか」


 エイメンは悔しそうに地面を蹴りつけた。




☆エピローグ☆


「それじゃあ行ってくるよー」


 モンスター軍団の脅威が去り、レイパーの街は再び活気を取り戻した。

 街の東西南北にある門からは大きな荷物を載せた馬車が絶えることなく次から次へと行き来し、モンスターたちに襲われていた時以上の喧騒と慌しさが蘇っていた。


「アンジーさん、リゾッタさん、よろしくお願いしますね」


 その門のひとつから今、旅装束を身に纏ったアンジーとリゾッタが旅立とうとしている。


「イミア、くれぐれも言っておくが身の回りには気をつけるのじゃぞ。なんせお主は災厄神の魂の欠片を受け継いでいるのじゃからな」


 リゾッタがさっきから何度も同じ言葉を口を酸っぱくして繰り返している。

 あの時、地下迷宮から駆け出したイミアの魂に見えた思わぬモノ。

 戦いが終わってから落ち着いて調べてみると、やはりリゾッタの想像通り、それはかつて人間を神々の侵略から守り、ブラボーの先祖でもある災厄神の魂の欠片であった。

 リゾッタによると、モンスターたちがイミアを襲ったのはこれが理由らしい。

 リゾッタは天使が堕天した死神であり、ベテルギウスはドワーフや淫魔たちと同じく、昔からこの世界に住まう存在であるから、災厄神関連は単純に自分たちを上回る力の持ち主として畏怖している。

 が、討ち取られた神々の成れの果てであるモンスターたちは、今もなお災厄神に強い恨みを持っている。

 だからその魂の欠片を持つイミアの命を狙ったのだろう。

 変身モンスター・タヌーが混沌の凶戦士に見えたことから、てっきり嫁にするつもりだと思っていたが、もし素直に引き渡していたら今頃イミアの命はなかった。危ないところであった。


「分かってますよ。それに何かあったらリゾッタさんを呼べばいいんでしょう?」


「うむ。イミアの魂は覚えたからな。来いと念じてくれれば、いつでも馳せ参じよう」


 リゾッタが頷くものの、ただし、そういうことがないようにくれぐれも気をつけるのが大切じゃとさらに念を押した。


 これほどまでにリゾッタがイミアの身を案じるのは、ひとえに魂の契約を結んだからである。

 レイパーの騒動が集結し、住民たちが避難する必要もなくなったことから、リゾッタはイミアの魂の調査を終わらせると、天界に戻ろうとした。

 そこへイミアが「自分が死んだら魂を差し出すから、ブラボー様を見つけ出してほしい」とお願いしてきたのだ。

 欠片とは言え、災厄神を引き継ぐイミアの魂は、とんでもないレアものだ。

 欲しい。これは絶対に欲しい。

 リゾッタは二つ返事で請け負った。

 とは言え、よくよく考えるとブラボーを見つけて、ふたりがひっつくこともあれば、たとえ死んだ後とはいえ魂を無事手に入れられるのだろうか。いや、そもそもこのような契約を結んだ以上、下手にイミアが死ねばリゾッタが何か企んだのではないかとブラボーに疑われるのではないだろうか。

 どうやら、とんでもない契約を交わしてしまったらしい。

 後悔したが後の祭り。仕方なく、イミアの身を出来るだけ守ろうと決意した次第である。

 

 一方アンジーはと言うと。


「イミアさん、絶対ブラボーさんを見つけて帰ってくるから待っててね」


 アンジーが右手を固く握って突き出す。

 倣ってイミアも右拳を前に出すと、コツンとアンジーとあわせた。


「はい。そしてその時は正々堂々勝負しましょう。どっちがブラボーさんを射止めるか、を」


 あの夜、アンジーがブラボーを誘惑したのは、ブラボーがおそらくは災厄人であり、人間に掛けられた呪いからそう簡単に結婚相手が見つからないであろうこと、そして自分は淫魔の血が流れているから呪詛が効いておらず、ブラボーさんを愛することが出来ることから、半ばお情けで誘ってみたのだった。


 が、意外なことに断わられたのが結構ショックだった。

 なんというか、隠してはいるが淫魔の血を引く者として、これはプライドにかかわってくる問題だと思ったのだ。

 そしてブラボーのことを考えているうちに、なんだか本気で好きになってしまった。

 それをイミアに話すと、だったらリゾッタと一緒にブラボーを探す旅に出てみないかと誘われたのだ。

 イミアからすればブラボーを愛する仲間が増えて嬉しく、リゾッタも一人旅より二人旅の方が賑やかでいいだろうという考えだった。

 が、アンジーからしてみれば、イミアのそれは「私たちは両想いなんですよ」という驕りにも見えて、無駄に反骨精神のある心に火がついてしまった。

 おっしゃー、淫魔の血を(ちょびっとだけ)引く末裔の本気、舐めんなよ、ってなもんである。



 かくしてふたりはブラボーを探す度に出かける事になった。

 また、先んじてエイメンは周りに何も言わず、ひとりでブラボーを追いかけて行ってしまった。

 そんな彼らの心情を知ってか知らずか、ブラボーたちがあれからどこに行ったのかは誰も知らない。

 ただ、今も世界のどこかでブラボーが告白し、恋に破れ、酒場で飲めない酒をちびちびやりながらオルノアに慰められていることだろう。


 それだけはきっと確かなことだとしたためて、ここで一度ブラボーたちの物語を幕を降ろすことにする。

 また幕が上がる日を楽しみに。その日までごきげんよう。


 『ブラボー! オー、ブラボー!』  ― 完 ―

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ブラボー! オー、ブラボー!! タカテン @takaten

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