第二次世界大戦の影響、それは何も戦地や人に及ぶだけのものではない。日本中、いや世界中を動かしうるその最先端に、「彼ら」はいる。
陸軍が生んだ幻のスパイ組織「無番地」の青年たちは、誰もが羨む能力を全て備えた精鋭たち。高級官僚への切符をいとも簡単に捨てた明智は、「日本を陰から直接動かす」諜報員として暗躍し始める。
そんな明智には、ある欠点があったーー。
スパイという生き物は、信念のためならどんなことだってする。人間として失格であっても、スパイとして合格であればその道を選ぶ。
それが定説といっても過言ではない。が、この物語は違う。
スパイである前に人であれ。
人間離れした能力を持っていても、その裏に必要なのは人間の心。
スパイにとって非常に難しい理念を持ちながら、「人間として生活しながらのスパイ活動」に励む面々たち。そして、人間離れした活躍。
濃い、濃い、とにかく内容が濃い。
カクヨムの中でも珍しいミステリの中でも、ひときわ際だつ作品です。
カクヨム史上最高のスパイ小説であると、断言しても良いでしょう。
とにかく最高でしたので、続きを待っております。
いや、続きがないとか関係なく待っております。
戦前の空気といえば軍靴の音などに代表される不穏さがまず出てきますが、ここに描かれている世界はその基本を抑えつつも、筆者の遊び心がふんだんに込められているなと思いました。
ちょっとタイトルからはギャップのある作風なんですけど、しかしそこがいいです。なんというか軽さがあるんですよね。その空気がステレオタイプな既存作品の上に積み上げられている感じです。とはいえシミーズや省線、無線機なんて単語を積極的に使ってるあたり、ああ凝ってるなあ、好きなんだろうなあ、と思ってしまいました。私もこの時代好きなんで楽しかったですね。
で、そのベースになってるのはやはりキャラクターですね。ミステリでもあるのですが、これはキャラクターです。キャラクターがいい。現代風で女性受けしそうな容姿、抜けた性格。周囲もそれにフィットした感じでドラマを盛り上げてくれるのがいい。食べたいものを食べてなにが悪い(笑
大きく動いている時代を軽やかに飛び交う登場人物たちは、時に人情ものを演じたりブロマンス的な雰囲気を出してきたり。硬派でお茶目で楽しい作品です。ぜひ読みましょう。昭和15年を好きな人も、そうでない人も。
随分と前に放送された深夜アニメ「ジョーカーゲーム」に表面上は似ています。戦前戦中に暗躍した日本の諜報機関が本作品の舞台です。
江戸川乱歩の明智小五郎をイメージした方は最初に肩透かしを食うかも知れませんが、読み始めれば直ぐに嵌ると思います。寄って来た探偵小説ファンを裏切る事は無いでしょう。
諜報事件を題材にしているものの、最大の魅力は機関所属員たちのキャラです。思わず声援を送らずには居られません。
本作品はオムニバス形式なんですが、飛ばし読みは勧めません。エピソード毎の緩急が心地良い。作者の計算したレールに身を任せるのが妥当です。
最後のエピソードは胸を熱くしますよ。そんな心意気の諜報機関が存在していたなら…。後の歴史を知る我々は、だからこそ、登場人物たちを応援してしまうのかも知れません。
主人公は明智湖太郎は皇国共済組合基金に勤務する青年。
しかしそこは表向きは陸軍の福利厚生を業務としているが実はその実体は「無番地」と呼ばれる陸軍中野学校傘下の諜報機関であり、彼もそこに所属するスパイの一人です。
物語は憲兵隊の大佐の娘に脅迫状が届き、明智が護衛を命じられるところから始まります。
冷徹で隙のないハードボイルドな男たちの血を血で洗う暗闘が描かれることになる……のかとおもいきや、主人公はスパイでありながら女性が苦手で真面目気質で自分より有能な同僚にコンプレックスも抱いている、人間味あふれる人物です。
展開も「犯人当て」や「暗号解読」などミステリ要素を交えつつ、個性あふれる仲間たちと事件を解決していく、良い意味で重い展開にならない読みやすさがあります。
ストーリーとしては五つの中編となっていて、アクションもあればコメディもありロマンスも絡めている飽きの来ない構成です。
文章も昭和中期のどこか危うい時代の雰囲気を醸し出しながらも、丁寧に人間描写がされているため、とても入りやすく楽しめる物語となっております。
最後までスムーズに楽しむことができました。