エンディング
エンドロール
それからしばらくして、再び惑星接近の日がやってきた。
〈惑星エフ〉でジジジクが覗き込んだ望遠鏡の先には《ジェヌ》だけでなくスレツとライニーカールも一緒だった。ジジジクはその光景を見て自分の事のように喜び、そして感動した。本当に本当に、二人は成し遂げたのだ。
次の交信時にはルダやミトヒ、ユーリーにも声をかけ、みなで《惑星ジー》を覗き込んだが、その時スレツとライニーカールはすでにどこかへ旅立った後だった。
二人がどこへ向かったかはわからない。しかし二人が次なる目標に向かって取り掛かりはじめたのだとしたら、自分はまた二人に会うことができるだろうと、そんな不確かな確信をジジジクは持っていた。
――そして、あれから何年か経った。
〈蒸気機関車〉が運んでくる大量の物資が、王都にさらなる繁栄をもたらしている。ジジジクがこの発明を王都に持ち込んでから、王政は戦争に興味を失っていた。ただし、代わりにリードデッヒ統治王国は経済的な面で完全に世界の主導権を握っていた。それは当時のジジジクから王政への一つの提案で、前時代的な戦争による統治からの脱却について〈蒸気機関車〉の可能性を踏まえ王とジジジクで対談をした結果によるものだ。この後の王の協力もあり、ジジジクはスレツたちへメッセージを送るパフォーマンスを短い期間で実現させている。
そしてリードデッヒ繁栄の恩恵は今や領内に留まらず周辺国を巻き込んで、経済的あるいは新しい文明的な潤いを人々へもたらすに至っていた。
「ミトヒ、乗った?」
「後部座席、オーケーです」
ジジジクとミトヒは、このたびジジジクが発明した〈プロペラ機〉に搭乗していた。ガソリンを使った〈エンジン〉がプロペラを回している。ちなみに、限りなく精巧な機関である〈エンジン〉を生み出せる技師は当然彼以外にいない。〈エンジン〉には〝
「行きましょう、ジジジク。この〈プロペラ機〉にライニーカールさんの〈グライダー〉のような頑丈さはありません。彼女たちを真似て強引に乱気流に突っ込むことはできないので、ミトヒの計算によると、星間移動のタイミングは限られています」
なお、当時ライニーカールが実証した〈ユーリー効果〉は、未だ誰も再現できずにいる。
ゴーグルを目に当てたミトヒに、ジジジクが親指を立てて答える。
〈プロペラ機〉はこの時の初フライトで墜落し大破したものの、数か月後の再挑戦でジジジクとミトヒは《惑星ジー》へと向かった。
ジジジクとミトヒが旅立ってから、ついに一人になってしまったルダは、エルラミドの隠れ家的な工房の中でひっそりと合金にやすりがけをしていた。工房の壁には、数多くの生きた工具に紛れ、国やなんかから表彰され授与されたトロフィーや盾やメダルが飾られている。しかし、それはルダにとって栄光などではなかった。もちろん大切なものに他ならないが、自慢すべきものではない。仲間と共に夢を叶えるために必然的に培った技術が偶然にも評価された、いわば思い出だ。
ルダは、星間磁波による嵐がはじまろうとする雲を眺め、少しだけ手を休めぼーっとした。あいつらは、今、どこでなにをしているだろう。きっとおそらくは何らかの発明の真っ最中だろうが、おれの腕がほしくて困っているんじゃないだろうか。たまには手紙くらい――。そしてすぐにハッとして、合金を丁寧に机の上に置いてから工房を飛び出す。
ルダは、スレツたちがよく模型を飛ばしていたあの丘にやってきた。懐かしい残像が丘を駆けまわっているようだ。
ルダは草むらをかき分け、身を潜めているマイマイマイを一匹一匹調べはじめた。
そして、――見つけた。それはガラス瓶を掴んで離さない個体だ。
ガラス瓶の中には何枚折りかにされた紙が入っており、無表情で抵抗するマイマイマイからなんとか瓶を譲り受け、中身を確認してみる。
手紙だ。それはまだ新しく、最近のもので間違いない。手紙には丸い字で、まずはじめにマイマイマイの考察が書かれており、返信の方法も記されている。そして次のページに、こんなことを思いつく唯一の人物の名前と近況と依頼文が書かれていた。
***
挨拶が遅くなってごめんなさい。私はライニーカール。私は何年も前に〈惑星エフ〉から《惑星ジー》へ、空を越えてやってきました。そして私は今、《惑星ジー》でこの手紙を書いています。そう。私はまだそちらへ帰ることができずにいるのです。
おそらくこのマイマイマイは――先の考察で述べたように、このマイマイマイが巣から零れ落ちた時は――エルラミド周辺に流れ着く個体であるハズです。なのできっとこれを読んでいるあなたもエルラミドに関連する方であることでしょう。そんなあなたにお願いがあります。
エルラミドには、ルダという技師がいます。彼にこの手紙と、この次のページに書いてある設計図を渡してください。私たちが〈惑星エフ〉に戻るために、どうしても必要なものがあります。そして、それはそのルダという人にしか(おそらく)作れません。
彼に部品を作ってもらい、そして返信の手順に従って、同じ個体のマイマイマイにそれを持たせ運ばせてください。うまくいけば、私たちはそれを受け取ることができます。
最高の技師に会ってしまうと、あとが辛いわね。
二つの惑星の空を結ぶために。どうか力を貸してください。
この手紙が〈惑星エフ〉の誰かの手に渡っていることを祈ります。ありがとう。
ライニーカール
/ジジジク
/ミトヒ
/スレツ
/xxxxx
(一人だけ知らない言語で名前が書かれている)
***
やがてルダは、ライニーカールの要請通りの部品を完成させ、《惑星ジー》へ送り届けたという。
《惑星ジー》と〈惑星エフ〉の星間交流はそれから数十年後に実現し、活発化する。途中、何度か星を挟んで小競り合いが起きそうになった事もあるが、その時は必ずと言っていいほど、このスレツとライニーカールの物語が語られ、そして収められてきた。
連星(双子)惑星の一生は短い。
お互いの重力で、星の中心が常に不安定だからだ。
しかし、この二人と仲間たちの物語は、それが伝説上の伝記となってからも、双子惑星が誇る文明の象徴として、最後の最後まで語り継がれたという。
星を見上げて - END
星を見上げて ~双子惑星の渚~ 丸山弌 @hasyme
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