ロベルトとヨハネス 大作曲家たちの大宴会のまえにしみじみと

沓屋南実(クツヤナミ)

ロベルトとヨハネス 大作曲家たちの大宴会のまえにしみじみと

時空を超えたサロンには、今日大作曲家の盛大な催しが開かれる。

まだ時間は早いが、ボツボツ集まりかけているようだ。ピアノの音も流れている。

そこに一人、小柄なドイツ青年が入ってきた。彼は、ほかならぬヨハネス・ブラームスだ。


ヨハネス:あ、あそこで連弾しているのは、リストにショパン。ぼくのハンガリー舞曲! 嬉しいなあ。

どこに座ろうか、隅っこでいいや、カウンターの一番奥の席が地味なボクにちょうどいい。

あー、今日はロベルト・シューマン先生に早めに来ていろ、と伝言をもらったけど……。

期待通りの作曲家にならなかったとか、うちのカミさんのことをどう思ってるんだとか聞かれたどうしよう。


ヨハネス・ブラームスより24歳年上で、作曲家、音楽評論家として彼を強力に推したロベルト・シューマンが登場。


ロベルト:こんなところにいたのか。おお、出会ったときの君だな、ヨハネス。金髪に美しい青い目だ、懐かしい。早く来てもらって悪いな。今日の作曲家大宴会のまえに、君に改めて言いたいことが……。


ヨハネス:ギョッ。先生、期待通りの音楽は作れませんでしたか、お気に召しませんでしたか。


ロベルト:ばかな……、名曲をたくさん残したではないか。君は本当によくやった。素晴らしい、誇りに思うよ。君のおかげで私にも光が当たるんだ。


ヨハネス:私のおかげだなんて……。


ロベルト:クラシックの発展に多大な働きをしてくれたこと、改めてお礼を言うよ。ありがとうヨハネス。


ヨハネス:こんなに褒めてもらえるとは思いませんでした。先生のおかげです。そ、そうだ。先生、クララのことは……。


ロベルト:よくわかっている、とくに私が入院してからの何年かは君なしにシューマン家は立ち行かなかっただろう。カミさんも子どもたちもすごーく感謝している。私もだ。本当にありがとう。

私がすべきことを、君が若い大切な時期を犠牲にしてまで。申し訳ない思いだ。


ヨハネス:ぼくは……。


ロベルト:いいんだ、いいんだ。君は結局第2のクララを見つけられなかった、それは仕方がない。今度生まれ変わったら。


ヨハネス:生まれ変わったら! もしやクララを!?


ロベルト:ふっ(笑)。

クララじゃなくても、新しい時代はクララのように芸術家として、君の良き理解者になれそうな女性がいるはずだよ。きっと君のメガネに叶う女性に出会えるよ。


ヨハネス:(先生は今でもクララが大好きなんだ、生まれ変わっても譲ってくれる気はないんだな)


ロベルト:何だ、何か言ったか?


ヨハネス:い、いえ。そうそう、先生、クララは今日の大宴会に来ないんですか。彼女も作曲家なのに。


ロベルト:ああ、数はすくないが、良いものを作ったと我妻ながら思う(もっと作曲してほしかったな)。しかし、クララは、ヒルデガルド・フォン・ビンゲンやセシル・シャミナード、ブーランジェ姉妹と一緒だよ。ファニー・メンデルスゾーンの誘いで女子会だそうだ。

こっちで男どもに気を使うより、女性作曲家同士、いろいろとね苦労話をしたいらしいよ。


ヨハネス:は……残念。クララに会いたかった……。


どんどん大作曲家たちが現れ、連弾するリストとショパンを見て微笑み、ロベルトとヨハネスにも気が付く。


ロベルト:フェリックス、ここだ、ここにいる。おお、エクトルも来たな。


ヨハネス:わぁ、地上で会えなかった、大先輩メンデルスゾーン!

そして、次から次へと懐かしい顔が。相変わらず威勢よいワーグナーも。ベルリオーズの赤毛、あとで触ってみたい。

グリーグ、チャイコフスキー、ブルックナー、ドボルザーク、ヨハン・シュトラウスにリヒャルト・シュトラウス。すごいなあ。


ロベルト:君だって、彼らに負けない堂々たる大作曲家だよ、胸を張りたまえ。


ヨハネス:いや、ぼくは……。


恥ずかしそうに下を向くヨハネス。

グランドピアノで、リストとショパンがハンガリー狂詩曲を連弾している。


ロベルト:リストとショパンの次は、私たちの番だ、ヨハネス。君の「ワルツ愛の歌」はどうかな。


ヨハネス:先生と連弾できるなんて、あの日以来……嬉しすぎて涙が……

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