最後
退院から1週間後、僕は朝から着慣れた制服に身を包み、カバンを持って家を出た。
いつもより清々しい朝な気がして気持ちが浮いている。だからだろうか。心なしか歩く速さも少し速い気がしてきた、
登校中の考え事なんて、彼女にどんな話をしようかとか、昼ごはんを2人で食べたいとか、彼女の事ばかりだ。
そうしていると、あっという間に正門が見えてきて、周りを見渡したが流石に鉢合わせるほど運が言い訳でもなく彼女の姿は見えなかった。
(まぁ、教室あがって少し待ってから隣のクラスに行ってみよう)
そう思い、下駄箱に靴を入れ上靴に履き替える、何度も登った2年生までの階段、久しぶりの教室は皆の心配の声と喜びの声で溢れかえった。
(そろそろかな。)
良いくらいの時間になったので、隣のクラスに向かった、でも、彼女の席はまだ空席で、寝坊でもしたのかなと、ちょっぴりおてんばな彼女らしいと思いつつ昼休憩にもう一度見に行ったがやっぱり空席のままだった。
気になって、彼女と同じクラスメイトに聞くと渋い顔をして、「お前、入院してたやつだっけ?だから知らねーのか。」と言われた。何のことだかさっぱり分からないが彼女の事で何かあるのは確かだ。
すると、その男子生徒は1人の女子生徒を呼んだ。「詳しいことはこいつに聞いた方がいいぜ」と言って、見た目の割に親切なやつだと少し驚きを感じていると、目の前の呼び出された女子生徒が今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。
「貴方、唯が言ってた神馬くん?話聞いてる、あなたが来たら渡すよう頼まれた」
と言って、彼女は制服のポケットから1通の便箋を取り出した。
神馬優真くんへ
まず初めに、ごめんなさい。
私はホントは嘘をついてました。大きな嘘
事故にあったあと、大丈夫なんかじゃなかったんです。私は多分もうすぐ死にます。
脳に強い衝撃を受けていたので、脳死すると思います。未来のことなんて分からないから本当にそうなるかはまだ曖昧ですけど、いずれは。
だから、この手紙と一緒に私の大切なものを同封します。
じゃあ、ここら辺でお暇します笑
一緒に居られなくでごめん。
さよなら、そして。
こんな私と一緒に居てくれて、ありがとう!
綾芽 唯より
手紙には、彼女が死ぬということが書いてあった。頭が真っ白になって状況がわからなかった。いや、分からなかったのではなく、分かりたくなかった、現実を受け止めきれなかった。
「か、彼女は、生きてた、生きてたんだよ、だって、ついこの前川沿いの桜の木の下で告白したんだ。色んな話をしたんだ。彼女は生きてるんだ!」
「神馬くん、気持ちは分かるけど唯が亡くなったのはもう3週間も前のことよ、ついこの前って…。ありえないわ。それにもう一つのメモ用紙と同封してある物、ちゃんと見てあげて。」
そう、彼女の友人に促され、彼女が大切だという同封のものを見て、唖然とし、涙だけが何度も何度も何度も頬を伝った。
同封されていたのは、小さなカードでそこには「ドナー」と書かれて提供臓器欄に「心臓」が強く丸され他の臓器もほとんどが選択されていた。
それと、一緒にでてきた、メモ用紙には
「私は死んでも自分は嫌いにならないで下さい!笑笑パクった、でももし私が死んで、貴方のドナーになれたらずっと一緒だね笑」
と書かれていた。
もう、枯れてしまうくらい涙を流した。
あとで、聞いた話だと、ごく稀にドナー提供者の意思や幻覚が現実のように現れたりするらしい。だからあの桜の木の下であった彼女は僕の中の彼女の幻覚だったのだろうという事だった。
彼女を失った僕は自暴自棄になってまた、過去の自分に逆戻りするのかと思われたが。
彼女がそれを許さなかった。俯いて下ばかり見ている時は何故か勝手に上にある高くて青い空を眺めていたり。話したこともないクラスメイトに話しかけたりと。まるで、僕の体を借りて彼女が居るみたいだった笑笑
だから、僕自身も少しずつ変わっていった。
僕は自分の心臓に手を当て、鼓動を静かに聞く、すると、いつも決まって太陽のような君の笑顔が頭の中を埋め尽くして、幸せな気持ちにしてくれるんだ。
最後まで冷たくしてごめん。
さよなら、どけど
こんな僕に幸せをくれてありがとう。
「君の笑顔と僕の鼓動」 夢の綴りビト @kuroneko0521
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