親子の絆を深めるのに一役買った、カクヨムの話。【あなたのカクヨム物語コンテスト】
非常口
なかなかやるじゃない、カクヨム!
「ただいまー!」
お、10歳の息子が学校から帰ってきたぞ。
わたしはノートパソコンの作業をいったん終了する。
なぜかというと、それは……。
「お母さん、パソコン使わせてー!」
「はいはい、どうぞ」
息子が今、パソコンにハマっているからだ。
ランドセルを自分の部屋に放り投げた息子は、わたしと共有のパソコンの前までドタドタと走ってくる。こらこら、楽しみなのはわかるけど、もうちょっと落ち着いてくれないかなー。
息子はノートパソコンを開くと、もう画面に夢中だ。
画面に映っているのは、ゲームでも動画サイトでもない。
小説投稿サイト――カクヨム。
大手出版社のKADOKAWAが運営しているwebサイトで、自分が書いた小説を投稿したり、他の人が書いた作品を読んだりできるらしい。
へー、何だかおもしろそう。
でも、今まで小説なんて読まなかった息子が、どういう風の吹き回し?
いったいどんな作品を読んでいるのかしら。
気になって、息子の横からのぞき見してみると――
「お母さん、見ないでよ!」
あらあら、怒られちゃった。
わたしに見られるの、そんなに恥ずかしいのかしら。
まさか……エッチな作品、見てるんじゃないでしょうね。
その日の夜、わたしは息子にナイショでカクヨムを開いてみる。
息子はログインしっぱなし。パスワードを知らなくてもだいじょうぶ。
へー、トップページはこんな感じになってるんだ。
注目の作品のコーナーと、ジャンル別にもランキングがあって、読みたい作品を探すのが楽しそう。あ、最近読んだ作品のコーナーもある。これはわかりやすくていいわね。
息子が読んだ作品は……どれも「詩・童話」ジャンルの作品。
トップページのランキングに掲載されているのがメインみたい。
なあんだ。息子が読んでたの、童話だったんだ。
童話を読んでいるのが恥ずかしいだなんて、かわいいとこあるじゃない。
あと、エッチなの読んでるんじゃないかって、疑ってゴメンね。
息子が読んでいた作品、わたしも読んでみようっと。
あれ……? ちょっとこれ、すごくない?
みんなプロの人なんじゃないかってくらい、おもしろいんだけど!
ううん、プロの人よりも発想が豊かで、意外性があって――なにより熱意が伝わってくる。つい夢中になって読んじゃった!
これは……息子がハマるのもわかるわね。
でも最近、カクヨムに息子がハマっているせいで、わたしとの会話はどんどん減っていくばかり。お母さんとしては、ちょっとさみしかったり。
よーし、それなら。
その後わたしは、1時間ほどカタカタとキーボードを鳴らした。
次の日のお昼過ぎ。
「ただいまー! お母さん、パソコン貸してー!」
「はいはい、どうぞ」
いつものように、ドタバタ帰ってきた息子にパソコンを明け渡すわたし。
でも今日は、いつもと違うことがあったりする。
「おー、今日はランキングに新しい作品があるぞ! タイトルは……モジモジくえすと? えっと、文字が冒険する物語? 何これ、すごくおもしろそう!!」
息子の言葉に、わたしは思わずニヤリとしてしまった。
その作品、実は昨日わたしが書いたものだったりするのだ。
幸運なことにもいくつかの★をいただき、ジャンル別ランキングでトップページに掲載されたのを今朝知って、本当に驚いた。嬉しさのあまり、今日は何度も何度もトップページに訪れてしまったほどだ。
同じパソコンで別アカを作ることができないので、息子のアカウントで投稿しちゃったけど、どうやらわたしの作品だとはバレていない様子。作者名は興味がなくて見なかったのか、それともまだ学校でアルファベットを習っていないから、デフォルトのままのアカウントネームが投稿者と同じ名前だと判断できていないのか。
どちらにせよ、気がついていないのはラッキーね。
フフフ……。
わたしの作品を読んで、息子はどんな反応をするのかしら。
「うわあ、これ……すっごくおもしろい!!」
よし! わたしは心の中でガッツポーズ。
息子が夢中で読んでいる間、わたしはニヤニヤしっぱなし。
ところがそのニヤニヤ状態は、すぐに終わっちゃった。
「あれ、この作品に★が入れられない? 何で!?」
あ……、まずい。
そりゃ自分の作品に、自分の★は入れられないものね。
息子はすぐに、その作品が自分のアカで投稿されたものだと気がついちゃった。
「ええええええっ!? 何でこれ、俺が投稿したことになってるの!? 俺、小説なんて書いたことないのに!! ねえお母さん!! ん、お母さん……??」
そろーり、そろーり……。
その場から退却しようとしていたわたし。
しかし息子が、そんなわたしをあやしむように見ています。
「まさかこれ、お母さんが書いたの……?」
あちゃー、ばれちゃった。
わたしは「えへへ」と笑いました。
「すげー! お母さん、こんなおもしろい小説書けたんだ!!」
うん。学生時代のとき、ちょっと書いててね。
「ねえねえ、俺にも小説の書き方教えて! 俺も書いてみたい!!」
えー、どうしようかなー。
恥ずかしいし……。
「恥ずかしくないよ! 俺、もっとお母さんの小説読みたい! お母さんもカクヨムに登録しようよ! ねえ知ってる? カクヨムってスマフォでもできるんだよ!」
え、そうなの?
だったらこの作品も、わたしのスマフォで投稿すればよかったなあ。
そうすれば、息子にバレることもなかったし。
でも……まあいっか。
こうしてバレたおかげで、息子との会話が前より増えそうだから。
息子と仲良くなれたのはカクヨムのおかげ、ってね。うふふ。
なかなかやるじゃない、カクヨム!
親子の絆を深めるのに一役買った、カクヨムの話。【あなたのカクヨム物語コンテスト】 非常口 @ashishiF
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