鑑定しちゃうぞ
カツオシD
鑑定しちゃうぞ
インンターネットを見ていたらトッズの素敵なバッグを見つけた。
欲しいなあ・・・。勿論エルメスなんかと比べると安いんだけど私にはちょっと高い。
実は私はすでに一つ持ってるんだけど、これは真っ赤な偽物だ。お店をすでに辞めた子が3万円の借金のかたに押し付けた。その子は「失礼ねモチ本物よ」なんて言ってたけど・・・。
私はスマホのアプリ『鑑定しちゃうぞ』を立ち上げて、パチリと写真を撮った。
すると、撮られたバッグの写真に「ニセモノ~」という大きな文字が出た。
実は前に専門家にも鑑定してもらったことがあるけど、ニセモノと言われていたのだ。
ところで『鑑定しちゃうぞ』というこのアプリ。これは最近すごく流行っているスマホ用アプリだ。絶対に正確というわけではなく、一応お遊びなんだけどよく当たる。
ブランドバッグなんかは本物が記憶されているようで、経年劣化以外の変異点があると「ニセモノ~」という表示が出る。
ただ、本物を委託されて製造している工場が影でコピー商品を作るとさすがに見分けがつきにくいと見えて「ワカンナイ~」と出る。
その点は正直だ。面白いのは絵画の鑑定で、美術館で名画を鑑定すると「ホンモノ!」と出るが、展覧会のおみやげに買ってきた、印刷した名画をかざすと「ホンモノだけどニセモノ~」と出る。おそらく印刷したものはドットがあるとかで、見分けがつくのだろう。
そればかりではない。面白いのはこのアプリ、おおよその値段まで教えてくれるのだ。
例えば有名な絵画では、直近の取引価格を参照して現在の推定価格を、そうでないものはアプリ独自の判断で、かってに値段を付けてくれる。つまり無名のイラストレーターの作品でもすぐれたものには「ホンモノ!」と出て作品に見合った価格が、有名であっても本当はデッサンの狂ったような作品には、容赦なく「ニセモノ~。1円の価値も無し~」と出る。人間が鑑定する場合と違うのは、その作家が人気あるとかないとかのプレミア価格は考慮されないことだ。
つまり、このアプリがあれば、こんなニセモノのトッズを3万円の代わりに押しつけられることはなかったということで、あの時に知らなかったことが残念だ。
と、そこで私の頭にひらめきが走った。
確か私は値打ちの有りそうな大皿を三枚持っていたのだ。
実家とは縁遠くなった私だが、死んだじっちゃんから「あいつにもこれをやってくれと」骨董品の皿をもらっていたのだ。テレビで柿右衛門だとか古伊万里だとか言って鑑定してもらっている人は大抵がニセモノを掴まされている。じっちゃんの場合も悪どい店主からカモにされていた可能性が高いが、もしホンモノだったらトッズのバッグくらいは楽に買えるだろう。こんな便利なアプリがあるんだから、ちょっとやってみよう。
そう思って押し入れに詰め込んであった『いらない物入れ』の中から昭和の古い新聞紙で包まれた大皿を取り出した。大皿はどれも直径40センチくらい。なにやら昔風の絵皿で、値打ちがあるんじゃないかな? という目でみれば、そう見えなくもない。もし1000万くらいするものだったらと思うと手が震える。とりあえず壁に立てかけて鑑定してみよう。
私はアプリの表示が出ているのを確かめて、パチリと写真を撮った。すると・・・。
まあ、そうだよね。「ニセモノ~。1円の価値も無し~」とでた。
この皿だって料理に使えば1円の価値もないってことはないでしょうに。ずいぶん失礼な言い方ねと思いながらも二枚目を・・・。
残念ながらこれも同じ結果になった。もしかすると皿の鑑定は得意ではないのかな? と思いつつ三枚目を撮ってみると、ジャジャジャーンという、今まで聞いたこともない音がして。「ホンモノで~す」とでた。ご丁寧に「古伊万里ではなく明治から大正に作られたもの伊万里皿で推定2万円」とある。『鑑定しちゃうぞ』は皿にも詳しかったのだ。
2万円だとトッズは買えないけどサマンサタバサくらいは買えるだろう。
私は皿がホンモノであったことがうれしくて、お店に出る時間が迫っているというのに、さっそくツイッターでみんなに知らせることにした。
お皿を抱えての自撮りは難しい。私は顔写真は載せてないので、そこはギリギリ見えないようにしてカシャっと・・・。と、思ったら手がすべってズルットと皿が落ちそうになった。
「危ない!」
すんでのところで皿を落とさずに済んだが、撮れた写真は私の顔のドアップだった。
この時、まだ『鑑定しちゃうぞ』が残っていたのだろう。アプリはご丁寧に私の顔を鑑定してくれた。
「ニセモノだからホンモノ~」アプリは微妙な表現をしてくれた。
「そりゃそうでしょうよ。この業界、ホンモノだったらニセモノだもの」
私はそうボヤキながら、新宿二丁目にあるお店に出かけた。
( おしまい )
鑑定しちゃうぞ カツオシD @katuosiD
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