いやだと思っていても時間は過ぎていくもので、あっという間に火曜日の放課後はやってきた。俺は佐久間達との会話を途中で切り上げ、図書室へ向かった。

 放課後の図書室は静かで、数人の人はいるけれど本を読んだり勉強をしたりと各々自分の目的をこなしていた。静かな中を紙をめくる音と字を書くカツカツという音だけが響いていた。

 もう既に竹中は来ていて、図書カウンターの中で何か作業をしていた。俺はすることもわからずとりあえず図書カウンターへと向かった。竹中は何かを書いていて、何もしていないことに対しての心許なさと、気まずさで心が埋まっていた。

「はい。」

 何かを書いていた竹中がその紙を俺に渡してきた。

「えっなにこれ?」

 俺の言葉に答えるつもりもないようで、ただ読めと言わんばかりに見てきた。

 見るとそれは図書委員の仕事の説明だった。綺麗な字でわかりやすく書いてあった。

 図書室から図書委員以外の生徒が帰って俺達は日誌を書き始めた。と言っても俺は書き方もよくわからないから竹中を見てる事しかさっきからしていない。

 委員会の活動も本人は言ってないが、きっと俺に見えやすいように仕事をしていてくれた。丁寧な説明の紙、仕事のやり方きっと竹中は実際いいやつではあるんだ。

 本人もまわりも関わろうとしないだけだ。

「あのさ、」

 カツカツと字を書く音だけが鳴り響く。

「おい、竹中。」

「......なに。」

 いやいやそうに応えてはくれた。実際俺は何かを言いたかったわけでもなかった。ただ、そうきっと間がもたなかったんだ。

「あっずっとやらせるの悪いから代わるよ。」

 咄嗟だったがいい事言えたんじゃないかと思った。

「いや、私がやった方が効率いいしいいよ。」

 確かに効率は竹中がやった方が何倍もいいだろう。俺は少し返す言葉がわからなくなった。

「......やりたいならやれば?」

 俺のきっとやり場のないこの気持ちがきっと行き場を求め顔に出ていたらしい。竹中は少々面倒くさそうに俺に聞いてきた。

 俺は俺でその仕事が大好きなわけでもなく、ただ間が持たなくて言い出したことだった。それでもここで断るのはまた変な行動だ。

「あっうん、ありがとう。」

 俺は日誌とペンを貰って書き始めた。

「ねぇ、」

 突然声がした。と言っても図書室には俺と竹中しかいない。その呼びかけが竹中のものだとわかり俺は正面の竹中を見た。

「ん、どうした?」

「遥くんはさ、なんで私を嫌がらないの?」

 驚いた。話しかけてきたのもそうだけれど、今まで基本無視してきた人間を下の名前で呼ぶとは。

 そして人は自分を嫌うのが当たり前というように話すのも竹中らしいと思った。

「別に嫌いじゃないよ?」

 少し笑いながら言ってやった。予想通り不思議そうな顔をしていた。

「俺は君を、竹中真咲を知らない。繋がりがない人間を嫌わないだろ?」

 そう俺達には何もない。ただただクラスが一緒で、ただただ図書委員が一緒なだけ。何も知らないし、何の繋がりもないのだ。

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繋がりをもとめて 夜久燐 @rin2056

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