第13話 いらないこと

「メシが不味い」


ロゥロゥがスプーンとフォークを握りしめ立てながらそう言えば、間髪入れずにリリィラが足を踏んづけた。


「エミュー、コレを躾けるのは貴女の役目でしょう?」


「そんな…!私に言わないでくださいよ」


「…リリィラ、お前自分の体重考えッ痛゛ッ!!」


勇者を抜いた五人はあの後早いうちに合流し、古い宿屋の大部屋を借りそこで晩飯を食べていた。


「あら?失礼、脚が長いもので」


「ロゥロゥの食材の見立てが悪いだけだよ!」


「ビタは飲み込めるものなら何でも“美味しい”だけどなぁ」


あまり目立ちたくはなかった彼らが選んだのは、所謂“素泊まり”を選んだので自分たちで買ったものを自分たちで調理して食べていたのだが、


「あり得ないわ、何で今夜食べるのに干し肉を選んだのよ」


「ハァ!?俺に言うな!よく煮る・もっと煮る・煮立たせる!!煮込みまくったのはカーリンだろうが!」


「カーリンに押し付けないで、私は調理法ではなく食材に関して言ってるのよ」


「ビタはウルウが食べたいなあ」


「食事中に騒ぐのはお行儀悪いよ!」


纏まらない。


彼らは元々ワンマン思考の強かった者たちの集まりだったということもあり、自分を曲げない、言いたいことだけ言う、喋りたいことだけ喋る、やりたいことだけやる。


木の幹のような色をした干し肉と、乾燥させた何種類かの豆、それにゴボウに似た形をした味のない野菜(名前もないかもしれない)、それに塩と砂糖とタダで貰った牛の脂、誰かが勝手に買ったよく分からないスパイスミックスを、大きな鍋で水からクタクタのクタクタのクッタクタのグズグズになるまで煮込んだ固形と液体の境目の“何か”が今日の五人の“晩餐”だった。


「皆さんフォーク何に使ってますか?」


「干し肉だろ」


「……繊維になってますけど」


ロゥロゥは気まずそうに自分のカップに並々と入っていたワインを飲み干した。


実は、素泊まりと言っても宿屋の主人が気を利かせ、果物の皮の入った黒いパンとハウスワインを持ってきてくれたのでもっぱらこれらが今日のメインディッシュになっていた。


「この葡萄の酒美味しいね!」


「美味しいねぇ」


五人の中でも比較的穏やかなカーリンとビタはポヤポヤと笑う。


「勇者様は大丈夫かなぁ」


「問題ないでしょう、殺しても死なないわ」


リリィラは小さくパンを千切り干し肉と豆の何かで流し込む。


酒も入っているということもあり、皆んな楽観的だった。




のも束の間



「カーリンッ!!」


部屋の扉を蹴破り、部屋に侵入しようとした何者かが扉に触れるよりも早く組み伏せたカーリンを眼をギラギラとさせながら首を傾げ頓狂な声をあげた。


「ありゃあ?」


咄嗟にカーリンを制止しようとしたエミューも立ち上がったまま凍り付く。


「部屋をお間違えでは?」


ロゥロゥが挑発的に片眉を上げる。


カーリンが組み伏せた以外にも、“何者か”は数人、具体的に言えば五人おり、五人が五人とも騎士のような鎧をつけていた。


「間違え?あなた方はタイガ・ミナミヤ様のお仲間ではなかったのですかな?」


一人が慇懃無礼に笑う。


「カーリン退きなさい」


呆れたようにため息を吐くリリィラ、これだけ騒いで誰も来ないと言うことは人払いでもされているのだろう。


「少なくともあんたにそんな口を利かれる謂れはねぇぞ」


カーリンはリリィラ、ロゥロゥ、自分の真下にいる人間、複数の“騎士”を何度か見てからやっと退いた。


「失礼、此方も上からの指示でね」


「あら?あなた方が何をしたいか一言も喋ってくれないの?その指示とやらを私たちに教えてくださらない?何をすべきか、ね」


「とにかく着いて来てください」


「貴方貴族じゃないわね、さっきから口調で教えるわよ?お仕事出来ない・ってね」


未だにワインを煽りながら微笑むリリィラに相手の顔は真っ赤になった。


そして、そのままぶくぶくと膨れ上がり沸騰した薬缶のように弾け飛んだ。


「泥人形ですか」


エミューがなんともなさそうに呟く。


「残りもそうだろうね」


ビタが頷き、続ける。


「毒泥かぁ、面倒だなぁ」


生き物の死骸の下に出来た泥に毒虫の死骸を混ぜ込み壺に詰め、七回満月が上るまで自分の家の庭に埋める。

そうして出来上がった泥は毒泥どくでいと呼ばれ主に呪術に用いられており、触れた者は毒に侵され七日かけでじわじと全身が壊死していき死に至る。

解毒するには術者が残りの毒泥と聖水を混ぜ同じ壺に戻し壺ごと焼く他ない。


残りの泥人形に爆発されたら解毒の方法は潰えてしまう。


「エスコートしてくださいませんコト?」


ロゥロゥが引きつった顔で笑った。


すると、倒れたままだった一人がゆっくりと起き上がり口を開いた。


「下に馬車を用意しております」


“この子”は人間だろう、毒泥をもろに被っていながらも粛々と喋る“少女”に一同は眉をひそめた。

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