カクヨム総選挙 ~催す~

 僕が住んでいるこの星では、★の数によって人気度が計られる。

 ★が多い者が、表舞台に立つことを許され、注目される。

  さながら何処かの星の、アイドルグループの選抜総選挙の様相を呈する。



      ★

 

 今年もまた、恒例となった『カクヨム総選挙(カクヨムWeb小説コンテスト)』の開催が、いよいよ間近に迫ってきた――。


 それぞれの候補者(作者)たちは、得意分野(部門)の選挙公約(作品)を掲げて、これに立候補(エントリー)する。

 この選挙では、まず予選で有権者(登録ユーザー)が、それぞれ候補者の公約を読み、共感を得た、若しくは支持して応援(❤、応援コメント)したい、そんな候補者に投票(★、お薦めレビュー、小説フォロー)する。


 公約の内容によって、合わせて上位組の候補者だけが一次選考(読者選考)を勝ち抜き、本選へと進めるのだ。

 本選へ進んだ候補者は、そこで主催者である運営サイドの選考委員によるシビアで厳正な最終審査を勝ち抜かなければならない。その段階を踏んで当確が決まるのだ。


 ただし、立候補するにも条件がある。

 十万文字以上という制約のある公約を、最終期日までに提出しなければならないのだ。

 最終期日は応募受付期間の最終日となっている。


 また今回から『ちびっ子総選挙(カクヨムWeb小説短編賞)』なるものも同時開催されることとなった。

 こちらの公約は、一万文字以内だ。

 こちらも同様に、最終期日までに公約を提出しなければならない。 


      ★★


 その選挙に当選(入選)すると、地位と名誉と賞金が手に入り、公約が決議(出版)されるのだ。ともすれば〝先生〟などという称号を与えられることにもなりかねない、年に一度の一大イベントだ。

 そのためか、その選挙運動合戦たるや凄まじいものがあると聞いている。

 各々候補者は、自分にとって有利であろう最善の策を練り、効果が期待できると思われるすべての手段を講ずるのである。


 もちろん正攻法で闘うのは当然のことなのだが、このような選挙では決まって、良からぬ臆測が巷衢ちまたを飛び交うことになる。

 飽く迄も噂の域を出ない話ではあるが――残念のことに、過去には不正を働くやからもいたと聞く。

 一個人が不当な手段により多数の投票権を得る(複垢)、候補者同士が互いに票を入れ合う(相互)――などの不正がまかり通る、そんな選挙制度自体に問題ありと見る論争はさておいて、そもそも本来は肝心要の公約の内容が、一票を投じるかどうかの論点となるべきところなのだが……。

 そこに不正が生じるのは、このような謂わばランキング形式(読者投票数)において特別なことではない。このような弊害は必ず付いてまわるのである。

 まあ、それもある意味、熱意(利権)から出た戦略・戦術のひとつとして捉えられなくもないが、果たしてそれで良いのかは別問題である。

 ダークな部分は、どんな選挙にも付いてまわるものなのだろう。


 とはいえ、正攻法で戦っている候補者にとっては堪ったものではない。不平不満が募り、不信感と動揺が蔓延していくことにもなる。ともすれば、それは有権者(読者)にとっても候補者(作者)にとっても、決して良い結果には繋がらないものになるだろう。

 公平で適確な判断とは――このようなランキング形式での選考がもたらす弱点がここに露呈する。

 本選に辿り着くには、先ずは(一次選考)を通過しなければならないのだ。

 その段階での不正がこのまま続くようであれば、この選挙自体の本質が問われることになるだろう。

 

 票集めや、宣伝活動を行うにも、団体に所属している者のほうが当然有利であるという事実は否めない。

 それこそ、この期間中は、各候補者が頭をひねって様々な手段を講じての争いが繰り返される。


 早く名を売るために先行して公約を発表するもよし――。

 新しい公約を掲げて立候補するもよし――。

 宣伝活動に勤しむのも、自分が優位に立つための手段を講じるのも、それこそ当選を目指す熱意の表れか?

 各々の候補者による、選挙合戦の方法論なのだ。


 どれが、有効であるか否かは結果を待つしかない。


 支持母体や後援会も無く、正真正銘の無所属の候補者にとっては、この選挙の形式は最初から不利であることは言わずもがなである。


 既に固定票を持っている人、名前の売れている人、団体に所属している人にとって有利な選挙――。


 第一回のときに、ひと騒動あった(複垢による不正票や、相互評価、爆撃の)問題や疑惑はいったいどうなったのだろう……?

 今回は大丈夫なのだろうか?

 対処策は万全なのだろうか?


 この星の国でも、『見える化』が望まれているように思うのだが……。



      ★★★


 カクヨム総選挙開催――。

 カクヨムのセンターを勝ち取るのはいったい誰か?


 投票期間は五十日間。

 大きなイベントである。


 ――で、お前はどうするんだ、って?


 僕はまだ思案中である。

 支持母体の無い無所属候補者だし、現状では立候補するかの決意はついていない。それよりもまだ公約すら完成していない段階なので、目途が立つまで地道に頑張るしかない。


 ――で、見込みはあるのか、って?


 こればかりは誰にもわからない。だけど挑戦するだけでも価値があると思う。

 期間中、あれやこれやと楽しむことができるしね。


 ――結果を楽しみにしている、って?


 ありがとう! でも、まだどうするかを決めかねている段階だよ。


 

      ❤


「この度、立候補致しました無所属新人――ながつかなおやー。ながつかなおやが皆様に立候補のご挨拶とご支援のお願いに参りましたぁー。どうか皆様の暖かいご支援、ご支持を宜しくお願い申し上げます!」


 というわけで、 無党派層の、わずかな支持者たちの温かい愛に包まれて、『選挙カー』ならぬ『ママチャリ』に跨がって、選挙活動に日々勤しむ〝ながつか〟であった――。


 だが、肝心の〝ながつか〟本人は公約と呼べるレベルのモノは、まだ一文字も書けていないのである。



     <了>


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われらカクヨム星人/Our the KakuYomu alien 長束直弥 @nagatsuka708

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