第40話 エピローグ

 あの日から1週間が過ぎても綾野祐介は機能していなかった。あの日、最後に問うた答えが見つからなかったからだった。しかし、それは誰にも不可能なことだし、旧支配者達の封印はいずれにしても解かれるべきではないとしか考えられなかった。たとえその行為がアザトースの封印を解く結果となってしまっても。やっと綾野がそう自分の中で結論づけたときだった。綾野の研究室を訪ねる人が居た。琵琶湖大学医学部助教授、恩田幸二郎だった。


「綾野先生、そろそろ落ち着かれたころだと思って来てみたのですが。」


 綾野の心を見透かしたようなタイミングが気に入らなかったが、綾野自身も恩田助教授に聞きたいことがあったのでちょうどよかった。


「ええ、やっと考えが纏まったところです。ただ、先生が星の智慧派の信者だったとは驚きでした。」


 恩田助教授は最近入信したのだという。その理由は言いたくない、とのことだった。恩田助教授は実は生物学の新山教授の娘婿にあたるらしい。新山教授もどうも何か知られたくないことがあるらしいので、もしかしたらその辺りが絡んでいるのかもしれない。いずれにしても綾野にはそれ以上追求できなかった。


「多分先生は気にしておられることと思って今日は先日の詳細のご報告に来ました。」


 そうなのだ。先日のDNAの比較検討結果はあまりにも衝撃的なナイ神父の登場のおかげであれ以上なされなかったのだった。


「もう一度確認しておきますと橘助教授は、ああ、橘助教授はすでに家に戻られていますよ、連絡が入りませんでしたか?」


「いや、多分なかったとおもうが。」


 まったく機能していなかった綾野は自信がなかった。


「そうですか、まあ無事に戻られたことは確かです。もう拘束しておく意味もないと判断されたようです。」


「データが欲しかっただけなのだろう。」


「そうなりますね、それで結果としては橘助教授はクトゥルーの遺伝子を受け継いでいると判断されます。祖父である故橘軍平帝都大学教授も当然そうなるでしょう。これは以前から予測されていたことだったようです。その事実を告げられた橘軍平教授のその後はご存知ですよね。」


 橘良平城西大学教助授の祖父であり綾野の恩師でもある橘軍平は先日亡くなったばかりだ。その死因は謎だったが実は自らの遺伝子に隠された秘密を知らされたショックからだったのだ。


「それで先生に関しても同じことが言えるのですが。」


 想像できる結末だろう。橘と同じように旧支配者の遺伝子を受け継いでいるのだ。そして、それは。


「多分ご自身でも予測されていられるとは思いますが、ナ・・・。」


 綾野には恩田助教授の言葉はそれ以上耳に入らなかった。

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クトゥルーの復活、その他の物語 綾野祐介 @yusuke_ayano

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