第7話
人間関係、といえば、私は恋愛にもクセがあるらしい。自分としては大恋愛というか、彼氏ができるたびに恋に溺れる。恋をすると生活の第一優先が彼になり、社会人としての理性が若干損ねられる。仕事中も関係なく、四六時中彼のことばかり考えてしまう。恋の終わりは毎回身体中の水分が奪われんばかりの涙を流す結末を迎えるが、それも含めて恋の醍醐味だと、私を哀れむ人は本当の恋をしたことがないんだと疑わなかった。
歴代彼氏の容姿や年齢はバラバラであるが、共通して皆それぞれ夢を持っていて親の脛をかじっていた。それに気がつくのは、5人目の彼氏と付き合いだして1ヶ月目のことだ。当時「ダメメンわんだ〜」という漫画が流行しており、それに心理屋が解説をつけた本も販売されていた。ダメメンわんだ〜とは、「ダメ」な「メン(男)」をさまよう人、つまりダメな男とばかり付き合う女のことを指す。人に「ダメ」などと言える立場でない、とも思っているし、人様に「ダメなどと烙印を押せる人間なんて1人もいないんじゃないか」という考えも持っている。しかし、「自分の行動が強く影響して生活が破綻している人」をこの本で言うダメメンと、自分なりに定義づけて読んでいたら、共感どころの話ではなく、これは私を漫画化したものかと、そもそも私は誰かが創作した2次元の登場人物で、この空の果てにはページをめくる読者がいるのではないかと、実際に天を仰ぎみてしまった。
某心理屋の解説コラムが巻末に添えられていた。それによると、
ダメメンにハマる女は、父親が十中八九ダメ男で、父親のようなダメな男を好きだと「錯覚」しているのだそうだ。子どもは自分ひとりで衣食住を成り立たせることができないことから、親に好かれないと生命を維持できない。また、親にとっては自分を求めない子どもはかわいくない。自分に酷い扱いをする親であっても、子どもは親を必要とし、好かれるふるまいをしないと生きていけないのだ。生物の本能が作用し、身を守る術として「父が好き」と思い込み、、その思い込みが成長しても抜けず無意識に父親と似た男ばかり求めてしまい、ダメメンわんだ〜の完成!、、のようなことが書いてあった。ということは、私が今までしていたのは「恋」ではなく「思い込み」だったんだ・・・!
そのタイミングで一緒に電車に揺られていた当時の彼氏が、呑気さを顔面全体に貼り付けて「コンビニの面接、一応受かったけど、ヒゲを剃れって言われて半日で辞めてきた〜。いいよね〜。」と言ってきた。彼氏の横でそんな本を読む私も私だが、さっきまで愛しくて仕方がなかった笑顔が、もう父と重なり胡散臭く見えた流れで、光の速さで別れた。
それからの私は改心して「本当の恋」を探そうとするが、ときめくのは父に似た夢見がちで依存的な男ばかり。それでも人恋しくて、錯覚とわかっていても離れられなくて、そんなこんなで割と彼氏らしきひとは常に居た。28歳までは。30歳が近づくと今度は「重い」と言われるか、人生の破綻しか予想できないようなプロポーズを受けるかの、極端なセリフばかりもらい、気がついたらたら世間で言うところの「干物女」になっていた。ダメメンわんだ〜ならいっそのこと、後先考えずに飛び込めてしまったら、幸か不幸かはさておき今頃結婚できていたのかもしれないが、「キングオブダメメン」と結婚した母の苦労を長年見てきた私は、臆病さも慎重さもフル装備していたのだ。
同居してから父が「はっちゃんも彼氏くらいつくりなよ。」と軽口を叩くたびに、「誰のせいだよ」と本格的に怒りが湧いて小一時間話ができなくなる。
「はっちゃんは俺に似てよく見ると美人なんだけどなあ。」
ムカつくことに、認めたくないが父は毎年「抱かれたい男ランキング」に名を連ねる俳優に似ている。「抱かれたい」というワードに嫌悪感倍増だ。父は父で、私をイラつかせる要素をふんだんに装備している。
妄想ドロップ 上杉しずく @wesugisizuku
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