第43話 守と魔法少女。

 目を覚ましたマリルはベッドから出て、備え付けの洗面所で顔を洗い、制服に着替えて鏡を見ながら身だしなみを整え、鞄を持って部屋を出た。


 「おはようございます。マリル様」

 「おはようでござりまする」

 「おはようさんです」

 「おはようでございますですわ~」

 暖炉の部屋に入ると、従僕達が朝の挨拶をしてきた。

 「おはよう」

 挨拶を返しながら長椅子に座り、テーブルに用意されている出来立ての朝食を食べ始める。

 今日のメニューはバタートースト、ベーコンエッグにサラダだった。

 部屋に置いてあるテレビを付けず、従僕と話すこともなく食べていく。

 食べ終わるタイミングで、フウガが食器を片付け、ライガがテーブルを拭き、ホオガがコーヒーカップを置いた後、リュウガがカップに注いだコーヒーを砂糖もミルクも入れないままゆっくり飲む。

 「御馳走様、おいしかったわ」

 空になったカップを置いて、食後の挨拶をした。

 「ありがとうございます。今日の昼食でございます」

 リュウガが、マリルに普通サイズの弁当を手渡す。

 「ありがとう。行ってきます」

 弁当を鞄に入れ、従僕達に出掛けの挨拶をした。

 「行ってらっしゃいませ。マリル様」

 従僕達は、送り出しの挨拶を言いながら主を見送った。

 

 学校に着いて教室に入り、自分の席に座ると桜達が集まってきて、朝の交流会が始まる。

 進級した今でもこのような状況になるのは、クラスメイトが変わらないというだけでなく、マリル自身の魅力によるものだろう。

 話をしている内に予鈴が鳴り、桜達が自分の席へ戻っていくことで、視界に入った隣の席には他の男子が座っていて、マリルに見られていると分かったからか、恥ずかしそうに顔を赤くして視線を逸らしている。

 教室に入ってきた担任が出席を取っていったが、守の名前は呼ばれなかった。

 午前の授業が終り、昼休みなると女子達と昼食を食べた。

 「もうそろそろ進路を決めなきゃいけないけど、マリルちゃんはどうするの?」

 桜からの質問だった。

 「大学に進学するわ」

 「どこの大学へ行くの? 海外?」

 「この近くにある大学に行くわ」

 その解答に女子全員が、驚きの声を上げていく。

 「マリルちゃん、頭いいんだから名門大学に行けばいいのに」

 「そうよ。勿体無いわよ」

 「私、ここが気に入っているから」

 受け流すようにさらりと答える。

 「それなら私もマリルちゃんと同じ大学に行こうかな~」

 「あんたの頭じゃ無理だって。大学行けるかどうかも怪しいじゃない」

 その言葉で起こった大笑いに合わせて、マリルも精いっぱい笑ってみせた。


 放課後になり、桜達に挨拶して教室を出たマリルは、資料室へ行き、施錠を魔法で解いて中に入った。

 誰も居ない室内はとても静で、学校とは別世界のようだった。

 それから戸棚を開けて、一体の超○金を取り出す。

 硬くてひんやりする初めて手にした時と変わらない感触が、手を通して伝わってくる。

 汚れがいないか丹念にチェックして、汚れていた箇所は、魔法で綺麗にした。

 放課後はここへ来て、超○金を触るのが日課だった。

 「林さんではありませんかっ! こんにちは!」

 入ってきたのは二次会愛好会の面々で、マリルの姿を見るなり、姿勢を正して挨拶してきた。

 「こんにちは。あなた達も資料を取りに来たの?」

 なんの資料かは分かっていたが、あえて口には出さない。

 「はい、そうなんです。林さんは何をお手にされているのですか?」

 「資料を捜している時に見つけたの。誰かの忘れ物かしら?」

 超○金を見せながら嘘を付く。

 「忘れ物ですか。本来であれば教師に渡すべきなのでありましょうが、その手のものが学校にあると分かると犯人捜しで大ごとになりますね」

 自分達に疑いがかかると思っているのか、嫌な顔をしている。

 「そうね。もしかしたら忘れた人が取りにくるかもしれないし、ここに置いておきましょ」

 取りに来ることは無いと知っていながら、元の場所に戻す。

 「それにしても、そんな高そうな物を忘れるなんてどんな輩でしょうな」

 「きっと、とんだ大馬鹿野郎ね。鍵はお願いするわ」

 そう言って資料室を出て、そのまま学校を後にした。

 初めは超○金を屋敷へ持って帰ろうと思ったが、守が学校に居た唯一の証である為、自分が卒業するまでは置くことにしているのだ。

 屋敷に戻り、従僕達の出迎えを受け、沐浴した後、暖炉の部屋で夕食を摂った。

 メニューは、ご飯にみそ汁、焼き魚、サラダとこれまでのマリルからは考えられないくらい少量だった。

 魔法を使うことがほとんど無い為、普通の分量で足りるからである。

 食べ終えて、自室で宿題をして就寝した。

 人間世界は、守の存在を忘れさせられていた。

 全ての世界を震撼させた一大事の後、魔法連邦を含む他の世界との協議の結果、大邪神の存在は人間世界に混乱を招くということで、守やマジンダムのことも含めて、記憶を消去する決定が下されたのだ。

 マリルもその決定に賛同した。人間世界の混乱もさることながら、大邪神の宿主にされた守が、誹謗中傷の対象にされるかもしれないと危惧したからである。

 柊を含む身内の記憶を消すのは気が咎めたが、中途半端に残すのは良くないと思い、自ら出向いて記憶を消去した。

 記憶消去の作業を完了させた後、マリルは魔法使いとしての資格と役職を全て放棄して、人間世界で暮らすことを申し出た。

 魔法世界の代表として、一個人として、自分達の為に犠牲になった守の世界に身を置きたいと思ったからである。

 多くの者達が、マリルの申し出に驚嘆したが、これまでの功績と戦友の損失という精神的痛手を考慮した結果、人間世界で暮らすことが許可された。

 

 「月曜の朝に戻るわ」

 従僕達に挨拶した後、マリルは地下室の転送魔法陣で魔法の世界へ移動した。

 「あの日から、もう半年以上でござるか」

 「そんなに経ったんかいな」

 「時間って残酷なものね」

 マリルを見送った後、従僕達が悲観的な言葉を口にしていく。

 「どうしたんだ? 急にしんみりしたことを言い出して」

 「リュウガ殿は、なんとも思わないのでござるか?」

 「私は、マリル様に命と力を与えてもらった日からこの身の全てを捧げると誓っている。マリル様が望む限り、お仕えしていくだけさ」

 「それはわいも同じや。マリル様に一生お仕えするって誓っているさかい」

 「マリル様が、契約解除を申し出た時に三人が残るとは思わなかったよ」

 「何を言っているの、リュウちゃん。マリル様は四方の魔女なのよ。あたし達四人揃わないと意味が無いじゃない」

 「そうだな。正直に言わせてもらうと三人が残ると言った時は心から嬉しいと思ったよ。これからも四人で居られる思ったからな」

 その言葉に三人は笑顔で頷き、互いの絆を確認し合った。

 「さあ、屋敷の掃除を始めよう。汚れていてはマリル様に叱られてしまう」

 四人は、屋敷の掃除を始めた。

 掃除が終わるとリュウガは買い出しに行き、他の三人は自分達の部屋に戻った。守が消えた日から三人は、アキハバラには行かなくなっていたのだ。

 

 「ほんと退屈だわ。けど、この退屈だけは我慢しないといけないのよね~」

 フウガは、ため息を吐きつつ、半年以上着ていないコスプレ衣裳の入ったクローゼットの扉を閉めた。


 「金で買えへんもんは少ないから大事って言うてたけど、ほんまにその通りや。マリル様を笑顔にできる気持ちは幾ら出しても買えへんわ~」

 ライガは、ベッドにごろ寝しながら呟いた。


 「お辛いですか?」

 椅子に座っているホオガに、かぐやが語りかけてくる。

 「辛い。主の真の笑顔を見ることができないからな。それも拙者ではどうすることもできないでござるし」

 「そうしたお気持ちは、あなた以上に分かります」

 「お主にも何かあったのか?」

 「わたくしの主様は、公家の娘で、わたくしはお誕生日の品として送られたのです」

 かぐやは、自身の過去を語り出した。

 「わたくしは、とても大事にされ、そのような日々がずっと続くと思っておりましたが、ある日落馬事故で主様は亡くなられてしまったのです。葬儀の後、主様の母上様は娘を思い出すからとわたくしを売りに出したのでございます」

 「それはさぞ辛かったでござろうな」

 「わたくしは物ですから売りに出されるのは構いませんが、せめてもう一度主様の笑顔を見たいと今でも思っております。あなたの主様はまだ存命なのですからしっかり支えてお上げなさい」

 「そうするでござる。ありがとう。かぐや」

 ホオガは、礼を言いながらかぐやを抱き寄せた。


 「おかえりなさいませ。マリル姉様」

 移動先の魔法陣に着くと、メルルから出迎えの挨拶を受けた。

 「ただいま、メルル」

 返事をしながら一緒に部屋を出る。

 「おかえり、マリル」

 「おかえりなさい。マリル」

 部屋の外では、マリューとクラウディアが待っていた。

 「ただいま、お母様方。お父様方は?」

 「朝の打ち合わせを終えたら来るわ」

 「二人共、あなたに会いたいからすぐに来ますわ」

 「そうですね」

 その会話が終わらない内に、マーベラスとジョバンが息を切らしながら現れ、家族全員による朝食が始まった。

 マリルは、週末には魔法世界に帰って、家族と過ごしていた。

 人間世界での定住を許可する上で、両親からの唯一にして絶対の条件だったからである。

 マリルもこの条件に不服はなかった。自分の我儘で家族を悲しませたくなかったからだ。

 家族の団欒では、メルルの進学状況や連邦都市と王都の復興状況などが、主な話題だった。

 「マリル、まだ人間世界に居るのか?」

 食後のお茶会の最中、マーベラスが問いかけてきた。

 「ちょっと、あなた」

 マリューが、咎めるように口を挟む。

 「それは私も是非聞いておきたい」

 ジョバンが、マーベラスに賛同する。

 「あなたまで」

 「いいや、これは大事なことだからきちんと聞いておかないとな」

 二人共、いつになく重い口調だった。

 「人間世界で進学します」

 「それでいいのか?」

 マーベラスが、再確認するように聞き返してくる。

 「はい、私の意思は変わりません」

 決意を込めた強い口調で言い切った。

 「そうか。そこまで決めているのならそれでいい。ただし、進学してからも週末には必ずこちらに帰って来てくれ」

 ジョバンが言った後、全員黙ってマリルの返事を待った。

 「そうするつもりですからそのことに関しては心配なさらないでください」

 マリルの返事の後、家族に笑顔が戻り、お茶会が再会された。

 給士係は、ペーパーマスターが務めていた。

 マリューの従僕としての役目をきちんと果たしているのである。


 「クラウディア、覚えている?」

 食後の片付けをしている中で、マリューがクラウディアに問いかけた。

 「何をですの?」

 「どちらの料理でマリルを笑顔にするかって話」

 「もちろん覚えていますわ」

 「今のところどっちが勝っているのかしらね」

 「気になるのであれば、マリルに直接聞けばいいでしょう」

 「それじゃあ、二人だけの勝負にならないじゃない」

 「勝敗をどうこう言うのであれば初めから着いているのかもしれませんわ」

 「あら、氷結の魔女が珍しく弱気な発言?」

 ワザとからかうように言い返す。

 「まさか、あなたのお気持ちを代弁してさしあげただけですわよ」

 負けじと言い返してくる。

 「どちらにしても、私達は美味しい料理を作って、これからもあの子を支えていかないとね」

 「そうですわね」

 二人は、軽く笑い合った。


 「そう、そんなことがあったの」

 「ドロシーさんは厳しい方ですがきちんと指導してくださります」

 マリルは、メルルの部屋でベッドに座りながら、細かい近況や他の魔法使いのことを聞いていた。

 朝食が済んだ後は、二人だけで話をするのが、姉妹の習慣になっているのだ。

 「マリル姉様、お話しがあります」

 メルルが、態度を改めて話しを切り出した。

 「なあに?」

 「数年後に姉様がまだ人間世界で生活していらっしゃる時は、私もそちらに行ってもよろしいでしょうか?」

 「私と一緒に暮らすってこと?」

 「柊が帰る際に話ていたのです。地元の高校を卒業したら東京の大学に通いたいと」

 「そんな話をしていたのね」

 「記憶操作で私のことは覚えていないでしょうけど、また友達になれればいいなと思いまして」

 メルルが、少し寂しそうに進学の理由を話すのを聞いて、記憶消去によって妹は友達を失ったことを改めて知り、心が傷んだ。

 「魔法使いの方はどうするつもり?」

 「もちろん資格は取りますし、魔法連邦にもきちんと所属いたします」

 「そうなったら任務もあるから人間世界での定住はできないわよ。特にあなたは上位の魔法使いを目指しているでしょう」

 「そうだとしても姉様を支えて差し上げたいのです」

 メルルは、強い口調で自分の意思をはっきりと伝えてきた。

 「メルル、私は大丈夫だからあなたは自分の道をしっかり歩みなさい」

 マリルは、妹の頭を優しく撫でながら諭した。


 それからさらに数ヶ月が経ったある日、学校帰りに屋敷へ続く坂道の前で、宅配業者から荷物を受け取っているリュウガに出くわした。

 「リュウガ、何をしているの?」

 「これはマリル様、おかえりなさいませ。宅配便を受け取っていたのでございます」

 「何を買ったの?」

 「ええと、それがですね~」

 リュウガにしては珍しく解答を渋っている。

 「早く言いなさい」

 「これでございます」

 答える代わりに見せた四角い箱には、「最強無敵ロボマジンダム五周年記念アニバーサリーブルーレイボックス」と書かれていた。

 人類の記憶から消したのは、マリルが具現化させたマジンダムであって、アニメのマジンダムは現存しているのだ。

 「だから私に見せないようにしたのね」

 「はい」

 「別に気にすることはないわ」

 言葉とは裏腹に、冷めた口調になっていた。

 「ありがとうごさまいます」

 マリルは、返事をせずにリュウガの脇を通って、坂道に足を踏み入れた。

 「そうだ。リュウガ、全部見終わってからでもいいから私にも見せなさい」

 坂道を昇る前に足を止めて命じた。

 

 その夜、自室にてマジンダムのブルーレイを全話見た。学校が休みだったので、見る時間は十分にあったからだ。

 「なによ、全然おもしろくないじゃない」

 小さな声で、全部話分の感想を洩らす。

 マジンダム専用魔法開発の際に見たのはダイジェスト版DVDだったので、きちんと見るのはこれが初めてだった。

 「こんなダサくてカッコ悪いロボットなんかと一緒にいなくなるなんて、ほんと最低」

 マリルは、文句を言った後、リュウガに返すべく、ディスクをしまおうと箱を持ち上げた。

 その時、箱から一枚のチラシが落ちてきて、拾い上げてみるとブルーレイ購入者限定イベントご招待と書かれていた。

 マリルは、しばらくチラシを見た後、それを持って部屋を出た。

 

 イベント当日、マリルは会場に来ていた。

 リュウガに応募してもらい、当選して参加しているのだ。

 会場はお台場にあるイベントホールで行われ、大勢のファンで賑わっている。

 登壇した司会者の男性が諸注意の説明をした後、OP担当歌手による生歌を皮切りにイベントが始まり、メインキャストによるトークショーに朗読劇などが行われた。

 マリルは、それらの演目を周囲の熱気溢れる反応とは反対に、黙って見ているだけだった。

 ここに守が居たなら、どんな反応を見せたのだろうと考えていたからである。

 イベントも終盤になり、フィナーレとして、もう一度OP曲を歌うことになり、担当歌手が歌い始めるとキャスト一同が登壇し、観客まで立っての合唱が始まった。

 ただ一人座っているマリルは、黙って聞いていて、この巨大ロボットアニメが大好きだった守にもう一度会いたいと思うようになっていた。

 歌が終わる頃には、涙を堪えるあまりに顔を伏せていた。

 曲が終わると会場は静まり、それから急にざわつき始めたが、マリルはそのままでいた。

 「外に等身大のグレートマジンダムが立ってるらしいぞ!」

 観客の一人の言葉を聞いた時には、転送魔法で外に出ていた。


 そこには周囲の人間は初めて目にするものだったが、マリルは何十回と見てきたものがあった。

 男の言った通り、等身大のグレートマジンダムが、立っていたのである。

 マリルは初めの内、他の人間と同じく黙って見ているだけだった。

 自分の願望が見せた幻かと思ったからだ。

 だが、周囲の人間の驚く様子を見て、幻ではなく現実に存在していると確信すると、辺り一帯の人間を魔法で眠らせるなり、マジンダム目指して走り出した。

 近付いてくるマリルに対して、マジンダムは片膝を付いて右手を差し伸べてきて、息を切らしながら右手に乗ると、コックピットへ運んでいった。

 これまで何十回と繰り返してきた行為であったが、今は同じ体験を出来ることが、嬉しくてしかたがない。

 胸に近付くのに合わせて、コックピットハッチが開き始めるも、我慢できずに半分開いた辺りで中に飛び込む。

 「守!」

 マリルは、パイロットである少年の名前を大声で呼んだ。

 「マリル」

 パイロットシートから立って、名前を呼んだのは、別れた日と同じ姿の守だった。

 「本当に守よね」

 溢れる涙を堪えながら問い掛ける。

 「本当だよ。巨大ロボットが誰も好きな鋼守だよ」

 「守~!」

 マリルはおもいっきり抱き付き、守はおもいっきり抱き返した。

 「守! 守! 守~!」

 大声で名前を呼び続ける。

 「そんなに大声出さなくても十分聞こえてるって」

 「ずっと会いたかったんだから好きなだけ呼ばせなさいよ!」

 「それは俺も同じだよ。ずっと会いたかったよ」

 「守」

 「マリル」

 互いに名前を呼び合った後、今度は黙って抱き合う。

 「けど、どうして? あの時確かに爆発したのに」

 「大邪神の悪足掻きのおかげさ」

 「悪足掻き? 」

 「爆発した直後、死ぬのを嫌がった大邪神は俺とマジンダムと一緒にいろんな世界に飛び散るくらいに細かく分散したんだ。だから再生するのにこれだけの時間がかかったんだよ」

 「それじゃあ、大邪神も一緒に再生したってことよね」

 「そうだ」

 「それならまた世界を乗っ取ろうとするんじゃない?」

 マリルから笑顔が消え、不安そうに辺りを見回す。

 「心配ないよ。それに付いてはお互いに妥協したから」

 「妥協?」

 「再生している間にまた悪事を働くようなら同じことをしてやるって言い続けたら大邪神も折れて俺の体に居させる代わりに世界には干渉しないって取り決めを結ばせたんだ」

 「けっこうどぎつい駆け引きしたのね」

 「大邪神の根本の願いは肉体を持つことで、俺としても体に居る間は何もしないんだからこれでいいと思っているよ」

 左手を上げると、手の甲に大邪神の目が現れたが、重低音の声は出さなかった。

 「それで改まってなんだけど、俺が最後に言ったこと覚えているか?」

 「あっ」

 最後の言葉を思い出したマリルは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 「返事、聞かせてよ」

 「ここで?」

 「ここが一番だろ。なにしろ俺達が一番一緒に過ごした場所なんだから」

 「・・・・好きよ。大好き!」

 マリルは、顔を上げて、自分の気持ちをはっきり口にした。

 それから二人は、少しの間見詰め合った後、互いの気持ちを示すようにキスを交わした。

 「さてと、これからどうする?」

 唇を離して、抱き合ったままマリルに尋ねる。

 「そうね。柊ちゃん達の記憶を戻すことかしら」

 「どういうことだ?」

 「守が再生している間、この世界の人達にとっては初めから存在しないことになっているから」

 「おいおい、そりゃないだろ~」

 「しかたないでしょ。あんな消え方したんだもの」

 「それもそうか」

 「けど、その前にやりたいことがあるの」

 マリルは、顔をおもいっきり綻ばせた後、守と一緒に転送魔法で外に出て、マジンダムを玩具サイズにして屋敷へ戻し、周囲の人間を起こして、魔法でマジンダムを見た記憶を消した。

 「これでよし」

 それからもう一度転送魔法を使って、ある場所へ移動した。


 「ここって」

 「そ、アキハバラ」

 移動先は、アキハバラだった。

 「久々の再会で行く場所がアキハバラなのか?」

 「私決めてたの。もう一度守に会えたら絶対にアキハバラに行こうって。それまで色んなことい~っぱい我慢していたんだから、これからおもいっきり発散しないとね。それともアキハバラじゃ不満?」

 「いいや、久々にアキハバラを堪能するか」

 二人は、手を繋いで、アキハバラへ歩き出した。

 守とグレートマジンダムの帰還は、すぐに他の世界に知れ渡り、従僕、アウグステゥス夫妻、パプティマス親子にペーパーマスター、さらに妖精に天使や悪魔までもが、二人の動向を微笑みながら見守っていた。

 屋敷へ戻されたマジンダムは、超○金玩具として静かに佇んでいるのだった。

                 完

 

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