第14話 じくじく

「面倒なことになったな」


アリスティアは親指をギチギチと噛みながら呟いた。

勇者たちが“こっち”にいるうちは簡単に屋敷まで連れて来られると思っていたのに、“邪魔”が入るだなんて、血迷う馬鹿がいるだなんて完全に想定外だ、とアリスティアは形の良い眉を歪める。


「サヤ、暫く“旅”に出よう」


「……?」


「スートリアだ、勇者様の仲間を助けるだなんて、どうだ中々……悪くないだろ?」


控えめにコクコク頷くサヤを見て、アリスティアは世界中の不幸せを煮詰めたような笑顔を浮かべた。


「国は、いや、大きな集団は大きければ大きいほど統率されていなければならない、当然のことだ」


「それには絶大な統率力、例えば王聖なる者、或いは圧制者が必要になる」


“小学校の先生”のように優しく教えるような口調で区切りながらアリスティアは踊るように語る。


「王位を継承する資格のある者が複数いるというのは良くない、実に良くない、第一の子が継ぐだなんてのは形式に過ぎないんだよ」


それに、と言ってアリスティアは一拍置き、スゥと口から息を吸い込んだ。


「下の子の方が出来が良い、いや・言い方を変えよう、“巧くやる”だなんて身分関係なく良く在る話じゃないか、まぁどうせ優劣だなんて消去法に過ぎないが」


「反面教師とまでは言わないが、弟や妹は学ぶ者がいるからね“ちゃっかり”利を得ることも多い、そうだろ?

それが大きい話になったとしても全く不思議ではないさ」


目配せでサヤに相槌を求めた。


「戴冠式が延期になったそうです」


「だろうね、あぁ、珍しくベラベラと語ってしまった割には結論が出ていなかった」


アリスティアはいつも通り高慢な笑みのまま、優雅に続ける。


「本人にその気がなくても周囲が勝手に盛り上がるんだよ、絶対的な“ストッパー”がいないと一層

スートリア皇国は現在まさに“ソレ”だ」


「恩を売りますか?」


「ハンッ!馬鹿を言え、随分なことを言うなお前は、私は単に形に拘る性質たちだからね、正義の味方“ごっこ”をやってみたくなっただけさ」


アリスティアは鼻で笑いながらも随分とご機嫌に返す。


「さて、そろそろ勇者様にお話をしなければ、囚われた仲間だなんてまるで典型的なシナリオだが実に良い!面倒ということには変わらんがな……

サヤ、お前も来い、旅の“お仲間”になるんだご挨拶をしておきなさい、ただでさえ客人なのに待たせているんだ、驚きは多い方が素晴らしいだろ」


アリスティアは興奮した様子で一気に言い切ると、サヤのを手首を掴みながら勇者・タイガを待たせている部屋へと向かった。節の多い繊細な鼻歌を歌いながら。

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私が勇者を殺すまで 飴屋スガネ @ameya_S

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