第12話 大雅の話
皆宮大雅は“普通”の高校生だった。
大体四、五人程のグループで固まり、他のクラスメイトとも普通に仲が良く、教師とも普通に交流があり、恋や仲違いも普通にした。
ただ、一つ特筆すべき点は直情的とも呼べるほどの正義感にある。理不尽さや抑圧、そして一方的な暴力や迫害を極端なまでに嫌う様はある種の“潔癖症”と呼べるほどであった。
大雅が“異世界召喚”されたその日、彼は長く続いていた“ある問題”から救おうとした人から裏切られ失意のどん底にいた。
悪意に不慣れであった大雅はよく言えば素直、悪く言えば単純なカモ、人並みに傷つき苦しみ怒りさえすれど、“弱者”に強く出れないという点を突かれればあまりに脆すぎたのだ。
暫くは誰とも関わりたくない。
その日以来、
無意識に人を弱いと見下していたことへの自己嫌悪、裏切られたことへの困惑、誰にも必要とされないことに対する自意識過剰な恐怖、捨てきれぬ承認欲求への怒り、全てが絶望に思えて人生の全てに怯えていた彼は何日も毛布とシーツに包まり過ごしていた。
一生このままでいることは出来ない。
そう考えると胸と胃と頭の奥がグルグルと沈んでいく感覚に飲み込まれながらも、大雅は体を起こす。
実に五日ぶりのことだった。
熱過ぎるシャワーを浴びながらひたすら髪を洗う。
指先のみに神経が集中している気がして、つぶつぶとざらざらのちょうど中間のような感覚が気持ちよくてショリショリとただ無心に指の腹で小さな円をいくつも描いていた。このまま溺れてしまえたら。
そのあとの事はよく覚えていない。
ただ、気づいた時には好きなバンドのライブTシャツとベージュのチノパン、気づかぬうちに着替えたのだろう、天蓋付きの豪奢なベッドに寝かされていた。
「お目覚めですか?」
耳心地の良いテノールボイス、薄いベールの先に居る人物はまるで見計らったようなタイミングでそう声をかけた。
「…は、はぁ、まあ……」
困惑する大雅を見透かすようなクツクツと噛み殺すような笑い声が聞こえる。
「まぁ、ともかく今は眠り給えよ、“彼奴ら”も動くのは
起きたかと聞いてみれば寝ろと言う、その上初めの口調とはまるで違う見下すような物言いも大雅からしてみれば頭にきたが、何より聞きたいことが多すぎた。
「待ってくれ、俺は、こ……こ…、ぅあ、ま……あんたは……誰なんだ…?」
「お前が知るべきことではないよ」
脳味噌が締め付けられるような違和感と激しい睡魔が襲う。
穴へ堕ちていくような錯覚とともに、大雅は再び眠りについた。
「“此処”は“夢の中”だからね」
次に目が覚めた時、大雅は初めに起きた時と全く変わらぬ服装変わらぬ天蓋付きのベッドの中にいた。
ただ一つ違った事は彼専用の護衛係と名乗る朝の庭のように爽やかで清潔な女性が側に座っており、その人は一晩中此処にいたということだけだ。
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